【山形 巧哉 編】第3回:まちづくりに気づきを与える住民と観光客の視線とは

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-02-18

山形 巧哉氏
山形 巧哉氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

山形 巧哉

山形巧哉デザイン事務所 代表社員
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
北海道森町 政策参与

山形 巧哉
  • 北海道森町出身。自治体職員として、行政や教育現場でのデジタル技術活用や構築に関する実務経験を重ねながら、その経験をもとに、地域社会においてデジタルをどのように結びつけると良いかという実験・実証を行う。
    独立後は社会ニーズや技術進化により変わりゆく「公共空間」に関し、研究調査・計画・設計・実証・実装といった多角的な支援を行っている。座右の銘は「まあすわりなよ」
    合同会社山形巧哉デザイン事務所・Code for Japan・国際大学GLOCOM客員研究員・公立はこだて未来大学アソシエイト・デジタル庁オープンデータ伝道師

第2回では固定メンバーに偏らないまちづくりについてお話しを伺いました。ほかに理想のまちづくりを実現していくのに必要な要素にはどのようなものがありますか?

山形

自治体の中で仕事をしていたときよりも、独立してからより感じるようになってきたのですが、様々な地域を訪れるなかで、そのまちに住んでいる住民の視点と、観光客の視点が異なるということを実感するようになりました。「ここではどちらの視点に立ってまちづくりをしているのかな」と疑問を感じることもあって、様々な側面から考えるようになりました。

まちづくりというのは、普段からそこで暮らす住民のみなさんに「住みやすいまちだ」と思って欲しいという一方で、観光などで訪れるみなさんにも「良いまちだ」と思っていただきたいという、両面があると考えています。どちらを重視するというよりも、どちらの側面も大切なものとして、ちゃんと循環させていくことが必要なのではないかと思っています。

最近ではインバウンドの問題などもよく話題になりますが、それは本当に問題なのかということもあるかと思います。一面ではそれを望んだということもあるでしょうし、そのあたりも掘り下げて考えなければいけない時期なのではないかとも実感しています。

最近、京都など有名な観光地でのオーバーツーリズムの問題をニュースで見る機会も増えています。観光客には来てほしいけれども、もともと住んでいる人がバスにも乗れないような状況では困るという、難しい課題が浮き彫りになっているとも聞きます。

山形

日本では同族的な文化のなかで生活してきた時期が長かったと認識しており、外国・日本国内の他地域からかを問わず、外部から来た観光客とそういう問題が起きたときの対処の仕方に慣れていないということもあるかもしれません。もちろん、同族的な文化の考え方を否定するつもりはありませんが、これからの生活では様々な交わりを考える必要があると思います。

特に行政に携わるような立場であるならば、そういう観光客との距離感であるとか、考え方をよく知る必要が出てきているのではないかと思います。これに関しては時の政権や社会の雰囲気に流されるのではなく、しっかりとそれぞれの地域の行政で考えるべき問題だと思います。

それを考えるためにはあらゆるデータが必要ですが、現在は行政の情報共有が圧倒的に足りないと思います。どうしてそういうことを重視するかといえば、行政はデータベンダーであるという側面もあるからです。

私自身が森町で暮らしていて「このまちいいな」とか「住みやすいな」と思うのは、例えば「函館圏に近いから商売をやってもまだ成り立つよね」などというように、行政から発信されるデータを元に見込みを立てて、「じゃあここで暮らしても安心だな」と考えられる点も大きいと思います。

デジタル、紙媒体など様々な情報があると思いますが、そのためのデータはどのような形で見ることができるのでしょう?

山形

圧倒的にデジタルデータの方が活用はしやすいと思います。紙の情報しかないような場合には、生成AIの力なども借りて行政は積極的に構造化データに変換して市民に供給する必要があると思います。

日本では、先人の努力もあり、職業選択の自由があり、住む場所も自分で選ぶことができます。もちろん、それにはいろいろな制約がある場合もありますが、基本的には自分の判断で選べる。だからこそ、その判断を支えるデータが重要です。最初は「この街いいな」といった感情的なものかもしれませんが、データがあるとなぜ自分がここが好きになったのかという検証も可能になるかもしれません。

感情的と言えば、観光客、特にインバウンドの方々への対応もそこには多分に感情的な部分が含まれていると思います。先ほどのオーバーツーリズムに関しても、キャパシティの観点ではなくマナーを問題とされていることも多いと考えており、訪れるインバウンドの方々に対して、「日本の文化やマナーはこうなっています」「我々はこういう価値観を大切にしているので、そこは否定しないでほしい」ときちんと発信していくことも大切だと思います。観光客向けにこういう働きかけを行政が率先して情報を開示していくことで、摩擦を減らしていくことができるはずです。

以前、地域起こし協力隊のお話しを少ししたかと思いますが、よく「郷に入っては郷に従え」といわれることがあります。ではその「郷」、すなわち街がどのようなものなのか、少なくとも地域おこし協力隊を募集していますというのであれば、十分な情報発信、データの提供があれば誤解が減るはずです。

昔からよくいわれることですが、行政には「隠蔽体質」といわれるように「データを出すことを怖がる」というところもまだあると思います。しかし、行政はしっかりとデータを示したうえで、発信していく必要があるのです。例えばそのデータを常に見ている人は少ないかもしれませんが、必要になったときにすぐ見られる環境というのが大事です。

その意味では、東京都はかなりオープンな自治体の集まりだと思います。これを地方でもすべてできるかというと難しい面もあるかもしれませんが、見習うべきところは非常に多いと思います。都内の市区町村は基本的にデータや情報をバンバン出してくるし、「この情報をください」とお願いすれば、出さないということはまずありません。

地方自治体の首長のせいというわけではなく、必要なら「情報を開示してくれ」ということをきちんと声を上げていくべきです。そして数値などのデータをみれば、「意外と行政はしっかりやっているな」ということも多いと思います。

いずれにせよ、これからのまちづくりを考えるために必要なデータを集めるには、データベンダーとしての行政がおこなう、積極的な情報開示が大前提になるのだと考えています。

行政の情報開示によってその地域の住民が自分たちの住むまちをきちんと見直していくことができれば、その地域を再評価することもできるということかと思います。観光客などの視点もそこには入ってくるのでしょうか。

山形

住民も時には新鮮な目で地元を再評価することは大切だと思います。そこに観光客や移住者などの来訪者の視点が加われば、そういった方々の評価をさらにプラスして住民の暮らしに還元していく循環が起きてくると思っています。

これまでも日本各地を見てきましたが、高知県のあるまちでの事例で面白いものがありました。

一般には行政が策定する「総合計画」を、佐川町では住民も行政も一緒になって“みんなでつくる”を掲げ、2014年頃から2年をかけて策定し、2016年度から10年計画として動かしていきました。計画には行政施策の指針となる本冊に加え、町民が主体的にアクションを起こすための「町民向け別冊」まで用意されていました。

興味深いのは、その後に町長選で現職が敗れる政権交代が起きても、計画自体が「配って終わり」にならず、折り返し時点で中間評価が公表され、さまざまな分野で“生活の変化”が語られている点です。また、来訪者の視点が入りやすい取り組みも、住民の暮らしへ還元する文脈で位置づけられています。

さらに現在は、第6次総合計画の策定に向けて住民ワークショップの募集も行われています。住民参加でつくり、途中で検証し、更新していく。こうしたプロセス自体が、行政の情報を住民が“自分ごと化”し、地域を再評価していく土台になっているように見えます。

とても興味深いですね。行政と地域住民がまちを見直すきっかけとなるような取り組みや事例はほかにもありますか?

山形

しばらく前にかなり話題になったことですが、佐賀県武雄市で民間企業のTSUTAYAの経営母体であるCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)が指定管理者となった武雄市図書館がオープンしました。当時はかなり賛否の声もあったのですが、いまどうなっているのかと武雄市を訪ねてみたのです。

すると、現在も地元住民の方が大勢集まる場所になっていて、市民の施設として完全に定着していることが実感できました。図書館が本来持っている「知の集積」という観点での批判はあるかもしれませんが、人々が集う「場」としては成功している実例だと思います。

前評判は賛否あったことを知ってはいたので、「もしかしたら、すでに閑散としているのかもな」と推測しながら尋ねてみたものの、実際には多くの人が訪れており、私個人的には武雄市図書館についてかなりの好印象となりました。

ちなみに、カフェの店員さんに「遠方からこられた方ですか?」と声をかけられたことをきっかけに、なぜわかったのか、ここにいる方々の属性はどのようなものかなどを軽くお話を聞かせていただきましたが、結果として、市民の皆さんがここに集っていることを知りました。

市民が楽しそうにそこに集う様子とともに、私のような観光客が同時に過ごせる状況を実際に体験し、暮らしやすそうなまちだという感覚を得ました。

いっぽうで、行政の力だけで大きく立派な図書館を作ってみたものの、その後はあまり人が集まらなくて閑散としているような施設もあるといいます。

もしかすると、批判や現状も含めて行政が積極的に情報発信を続けていれば、状況は変わったかもしれません。また、そこに住まう市民や観光客の声をきちんと聴き、改善していけば使われる施設として再認識されることもあったと思います。

いずれにしても、きちんと情報を開示し、住民の目と観光客の目の両方の視点を持ちつつまちづくりを進めていくことが大切だと実感しています。

今回もありがとうございました。次回もまちづくりのヒントになるような話題をお聞かせください。

連載
  1. 第1回:小さな町から始めたDIY行政ネット改革
  2. 第2回:「まちづくり」を阻む壁を取り除くデジタルテクノロジー
  3. 第3回:まちづくりに気づきを与える住民と観光客の視線とは

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