【谷 正友 編】第2回:奈良市が実践した「1人1台」が成功した理由とは?

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-01-15

【谷 正友 編】第2回:奈良市が実践した「1人1台」が成功した理由とは?
【谷 正友 編】第2回:奈良市が実践した「1人1台」が成功した理由とは?

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

GIGAスクール第1期以降、1人1台という環境が当たり前になりました。GIGAスクール構想が施行される以前もその話はあったと思いますが、なぜそれができなかったのでしょう?

簡単にいえば「予算」の問題だったということにつきます。もちろん、それぞれの現場の先生方などは「1人1台だったらいいよね」と思っていたということはあります。しかし、文科省の指針でも以前は「3人に1台程度を目指す」という時代が長くあったのです。漠然と「3人に1台くらいの環境になっていれば、学校のどこかでは端末を使った授業ができるのではないか」というイメージだったと思います。

デジタル教育が始まった当初は「パソコン教室」のような形で学校の教室に40台程度のパソコンがあって、そこで授業するといってもせいぜい年に1~2回できるかどうかというところでした。実際の授業も、ちょっとだけ触ってそれで終わりというような状況だったかと思います。

中学校でも小学校でも、規模の大きいところではいまより児童・生徒数も多く、学年あたり5~6クラスくらいあるところもあったので、なかなか順番が回ってこなくて結果的に触れる回数も少なくなるという背景もありました。児童・生徒にとっては特別感のあることだったかもしれませんが、授業や学びとして考えればちょっと成果には遠い世界だったのではないかと思います。

こういった状況を打開するために、まず「3人に1台」という目標が立てられて、これなら日程の調整などで工夫すれば、もっと活用できるのではないかと考えられたのです。さらに平成の中頃になってくると、先生方の校務にもITを導入していきましょうという流れになってきました。ICT化が遅れていた学校現場を変えていくために、パソコンなどを多く導入していくことで、授業での使い勝手などの質的なところも改善していこうと考えたわけです。もちろんこれは「物ありき」ではなくて、とにかく数がないことには十分な利活用もできないというところから進められた施策ということになります。

そのような状況のなか、2019年の秋頃に経済財政諮問会議で「1人1台」の環境に向けて予算措置が行われることになりました。これは当時の安倍政権へ向けて各方面からの進言などもあり、トップダウンで取り上げられるようになったことも理由のひとつにありました。これを契機に始まったのが「GIGAスクール構想」で、それまでに決まっていた学校のネットワークを強化する事業とも相まって、インフラとしてインターネットへの接続環境をよくすることも同時に進んでいきました。そして当初は「5年間で1人1台の環境を目指す」ということになりました。

1人1台の実現へ向けて、時代は確実にかじを切ったというわけですね。

そういうことになります。総務省と文科省の両方が進める事業として、私が勤めていた奈良県も選定されていました。月に1度、東京での会議に参加していましたが、この事業は全額補助でないと進まないと強く進言した覚えがあります。

私がいた奈良市の場合は、このタイミングですでに「1人1台」の環境に取り組んでいました。当時の市長が「国よりスピードアップしていかなければ」という思いを持っていたことも大きな理由のひとつです。

当時の国の補助金の要件では、国が2/3の予算を負担し自治体側が1/3の費用を負担することになりました。結局全額補助はかないませんでしたが、自治体の負担分はリースでもかまわないという条件がついたので、自治体側としても予算措置がしやすくなりました。この工夫によって、実際に「1人1台」の環境を構築するための基礎ができたのだと思います。

時系列でわかるのですが、すんなりとはいきませんでしたよね。

そういうことになりました。いわゆる「コロナ禍」によって大きな変化が起こったのです。

2020年3月くらいになると、新型コロナの感染も広がってきて学校も閉鎖されるところが出てきました。ここで国の方針も変わってきて、それまで5年計画ということで進んできていたものが、「すべて前倒しで予算を出すのですぐに導入しよう」ということになってきました。とはいえ、ほとんどの自治体は通常の状態では予算措置が間に合わないことになるので、そこからやり直すことになります。

ただ、「学校に行かなくても授業ができるようにしなさい」といきなりいわれても、物流も止まっているし調達できる十分な数の機材もありません。日本全国の学校で導入しようとすれば、1千万台規模の調達になってしまうので、全世界の機材を集めても短期間では間に合いません。

自宅でネットワークを利用するために、学校などで教員が使っていたパソコンを児童・生徒が使えるようにしたり、Wi-Fiルーターなども品薄でしたがなんとかかき集めたりしながら、目の前の課題をちょっとずつ解決していくような状態になっていました。それが半年くらいでかなり広がり、1年もすると日本全国どこでも「1人1台」が行き渡るようになってきました。

私は最近、全国をまわっているのですが、このときの取り組みについてはあちこちで「あのときは助かりました」などといっていただけることもあります。

コロナ禍が始まったとき、奈良市では「とりあえずGoogle Workspaceに早急にアカウントを作りましょう」ということで、全員分のアカウントを確保しました。パソコンなどの機材は足りない状態でしたが、まずそこを全員に行き渡るようにしました。大きな理由はクラウドサービスなら、端末を選ばず、インターネットに接続できればすべて使えるからです。

当時、奈良市の児童・生徒は23,000人ほどでしたが、パソコン教室のパソコンを全部集めても3,000台くらいしかありません。「8人に1台」くらいしかなかったのですが、手作業で不要な設定を解除したりしながら、みなで手分けして児童・生徒が各家庭で使えるような設定を連日連夜行いました。

もちろんこれでは全員に渡すことはできませんが、各家庭では保護者の方も出勤できなくなって自宅にいることも多くありました。そういう場合には、保護者のパソコンを使ってもよいという方針にし、さらにはパソコンがなければゲーム機の「Nintendo Switch」などでもかまいませんというアイデアも使いました。

オンライン授業を始めた当初の様子はいかがだったのでしょう?

教室にいる先生はWebカメラによって授業をすることになったのですが、先生は教室に誰もいない環境ですし、子どもたちにしても自分は元気でも外に遊びにはいけないという、非常に特殊で複雑な環境であったことは間違いありません。

そのような状況でオンライン授業などをやってみると、私にとって衝撃的なこともありました。というのも、コロナ禍以前は全体の1割くらいかと思いますが、「アンチICT」というか、オンライン授業などは反対だという人たちもいました。ところがコロナ禍でどうしても必要ということになると、いままでアンチ派だった人たちが頑張って協力してくれて、逆に応援してくれるようなこともありました。

2020年春の混乱が激しかった時期を過ぎると「オンライン授業が必要かどうか」などの議論はすでに過去のものになっていました。むしろ、「ICTがあればこんなこともできる」という経験値を得たということで、GIGAスクール構想の下地作りがくしくもできてしまったということだったかもしれません。

つらい状況でしたが、見方を変えれば追い風になったともいえますね。オンライン授業はどのような環境でおこなったのですか?

実際に奈良市が所有しているサーバーを利用してオンプレミスのWeb会議をするなど、様々な方法を考えましたが、どれもできなさそうなものばかりでした。しかし、先ほども触れましたが、奈良市はGoogle Workspasceのアカウントを持っていたので、それを利用したらどうかという話が出てきました。

奈良市の先生、児童生徒を合わせると約3万アカウントとなりますが、最終的に10万アカウントほど必要になりました。これだけ大量に登録するとなぜかエラーが頻発しましたが、そういった問題もGoogleさんと協力しながら解決していきました。

また、インターネットが使えないご家庭もありましたが、大手キャリアのソフトバンクさんがWi-Fiルーターを確保してくださり、それを配布することでなんとかすべての児童生徒が同じような環境を作ることができました。

この時の私たちの取り組みは高く評価され、以降、同様の問題でご苦労された自治体には国から補助金が出るようになりました。これは私たちが前例になれたことで出来上がった仕組みだと自負しています。

結果的にみると、現在のGIGAスクール構想は目に見える形で広がりをみせています。率直にどのような感想をお持ちですか?

コロナ禍ということもあって急速に広がった「1人1台」の環境ですが、教育や人材の育成という点でも大きな効果があることだと思います。

将来的にIT技術者になる人は、全体からみればごく少数かもしれませんが、全員がそういった環境に触れた経験を持つことはとても大切です。もし興味のある人だけが高校や大学にいって初めて触れるだけでは、潜在的な能力やセンスのあった児童・生徒のチャンスを取りこぼしてしまうことにもなりかねません。

また、クラウドサービスの全体像をなんとなくでもよいから把握することもとても大切です。例えば、能登地震のときなども、クラウドを活用していた学校の子どもたちなどは、避難先ですぐにオンライン授業を再開することができました。メーカーなどの協力もありましたが、災害で端末を捨てて避難したとしても、アカウントさえ分かっていれば避難先でも違う端末に自分のIDを入れて使えば、これまでと同じように操作することができるようになります。

いまの児童・生徒などの世代ではデジタルネイティブどころか、まったく自然な状態で身近にネットワークやスマホがあります。生まれたときからあるものなので、ごく当たり前のものとして幼いときから使いこなしてきているわけです。

例えばAIで曲を作ろうがボーカロイドで歌わせようが、それでしかできない表現がある可能性があります。それを最初から持っている子どもたちは、我々が思いつかないような突拍子もないことを始めるかもしれません。私たちの理解を超えて新しい世界を生み出す、次の世代が育つのはとても楽しみな状況だと思います。

楽しそうな未来が垣間見える状況というのはうれいしですね。ちょうどお時間となりましたので、本日はここまでにしましょう。ありがとうございました。

連載
  1. 第1回:奈良発GIGA先行と県域共同調達の舞台裏
  2. 第2回:奈良市が実践した「1人1台」が成功した理由とは?

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