【山形 巧哉 編】第1回:小さな町から始めたDIY行政ネット改革
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2025-12-11
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
山形巧哉デザイン事務所 代表社員
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
北海道森町 政策参与
- 北海道森町出身。自治体職員として、行政や教育現場でのデジタル技術活用や構築に関する実務経験を重ねながら、その経験をもとに、地域社会においてデジタルをどのように結びつけると良いかという実験・実証を行う。
独立後は社会ニーズや技術進化により変わりゆく「公共空間」に関し、研究調査・計画・設計・実証・実装といった多角的な支援を行っている。座右の銘は「まあすわりなよ」
合同会社山形巧哉デザイン事務所・Code for Japan・国際大学GLOCOM客員研究員・公立はこだて未来大学アソシエイト・デジタル庁オープンデータ伝道師
小さな町が始めたICT活用の第一歩
山形さんは北海道の森町役場に長くお勤めだったと伺っています。最初に、森町役場で働くようになったきっかけや、そこからITに関わっていくことになった経緯などをご紹介いただけますでしょうか。
現在の私は自分の会社である「山形巧哉デザイン事務所」の代表であると同時に、一般社団法人コード・フォー・ジャパンのスタッフでもあります。そしてこれは最近の出来事ですが、かつて勤めていた北海道森町の特別職「政策参与」としての活動もしています。
いわば、古巣に戻ってきたような形ですが、そもそも私のキャリアは森町からスタートしました。生まれも育ちも森町ですが、最初から役場に勤めようと考えていたわけではなく、若い当時は理美容の世界に進みたいと考えていました。進路についてはいろいろと悩みましたが、最終的に森町に残るという選択をしました。
地元に残るという決意をしたのは高校3年生の夏です。動き出すのが遅くなったこともあり、選べる就職先はさほどありません。当時の担任教諭の勧めもあり、公務員試験を受けることになり、最終的に森町役場に職員として入職することになったのです。
業務を始めた頃は地域社会の様々な活動に参加したり、お付き合いがあったりで若さゆえに嫌になっていたことも正直言ってありました。ところが、町営住宅を担当することになり、そこへ住むお年寄りたちと話をして、問題があれば解決するといった取り組みをしていました。仕事がうまくいけばお礼を言われることもあり、うれしそうなお年寄りの表情を見ていると「公務員も悪くない」と思うようになりました。最終的に20年以上勤めたのですから、この時の体験が一番の財産になったのかも知れませんね。
胸が温まるお話ですね。町営住宅担当の後にICT関連の業務もやられたのですか?
入職してからほどなくし、「LGWAN(総合行政ネットワーク)」の導入が始まりました。その当時の森町役場には各フロアにワープロが2台ずつあるぐらいの状況で、様々な書類は手書きで対応していた時代です。まったくのゼロといってよい状況の中、パソコンの導入や電子メールから始めることになり、まずは役場内のLANが必要だということになりました。
プロジェクトチームが発足しましたが、当時もっとも若手だった私はそこへ入ることになりました。個人的にパソコンが好きでしたし、グラフィックデザインにも興味があり、Adobeソフトウェアのいくつかを購入して、Windows PC、Macの両者も体験していました。そんな背景もあったので、役場の情報担当になったというのが実際でした。
とはいえ、LANの敷設は初めてだったのですが、ICT関連への予算は少なく、なんでも買えば解決とはなりませんでした。業者のみなさまに相談すると、買えないなら自分で作るしかないと、技術的なことを教わりながら手作りで進めていきました。このときに、業者さんとの協力関係や実務を覚えていくことが大きな財産だったと思います。
役場内ネットワークを構築していくことで、ICTインフラのすべてを覚えていったのですね。
はい。役場のLAN環境を構築するため、当時先進的だった隣町に、LANケーブルの作り方やはんだ付けの方法など、さまざまなことを学びにいきました。その中で、民間のブロードバンド誘致活動の話なども聞き、森町でのADSL誘致活動の際に少しだけお手伝いなどもしていました。そうした運動の経験から、国から有利な補助金が出ることとなった際に、当時の上司と相談しながら町内全体に光ブロードバンドがいきわたるよう、工事を進めていくこととなりました。結果的に町内のすべてに回線が行き渡ったので大きな取り組みになったように思います。
ちょうどその頃HPさんと繋がることができて、マルチポイントサーバの構築などの話を聞いたり、役場のコスト削減やセキュリティ向上のためにシンクライアントを考えたり、町の将来がICTによって明るくなるような取り組みをしたいと考えながら、様々な施策をやっていきました。
そんなこともあって、当時は最先端な動きをしていたと周囲から評価をいただくこともありました。もちろん、もっと先を走っている自治体様もいらっしゃいましたが、森町は小さいながらも自治体としてがんばっていたと思っています。
DXを突き詰め理想の世界を目指す
様々な取り組みをされてきましたが、退職されました。これはどういった理由があったのですか?
20年勤めましたが、2021年に退職することにしました。コロナ禍の中でいろいろと思うことがあり、独立して活動したいと考えたのです。退職後はコード・フォー・ジャパンに所属することになり、そこで心機一転、チャレンジしていくことになりました。
公務員時代を含めて、10年ぐらいの間にDXビジネスやICTについて様々な場所で講演することも多かったこともあり、地域情報化についてアドバイザーのような活動もしていました。
ほかの自治体の方々と触れ合う中で、DXはひとつの町やひとつの地域だけでおこなうものではないと感じていました。森町を例にすると、日常の生活を続けるうえで買い物をするのに森町だけではなく、凾館までいく家庭がほとんどです。ですから、森町だけで完結することはなく、もっと大きな「函館圏」が生活圏というイメージです。
ところが職員には自治体としての境界があって、その範囲でしか行動できません。私がDXとして感じている世界と実際の環境とでは違いがあるのではないかと考えるようになりました。森町にいる自分に他の自治体の方が相談にこられても、森町が解決して差し上げることはできません。なんとかうまく解決できる方法はないかと考えましたが、職員のままではどうすることもできないと実感しました。方法がなければ、職員の立場を離れて行動するしかないと考え、退職を決意したのです。
一大決心だったと思いますが、その後は順調なのですか?
いえ、決して平たんだけではありませんでした(笑)。特に、地域情報化アドバイザーを退任させていただいてからは、日本全国の幅広い小さな悩みなどを聞けるチャンスが少なくなりました。
そのかわり、現在では順調に各地の自治体様個別のアドバイザーのような役目をいただいて仕事をすることが多く、デジタルに限らず、より深いところまで現場を見ることができるようになりました。現在はこのような現場起点の知見を体系化中であり、これらを元にすることで地域の境界なくシームレスに、便利にすべての住民が暮らせる世界へと近づいているのではないかと考えています。
DXを突き詰めると「きちんとしたまちづくりをしていく」ことになると思っています。私の会社では、コンサルティングというよりはシンクタンク的な役割を持ち、自治体のみなさまと一緒に調査研究をおこなうようにしています。自治体職員の立場を離れることで、活動は日本全国へと広がりました。今後も研鑽を重ねてゆき、すべての人がICTによって暮らしやすい世界を目指して活動を続けていきたいと思っています。
山形さんがどのように考えて独立されたのか、何を目指しているのかよく理解することができました。ちょうどお時間となりましたので、お話の続きは次回へ持ち越しましょう。本日はありがとうございました。
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