【谷 正友 編】第1回:奈良発GIGA先行と県域共同調達の舞台裏
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2025-12-11
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 教育ICT政策支援機構 代表理事
- プロフィール
大手SIer、奈良市役所、奈良市教育委員会を経て、2022年一般社団法人教育ICT政策支援機構を設立、代表理事。全国各地の教育DX推進や県域共同調達、データ利活用、ダッシュボードに関するコーディネータを務める。現在、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー、富山市教育DX政策監、JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会理事を務める。
自治体・企業・国、教育ICTに携わるすべての組織をサポート
本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。連載第1回目ということでまずはプロフィールをお聞かせください。
はい。私は一般社団法人教育ICT政策支援機構というところで代表理事を務めている谷 正友です。この団体が何をしているかというと、学校教育の中でもICTを使った学習に関わる部分を中心に、関連組織に対して様々な形でお手伝いする組織です。
ここへ至るまで、私はいわゆるSIerといわれる民間企業で法人向けに情報システムを販売する仕事を14年やってきました。その後9年間、奈良市の教育委員会で仕事をしていました。
つまり、地方自治体にシステムを販売する側と、地方自治体の中でそれを発注する側、両方の立場を経験してきたわけです。私は経歴の中でそのような機会を得てきましたが、一般的な視点から見てみると、自治体の方はどうやってICTの買い物をすればよいかわからないですし、SIerなどのシステムを売る側も自治体へどうやって売ったら良いのか分からないというケースが多いのではないでしょうか。
私は両者の立場を経験してきましたから、何かお手伝いできることがあるのではないか、という思いがあり、現在の仕事に就くことにしたのです。
谷さんの経験があってこそ、相手の立場を理解したアドバイスができるというわけですね。
今の教育ICT政策支援機構では、一緒にお仕事をする相手によって立場が変わります。自治体と伴走しながらどんな形のものやことを整えて買い物をしたらいいのかを考えてお手伝いする場合もあれば、企業さんと共にどんなものやことを提供すると自治体や教育委員会、学校に喜ばれるのだろうと話し合ったりもします。
自治体も企業と同じように予算を立ててお金を動かしますが、制度の中でお金の使い方が結構厳しく決められています。制度的なことに詳しくない企業さんもたくさんいらっしゃるので、自治体の仕組みをレクチャーしながら、計画の立て方や事業の進め方をアドバイスすることもあります。
あるいはデジタル庁が6月に発表した「教育DXロードマップ」に則ったデータ収集、蓄積、連携、活用の検討支援やコンサルティングなど、国の事業のお手伝いをすることもあります。
つまり、自治体、企業、組織など教育ICTに関わるすべての団体の取り組みを支えるのが私たちの仕事ということになります。
波乱万丈だった自治体での経験
奈良市の教育委員会ではどのような業務をされていたのですか?
簡単にいえば企業でいう情報システム部ですね。特に教育委員会では学校ICTという名前がついた事業を担当していました。
その仕事に携わるようになった9年前は、パソコン教室がようやく設置され始めたような時代です。学校ごとに子どもたちが使うパソコンが40台程度、先生の仕事用端末、事務処理用端末がそれぞれ1台ずつあるような環境でした。そんな時期から、それぞれの端末の運用維持管理をする仕事から、教育委員会のキャリアが始まりました。
市役所に転職する前は先ほども触れましたがIT企業にいたわけです。いろいろな業務をやりましたが、東京で単身赴任が長くなって地元に戻りたいという思いがあって転職を決意したのですが、ITの実務経験があるということで、そのポジションを任されたのです。
そのほかにも当時の上司からは文部科学省が主導していた現在のGIGAスクール構想に繋がる実証事業と類似の業務を立ち上げてほしいといわれていました。
それには予算を立てる必要もありますし、それを成功させるための情報収集にも時間がかかります。事実上、稼働するまで2年はかかるのですが、そちらの事業もひとりでコツコツやり始めることになりました。
その2年間にいろいろな出来事がありました。パソコン教室の端末も埃をかぶって誰も使っていない状況がある中で維持管理を考えながら、文科省が制定したセキュリティポリシーの第一版が発表されそれに合わせた環境も整備する必要が出てくるなど、本当に大変な時期でした。
そして実証事業のほうも稼働し、奈良市は全国に先駆けて一部の学校をモデル校として1人1台のタブレット端末の環境を整えたのです。
その当時としてはかなり先進的な取り組みですよね
確かに当時はそのような環境にある学校は珍しくメディアにも取り上げられました。他の自治体からも「奈良市が面白いことをやりだした」と評判が高かったです。
GIGAスクール構想が進み始めている現在は「ダッシュボード」という言葉もよく聞かれるようになったと思いますが、当時から子どもたちの学びの状況を見える化して次の施策を考えようという実証事業、総務省・文科省の「スマートスクール・次世代学校支援事業 」にも手を上げました。
GIGAスクール第1期が始動、奈良市はどうした?
そんな活動を続けていく中、2019年にGIGAスクール構想も始まりました。時代としたらコロナ禍の少し前ですね。奈良市は国の事業をやっていたこともあり、今では考えられませんが、2カ月に1回は東京へ出向いていました。
当時、中央省庁の方々からはいろいろなことを聞かれました。どうやら、補正予算の中で、1人1台の端末を自治体が用意するには何が必要かを知りたかったようですが、この当時の試行錯誤が後に活かされることになりました。
補正予算というのは大体秋に出ますが、その頃に出た予算はどんなに頑張っても翌年の3月にしか自分たちの自治体の予算にならないわけです。そこを逃すと6月、9月と後ろに倒れていくというのが自治体の実情になります。
そのような事情があるため、3月に予算を使えるようにするためには、年内にちゃんと内部の調整をしないといけない。それでも何とかして調整したのですが、3月になるとコロナ禍が本格化して世の中も大変な時期になりました。
GIGAスクール構想は5年かけてやる予定だったのですが、そのような状況だったので1年でやりましょうとその予算の組み替えをして、日本で最初に県庁所在地および中核市の中で1人1台の端末の整備を完了するという仕事をすることができました。
それは大きな成果ですね。当時は端末を整備するのに足並みがそろわないなど、様々な課題がある自治体がほとんどだったような覚えがあります。
奈良市は段取りよく準備をしていたので、予算を組み替えるだけで調整できたことが大きかったと思います。その時に奈良県の皆さんとも一緒に連携して県にある他の市町村でもみんなで買い物ができるようにしました。これがGIGAスクール第2期の共同調達につながっています。
奈良県内に生まれた子どもたちが県内で引っ越しすることもあるわけです。どこに生まれても、どんな地域でも、どんな場所でも、どんな家庭でも同じように義務教育に通っている子どもたちが、最新のICT環境で学べる環境を作ろうという思いで取り組んできました。
一般的にそうした自治体の取り組みは感謝されることが少ないのが実情です。ですが、奈良県に遊びに来られた方は分かると思うのですが、奈良市が一番北の端にあって、南に行くほど人口が減っていきます。
すると南部の村の方々で年に数回しか会わない人から電話がかかってきてありがとうって言われるのです。よくよく話を聞くと、「うちの村にはIT企業は営業にすら誰も来てくれないけど、奈良市と奈良県がまとめてくれたおかげでいち早く購入できた」と各市町村の方々が喜んでくれていたのです。
最近になって今の立場で、様々なイベントや講演会でお話させていただくことがありますが、その後の懇親会で「あの時、奈良にいらした谷さんでしょ?」って声を掛けられ、奈良市にいましたとお返事をすると、「実は奈良に住んでいて、あのコロナ禍で大変な時に日本で最初にGIGA端末を整備してくれたおかげで、学校に子どもたちが集まれない中でも先生方とネットワークで情報交換できる環境が作れたのです」と言ってくれる方もいます。
行政の取り組みの中でも、人に感謝される仕事はあると、改めて感じたのが当時のよい思い出です。本当によい経験ができたと思います。このような取組を全国にひろげることで、学びやすさと働きやすさの両立が実現できる世界観を実現して行きたいですね。
素晴らしい結果を得ることができて本当に良かったですね。これからの連載の中で、どのような点が成功への分岐点だったのかお話しいただけるとうれしいです。本日はこの辺にいたしましょう。ありがとうございました。
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