【藪上 憲二 編】第4回:他力本願も大いにあり!自治体のIT人材育成を考える
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-03-06
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事
- 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。
IT関連部署の現場の実情
前回は自治体のなかでのIT関連部署の位置づけのようなものを伺いましたが、そこで仕事をする職員の方というのはやはり育成なども必要になってくると思います。人材確保や育成などについて、実情はどのようになっているのでしょうか。
前回、役所では定期的な異動があるため、IT部門に必ずしも適した人材が来るわけではないというお話をさせていただきました。
私がいた役所の場合は大規模団体ならではの事例だと思いますが、一時期直属の上司がIT系企業の出身の他、同僚にもIT企業に出身者も複数いたため、そういった意味では内部の意思疎通やスキルの面でもうまくいっていました。こういう経歴のある方の方が、自治体のIT部門では活躍しやすいという面は当然あると思います。
とはいえ都合良く前職がIT関係だった人が来るわけではないので、どこの自治体でも人材の育成や確保については苦労していると思います。実際のところはどうかといえば、役所のなかで「ちょっとあいつパソコン詳しそうだからやらせてみよう」というようなレベルで担当になるようなことも多いと思います。
これは自治体の規模によっても大きく影響されますが、大規模な自治体になるほど業務は細分化されています。このためIT関連部署としても、「ここはこの人の担当」という具合に、それぞれ任せる場面を分けていくことができます。
ところが小規模な自治体では少ない人員でITに関することをなんでもやらなければいけないので、まさに「ひとり情シス」の環境になってしまって、最悪の場合では何も分からない状態で全部任されて、結局よく分からないで困ったという状況にも陥りがちになってしまいます。
デジタルネイティブ世代の人材育成
これからは「デジタルネイティブ世代」と言われる人たちが役所にも就職するようになってくると思います。こういう世代が入職してくることについて、どのようにお考えでしょうか。
そういった考え方もあるのですが、実は私はそれについては危惧を感じています。
なぜかというと、確かにその世代の人たちは幼い頃から電子機器に触れていて、スマホやタブレットなどを自由自在に使いこなしていると思います。ただし、それはあくまでも「消費者」として活用しているケースに限られることが多いのです。
例えばスマホであればアプリをフリック入力などで使うことが当たり前で、そういう人は基本的にキーボードを使うことがありません。また、サービスの提供者はネットワークがどうやってつながっているのかなど、ユーザーになるべく意識させないような仕組みになっているため、それについて考えることもありません。つまり知らないだけでなく、そこに関心がないということが問題になると考えています。
自治体のIT関連部署で働くためには、ITインフラがどのように成り立っているのかといった、下部のレイヤーのことを理解している必要があります。しかし一般的にデジタルネイティブ世代と言われる世代の中にも、ゲームやSNSなど上部のレイヤーしか触ったことが無い人もいるでしょう。さらにWi-Fiの環境しか使ったことがなくて、そもそも有線LANなどを触った経験すらない人も多いのではないかと思います。
そういった意味では、デジタルネイティブ世代だからといって、急にITスキルの高い人材が増えるとは思えないところがあります。特にITインフラ系は地味ですし、人気があるとはいえません。
もし上長になって若手を育てるとすれば、育てられる側の意識によるところも大きいと思います。ITに限った話ではないですが、いくらこちらが育てようと思っても、思うように育ってくれないことが多いです。
伸びる素質を持った人材を見極めて、その人をどのように引き上げていくのかが求められていると思います。もちろん、それは非常に難しいことではありますが、私の経験では最終的に「ITに関して少しでも興味を持ってもらう、好きになってもらう」ということに尽きると思っています。そのためには、「達成感を感じてもらう」ようにすることが大切だと考えています。
ITの場合にはトラブル解決でもITインフラの設置でも、結果が目に見える場面も多々あります。そういったときに、「自分の力で問題解決に貢献できた」ということを実感してもらえば、徐々にでもやりがいを感じてもらえるでしょうし、スキルアップも実感してもらえるかもしれません。こうした「小さな成功」を積み重ねていくことが、結果的にモチベーションの向上につながり、優秀な人材育成のポイントになっていくような気がします。
定期的な異動で配属された人材の適性を見極めるにはどうすればよいのでしょう?
適性というか、適応性といった方がいいのかもしれませんが、とにかく「ITに関してアレルギーがない人」が向いていると思います。
最初から「自分には向かない、無理」というような人がIT部門にきても、それはちょっと厳しいと思います。これはもう個人の性格とか思い込みというところなので、なかなか他人がどうにかできるものではありません。
ITに関する技術は後から身についていくものですが、最初に技術があるかどうかではなく、取り組む姿勢や挑戦する性格などがいちばん大事だと思っています。突き詰めていけば、そこに好奇心があるかどうか、といったことが大切です。
極端にいえば性格さえ向いていれば、どんどん勝手に伸びていく側面もあると思うので、そこは適切にサポートしながら育成していけばよいと思います。
IT企業などでは人材育成のカリキュラムを作っていたりしますが、自治体に関していえばIT部門専用の研修はほぼゼロだと思います。配属されてから、前任者に話を聞くくらいしかできないので、適性がない人が育つにはなかなか厳しい環境だと思います。
最悪なパターンになると、前任者がすでに不在なケースや、急に辞めて引き継ぎもされなかったケースもあり得ます。そうなるとITシステム全体がブラックボックスになってしまうので、そこで詰むということにもなりかねません。
そのような状況になっても、IT人材育成のためのカリキュラムを導入しようという話にはならないのでしょうか。
結局、それを実現するためには予算と人が必要になってきます。行き着くところはお金と人の話ということになります。さらに研修を受けるためには通常業務を休むということになるので、人手が足りないということにもなります。
一般的に3~4年くらいは同じ部署にいるのですが、長い人だと10年近く、いやそれ以上もいる場合もあります。この場合は、「この人が抜けると代わりがいない」ということでもあります。
それだけの期間を務めるのですから、本来は最初の数カ月~半年くらいを費やして、きちんと研修を受けさせてスキルを身につけてもらった方がいいとは思います。しかし、業務の忙しさと予算不足によってそれがかなわないというのが実情でしょう。
IT関連の業務はある面では職人の世界のような感じもあるので、親方について仕事を覚えていくことが必要な場面もあります。そうやって技術を継承していかないと、異動があったときに困ったことになります。
本当は4年間の在籍だとしても、最初の2年間は教えてもらいながら仕事をして、次の2年間では後進に教える側になってもらうようなサイクルができていれば、すくなくとも技術も知識も継承しやすくなるのですが、実際にはあまりそうなっていないと思います。
私自身も退職する前に係長になっていたので、本当なら部下を付けてもらって継承させる時間がほしかったのですが、実際はそうはいかず、部下が来ることもありませんでした。これはとても残念に思いました。
こういう問題はどこの自治体でも同じように課題として把握はしているでしょうが、なかなか解決できない問題でもあります。
IT部門がしっかりしていないと、その自治体のDX化を進めることはできません。全体を見通せる人材を育成していかないと、なかなかこういったことを進めていくのは難しいものです。よくある個別カスタマイズなどによる「個別最適」を選んでも「全体最適」にはならないということを考えられるような、IT人材育成も必要になってくると思います。
外部人材の活用も解決策のひとつだが課題も
前回も少しお話しいただきましたが、CIO補佐官を入れるような動きというのは、他の自治体でも広まっていくのでしょうか。
少し前までは本当に一握りの県や大規模な市などでしかなかったように思いますが、最近では数万人くらいの人口規模のところでもCIO補佐官が採用される事例も増えてきました。
これまで主に民間で活躍されていた定年直後くらいの人材を登用する動きも増えていて、その知見と経験を活かしてもらう動きも強くなってきていると思います。こういう人材は現場で上長をされていた方も多いので、マネジメントなどにもたけている人が多いと思います。
民間企業出身の方の登用については、自治体の仕組みを分かっていないこともあるので、すべてうまくいくかといえばそうとは限りません。このあたりは課題としてあると思います。議会の仕組みや予算確保のやり方なども違ってくるので、そこは難しいところであり、民間人材からすると、歯がゆいことも多いかと思います。
そのためにも、CIO補佐官でなくても、すぐ相談ができるような外部のサポートを受けられるようにしておくこともメリットがあると思います。
毎日でなく週2~3回でも来てくれる日があって、いろいろなことが相談できる体制ができていれば、IT関連部署で仕事をする役所の人の負担も減らせると思います。リモートやメールでの対応でもかまわないので、他の団体がどういうやり方をしているのかなどの情報も得られればなおよいと思います。
これも適材適所というか、例えば上流ではCIO補佐官がトップダウンで対応し、下流ではサポート会社なども使いながらヘルプデスクを設置したりして、職員が雑務に振り回されないようにするだけでもだいぶ環境がよくなります。
ヘルプデスクのアウトソーシングなどは民間企業ではかなり普通になっていますが、自治体の規模によってはまだ難しいこともあります。予算面などで自治体の大小で差が付いていることも、課題となっていると思います。
ちょうど区切りがよいようです。本日はここまでにしましょう。次回も引き続き自治体のIT事情についてお聞かせください。ありがとうございました。
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