【藪上 憲二 編】第3回:IT部門は“何でも屋“?自治体におけるIT部門の位置付けを考える

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-02-18

藪上 憲二氏
藪上 憲二氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

藪上 憲二

一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事

藪上 憲二
  • 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。

今回のテーマにもあるように、「自治体のIT部門は何でも屋」と思われるようなことは実際によくあることなのでしょうか。

藪上

一般的に役所に勤めている人というのは、それぞれの地元で優秀な人が入ってくる印象もあって、実際に仕事もできる人が多いと思います。ただ、私の経験からいうと、そうはいってもパソコンに関してはあまり詳しい人がいなかったというのも事実です。

そうなると、パソコンに関する何らかのトラブルがあったり分からないことがあったりすれば、当然ですが最終的にはIT部門の人間に問い合わせてくるということになります。初歩的な事柄も多く、そういった些細なことに対応するのに時間も多く取られていました。

私が所属していたのは比較的大きめな自治体だったので、こういった問い合わせに対応するためのヘルプデスクを設置して、ちょっとした操作の仕方やトラブルなどについては、一元化した窓口で対応するようにしていました。

ところが小さい自治体の場合には、そこまで専門の窓口を作る予算もマンパワーもありませんので、職員自身で対応していくしかありません。いわば「ひとり情シス(ひとりの情報システム部)」のような形になって、例えば総務課のIT担当者がすべて引き受けるようになってしまうこともあると思います。

こうなってくると本当に小さな問い合わせ対応から自治体単位の大掛かりなネットワーク構築まで、幅広い範囲をひとりまたは少人数で対応しなければなりません。それでは手が回らなくなってくるし、各課でのシステム調達の手伝いといったことまで含めると、かなりの負担になってきます。特にシステム調達については、仕様書の作成が必要になりますが、IT関係に詳しくないと、そもそもそれを自分で作っていくことが難しくなります。

もちろん、それぞれの課でやりたいことがあって、最終的にどういうものが必要かは、各課の担当者で考えることができますが、それをどの程度のスペックのPCなら実現できるのか、それを調達するためにはどういう業者に頼めばよいのか、というのも担当者だけではわからないのも仕方のないことです。

ましてや、予算額を決めるために見積もりを取っても、その金額が妥当かどうかも判断できないということになります。結局のところ、それぞれの課では、IT関係についてはわからないことが多いというような状況になりがちなのです。

最終的には、自治体のIT担当者が各課からの問い合わせに答えるような形になります。一生懸命、真剣に対応していても、トラブル時には文句を言われるものの、解決しても大して感謝してもらえないこともよくあると思います。市民向けサービスではなくて、あくまでも役所の内部に関する業務になるので、民間企業でいえば社内SEのような位置づけになるでしょうか。

こうした問い合わせやトラブル解決を繰り返しても、ITに興味があって、わかろうとする努力を重ねない限り、結局わからない人はいつまでたってもわからないということもよく起きることです。こういったジレンマは自治体に限らず、日本中のIT部門で起きていることかもしれません。

確かにどのような企業でもIT部門の苦労話はよく聞きますね。

藪上

もちろん我々としてもトラブルシューティングなどは自分で解決してもらえるように、FAQを掲載したり、まとめて書庫のようにして探せるようにしたりする工夫もしているのですが、これも「見ない人は見ない」ということになってしまいがちです。結局調べるのも面倒なので、電話をかけてきて尋ねてくるということになります。

今後は生成AIも導入されていくでしょうから、チャット形式で簡単に問い合わせできるようにするなどの工夫もして、お互いの時間を有効に使えるような仕組みも考えていく必要があると思っています。

ただ、セキュリティ面では役所ならではのインターネットから分離されている問題があって、生成AIの活用もなかなか難しいかと思っています。そのため、チャットなどで問い合わせをさせる場合でも、LGWAN系のサービスとの兼ね合いであるとか、IT関連部署としては、庁内側にオンプレミスで生成AIの環境を作るためのワークステーションの導入を行うのか、それともクラウドのライセンス料を支払って有料の生成AIを使うため、ネットワーク方式(βモデル等へ)の変更も含めてどうやっていくかなど、考えて詰めていくべき課題はまだまだあります。

自治体のIT活用にはITインフラが最重要であり、これがきちんと整備されていなければ何も始まらないということがあると思いますが、そこの共通認識はとれているのでしょうか?

藪上

これが実際はそれほどでもなくて、いってみれば電気や水道のように「あって当たり前」程度にしか認識されていないことも多々あります。各課のシステムを動かすにも、業務用のアプリケーションを動かすにもITインフラは必須になるのですが、そこを意識してIT部門の重要性を認識してくれる人は少ないかもしれません。そういった意味では、ITインフラを支えているメンバーには、もう少し感謝の気持ちがあってもいいのではないかと思います(笑)。

また役所の場合、部署の異動が定期的に行われることもあって、必ずしもITに詳しい人がIT部門に異動してくるわけではありません。一部の自治体で、やっとIT専門人材の採用を行っているところがあるくらいだと思います。

いまのところよくあるのは、中途採用で役所に入ってきて、たまたま前職がIT関連だったので、本人の希望とは関係なく、その能力を発揮している、ある意味人事に都合よく配置されているという方が多いかもしれません。

これまで藪上さんは様々な自治体をみてこられたと思いますが、実感としてどのくらいの規模感からIT関連の悩みごとや困りごとが発生してくると考えていますか?

藪上

ごく単純化していえば、中核市以上の規模の自治体であれば、IT関連で困ることはまだましであるように思います。そこではIT関連の経験や知識の深い人材をある程度は揃えることも可能でしょうし、業務も多少細分化できますので。

ところが「一般市」以下の規模になってくると、どうしても問題が増えてきます。

というのも、もともとの職員数が少ないため、人材層が薄く、ITに詳しい人材の絶対数も少ない上に、業務が細分化されていないため、業務範囲が広すぎるということになるからです。

特に感じるのは、役所側に適切な能力を持った担当者が少ないために、その地域のベンダーなどに依存した体制になりがち、ならざるをえないという点です。

結局のところ、担当者がそのシステムや機材が適切かどうかわからないし、内容の細かい部分を説明してもよく分からなかったりして、すべてお任せになってしまうこともあります。言い方は悪いかもしれませんが、ベンダー側にいいように(特に価格面で)されているという事例も見聞きしています。

極端な事例では、ベンダーに仕様書を書かせて入札を行い、そのベンダーが落札するといったマッチポンプのようなことも日常的に起こりえるということです。特に小さな自治体ではそういうことも起こりがちですが、そうはいっても人材的にもやむを得ないところもあるのが実情です。

とはいえ部署的には今や必須となっているのがIT部門なわけで、小さな自治体などでも最適な環境を実現するために、サポートアシスタントのような業務をする会社や、DX推進アドバイザーのような形で外部人材を登用することも増えてきました。

役所は昔からの紙ベースの文化を引きずっているところもまだ残っていますが、ペーパーレス化の流れやコロナ禍でのリモートワークの経験なども踏まえて、IT関連の持つ重要性がさらに増しているのも事実です。このため、IT部門に求められる役割というのも、クラウドサービスの利用なども含めてさらに変化しながら重要だという認識が進むと思います。

先ほどの話と関連しますが、そういった比較的小さな自治体のITインフラに関しては、いったん設置してしまえば使う人の目に触れにくいということもあって、それほど関心を持たれないというようなことはないのでしょうか。

藪上

実際その通りで、ITインフラの保守などに関しては、正直にいって人気がない部署という感じです。IT業界でも似たような側面はあると思いますが(笑)

ただ、いったんトラブルが発生すると深刻な事態に陥りかねないので、日頃からサポート会社なども含めて意識しておくことも大切です。普段から高額な予算は必要ありませんが、少ない金額で相談できる相手がいるとかなり違うのではないかと思います。

そういったパートナー企業を見つけるのには、やはり人の縁というものもあるでしょうし、なかなか難しいところもあるかもしれません。

実際にそういうサポート企業とうまく関係を築いている自治体などの例をみても、「たまたま営業にきてくれた」とかそういった偶然から始まったという例も多くあります。

もはや自治体内部のIT関連部署にとっては、その知見や能力を拡充するためにも、外部のサポートしてくれる会社などとの協力が不可欠だという感じもします。能力や地位向上のためには、底上げのためにCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)補佐官のような位置づけで、外部人材が自治体の首長などに助言してあげることも有効だと思います。いわゆるトップダウンの形にして進めていかないと、IT関連部署の強化や地位向上は難しいかもしれません。

例えば、CIO補佐官という役職で、だいたい非常勤職員として週2~3日勤務であるとか、リモートワークで業務にあたるというパターンが多いと思います。

この場合、求められている業務内容の水準と報酬が見合っているかというと微妙なところですが、複数の自治体でこういう職務を兼任してやっている人もいます。定年後の仕事として、こういうところで自分の能力を活かす方もいらっしゃると思います。

一般的に役所内部での認識として、IT部門は金食い虫の間接部門だと思われがちです。特にガバメントクラウドには多額の費用が掛かっているため、よりそう思われている印象があります。最近はDX推進などということが大きく言われるようにはなりましたが、どうしても間接部門扱いで予算的にも厳しい状況になることもよくあります。このあたりも意識を変えていくことも、これからはさらに重要になってくると思います。

またIT関連部署にいる人たちも、どうせならここでスキルやキャリアを身につけるという意識でいてほしいと思います。

ここで時間が来てしまいました。次回も引き続き自治体のIT事情についてお聞かせください。本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:自治体ICTを動かすキーマンの原点
  2. 第2回:ICTのための予算獲得には「理屈」が必要な訳とは?
  3. 第3回:IT部門は“何でも屋“?自治体におけるIT部門の位置付けを考える

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