【藪上 憲二 編】第1回:自治体ICTを動かすキーマンの原点

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2025-12-11

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

藪上 憲二

一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事

藪上 憲二
  • 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。

藪上さんは現在、「一般社団法人 日本管理者支援機構」(https://www.jadmins.org/)の代表理事としてご活動されていると伺っています。ここではどのような活動をされているのでしょうか?

藪上

「一般社団法人 日本管理者支援機構」(以下、日本管理者支援機構)は、3年半ほど前に私が設立した組織です。ここでは主に姫路市を本拠地としながら、自治体向けのICT、主にネットワーク・セキュリティなどインフラに関連する構築・運用支援や、コンサルティングなどを行っています。現在、関連会社も含めて総勢20名ですが、人数も増え続けていて、営業エリアや各種のサポート範囲なども拡大していっているところです。

私は代表理事ではありますが、実際のところは「営業兼SE兼総務」のようなもので、プレイングマネージャーを地で行っており、トラブル対応からなにからなにまでやっているので、けっこうバタバタしながら日々の業務に追われています。最近は休みもあってないですね(笑)。その傍らで、コンサル的な業務にも取り組んでいますし、昨日も愛知県に出かけていってお話を伺うなど、忙しくさせていただいております。

私自身の性格にもよるところですが、1カ所にじっとしているというよりも、あちこちに飛び回って活動するようなタイプだと思います。

日本管理者支援機構を起ち上げる以前は、姫路市役所に長くお勤めだったと伺っています。そちらではどのような業務をされていたのですか?

藪上

姫路市役所には17年(任期付も入れれば18年)勤務しておりました。私は神戸生まれの神戸育ちなのですが、大学卒業後は就職氷河期の折、色々ありまして短期間ですが民間や任期付職員、国家公務員などを経て、姫路市役所に入職することになりました。

最初の4年間は生活保護担当などで経験を積み、その業務のなかでITツールを使った効率化などの業務改善にも取り組むほか、当時、初級システムアドミニストレータの資格を取得するなどの実績などもあってか、ICT関連を取り扱う情報システム部門へ異動が叶うことになりました。

情報システム部門で最初に取り組んだのは、役所内で使用するパソコンの調達・運用・保守でした。仕事に慣れるに従い領域を広げてゆき、サーバ管理やネットワーク構築などにも携わるようになった形です。

この部署に配置されてからは、情報システムに関する更なる資格取得を始め、最終的に高度情報処理資格や、ITインフラに関する資格も複数取得することができました。その中には単にITのみならず、経営という観点で現在の仕事でも役立っている、中小企業診断士もあります。この当時から、いずれは独立する機会があるのではという考えもあったので、なるべく業務の傍らで多くの資格を取るようにしていました。

たくさんのICT関連資格をお持ちなのですね。公務員になる前からパソコンなどに興味があったのですか?

藪上

私が子どもの頃はいわゆる「ゲーム少年」のようなもので、6才の頃には親が買ってきたテレビゲーム機用の麻雀ソフト(親がやりたかっただけだと思いますが)をやりこむようなところもありました。これについてはそれで漢字が覚えられたりで良いことが沢山あったと思っています(笑)。子どもの頃は、ゲームを作る人になりたいというような気持ちもあって、プログラムにも興味がありました。ただ同時に、「大変そうだな」という思いもあって、実際に中学生の時に当時のBasicに初めて触れましたが、やっぱりなかなか難しそうだなと当時は感じて、これは実現しない夢になりました(笑)。

初めてパソコンを買ったのは大学2年生の20才のときで、アルバイトでためたお金でショップブランドのBTO製品を購入しました。ちょうどその頃、大学の同期から、同期が設立したベンチャー企業への参加の誘いを受けて、無料掲示板サービスの運営に参加することになりました。参加するなかで、サービスがUNIX系のFreeBSDを利用して構築していたので、Webシステムに関する様々な知識を得ることができました。その時の経験などから、当時は自らLinuxでWebサーバやメールサーバーの構築を行ったこともあり、その時はSPAMの踏み台にされたことも苦い思い出です。ベンチャー企業に関することもいろいろと学べて、現在の仕事に役立っていることも多かったなと思っています。

そのような背景があったのですね。情報システム部門ではほかにどのようなことをされましたか?

藪上

私の場合は戸籍や税などの住民情報を取り扱ういわゆる基幹系システムではなく、情報系システムへの配属になったこともあり、パソコンのほか、メールやグループウェア関係、さらには庁内ネットワークシステムの改善などの業務にあたっていました。それには、市内の全拠点を接続する地域公共ネットワークの運用や、庁内仮想化基盤の構築、庁内の無線化、三層分離(多要素認証の導入も含む)などもここには含まれています。そのほかにもセキュリティ委員会の運営や、内部監査など、セキュリティに関する部分も多くありました。姫路市は中核市であることもあり、かなりユーザー数も、端末数も、拠点数も多い状況でしたので、いろいろと忙しい環境ではありました。その一方で、かなりの知識・スキルが身についたと思っております。

そのような環境で9年間仕事をしたあと、次の異動で配属されたのが教育委員会でした。ちょうどGIGAスクール構想が始まる直前くらいの時期で、大規模な調達案件なども控えている状況でした。

その際、前所属での経験も踏まえ、前例踏襲の調達ではなく、これまでとは仕組みや調達方法などガラッと変えていく必要があると感じていました。そこで新たな取り組みを始め、GIGAスクールに先んじてChromebookの導入や、小中高等学校全普通教室への電子黒板導入、職員室も含めた全教室の無線化の調達を行ったところで、コロナ禍が日本を襲いました。みなさんご承知だと思いますが、コロナ禍によってリモート授業などを急速に進める必要が生じました。

それは具体的にどのような取り組みになったのでしょうか?

藪上

コロナ禍の初期の頃には、あまりにも急速に物事が動いていたために、本当にどうしたらよいのか難しいものがありました。補助金による調達にしても、かなり前倒しが必要になりましたが、姫路市の場合は、丁度過去に導入していたWindowsタブレットの更新時期であった1年前に、色々と試行錯誤をしてChromebook約3000台を先行取得して導入していました。それも助けとなって、GIGA第Ⅰ期の時にOSの選定に悩むことがなく、一斉導入がかなりやりやすくなっていたと感じています。

当時としては先進的に動いていらっしゃったのですね。姫路市というところは、ICTに関して理解が深い自治体だったのでしょうか。

藪上

理解ということに関してはどちらともいえませんが、一部では中学校への電子黒板の導入やWindowsタブレットを先進的に導入している部分もあり、少なくとも「遅れていた」ことはなかったと思います。ただ、その流れを引き継いだ私の取り組みという中では、前述のGIGAに先んじた各種調達や、市町からのSINETへの直接接続については、先進的だったのではないかと言えるのではないかと思います。しかしながら、市の教育に関する予算については、バンバン出してくれるような状況ではとてもありませんでしたので、色々と調達の中で創意工夫して予算要求を行い、教育のICT化を進めていたところです。
調達においては、予算の枠内に収めるため、コストパフォーマンスを求めることは当然ですが、販売会社さんやメーカーさんとも緊密にやり取りしながら、一緒に事業を進めていくことを心掛けており、その協力もあって、先進的な取り組みができたのではないかと思っております。

上記の取り組みについても、実際には私だけで業務を進められるわけではありませんので、一緒に教育委員会で活動していた指導主事の先生方がたくさんおられたほか、事業者の皆様の協力もあったため、色々と進めることができたと感謝しております。結果、教育委員会には令和4年3月まで在籍していたので4年間過ごしたことになります。

足かけ17年の姫路市役所の仕事の中で、特に記憶に残っている出来事はありますか?

藪上

姫路市役所の情報部門で仕事をしていたときになりますが、そこに配属されて3年目か4年目くらいだったかと思います。その頃、情報システム関係では仮想化に関する話題が多く取り上げられているような時期でした。

姫路市役所でも、仮想基盤に関する調達をかけたことがあったのですが、担当者として私も製品や技術などについていろいろと調べ、各事業者と色々相談をしながら調達を進めていました。仮想化技術になってくると、これまで契約していた事業者だけではなく、よりオープンな仕組みとなってきますので、他の事業者が参入し、落札されるような事例も増えてきました。デジタルテクノロジーが進化する中で、旧態依然とした環境ではなく、新しい勢力が大きく伸びてきたことを実感する出来事であり、この時の出会いが現在共に働く仲間と出会ったきっかけでもあり、この時の経験が人生の方向性を見出したきっかけでもあるなど、現在の私の仕事や組織の原点となっております。

藪上さんのこれまでの足跡が理解できました。その中で得られた知識やノウハウは今後の連載の中でお聞かせください。区切りがよいので今回はここまでにしましょう。ありがとうございました。

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