【中窪 悟 編】第1回:肝付町を変えた光回線と行政DXの起点
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2025-12-11
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
中窪商店(ITコンサル) 店主
一般社団法人コード・フォー・ジャパン Govtech チーム
総務省 地域情報化アドバイザー
総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
- 自治体職員として30年間勤務。うち15年をいわゆる情シス担当として自治体の情報通信インフラからネットワーク及びシステム全般の構築・運用に従事する。
Googleのソリューションを全面的に導入し、自治体で初めてフルクラウドによるゼロトラストな環境を構築。2025年4月より現職。
情報通信インフラの重要性を早期から認識
本企画にご協力いただきましてありがとうございます。連載初回ということもあって、中窪さんのお考えなどを伺う前にまずは自己紹介をいただけますか?
現在は個人事業として経営している「中窪商店」をベースに自治体様向けのITコンサルタントを中心とした仕事をしています。同様に、一般社団法人コード・フォー・ジャパン Govtech チーム、総務省地域情報化アドバイザーという組織にも入っていますので、そちらでも活動をしています。
私は鹿児島県の出身で現在は合併して肝付町となっていますが、当時の高山町で生まれました。1995年には高山町役場へ入庁し、建設や税務、水道行政などを担当していました。2005年に高山町と内之浦町が合併して肝付町となり、その3年後から情報政策を担当しました。
情報政策担当になった当時はどのような活動をしていましたか?
入庁から数えて約30年、地元の役場に勤務しましたが、情報政策を15年以上担当してきたことになります。中でも情報通信インフラの構築には思い入れがあります。
2000年代初頭は、肝付町でもインターネットが普及し始めていた時期でADSL回線が一般的でした。よく言われていたことですが、ADSLは基地局から離れるほど通信速度のレスポンス低下を招きやすいという問題がありました。私が住んでいた地域はまさにそのような環境で、インターネットが使えるようになったのにとても残念な思いをしていました。
肝付町役場にもインターネットが入ってきていましたが、ADSL回線特有の特長を考えると、住んでいる場所によって大きな情報格差が生まれてしまうのではないか、と感じるようになりました。今後はインターネットにアクセスできないような地域は、どんどん取り残されてしまうのではないか、といった問題意識を持つようになったのです。こうした問題意識があったため、折に触れて「情報通信インフラを作りたい」と提案するようになったのです。
当時としては確かにそういう状況はありましたね。自治体として考えた場合、肝付町は広いですから通信インフラ格差のようなものが生まれてしまうのは理解できます。
はい。ですから私もいろいろな施策を考えていましたが、まさにそのタイミングでリーマンショックが起こりました。2008年のことでしたが、緊急的に国から財政支援が受けられることになり、その予算を未来への投資としてその当時大きな課題としていた情報通信インフラに充てようという機運が盛り上がってきました。
私は中学生時代からパソコンに馴染んでいたこともあって、自前でネットワーク構築などもしていました。ですから、今回のインフラ整備は町民のためにもなるし、自分の使命であるような感覚を持っていました。とはいえ、町全体のインフラを整備するとなれば、当時の概算で約24億円という予算が必要だといわれました。町としても簡単に支出できる額ではなかったのですが、景気への好影響なども鑑みて、今回割り当てられた予算を思い切って使おうということになったのです。
大規模な情報通信インフラの整備をどのように進めた?
まさにピンチをチャンスに変えるような取り組みですね。日本中が暗い雰囲気でしたから、肝付町にとっても明るいニュースになったように想像します。
町民のみなさまはもちろん、私個人にとっても非常によい経験となりました。工事の設計や発注プロセスを体験することができましたし、ネットワークレイヤーの構築から、アプリケーションをその上に乗せて動かすといったことも学ぶことができました。携帯電話のキャリアの方々とも協業できたので、基地局の設置などにも立ち会うことができ、エリアの拡充を身近で見ることもできました。
すごいダイナミックな体験ですね。肝付町はかなり広いですが、ご苦労もあったのではないですか?
肝付町の総面積は先の合併によって総面積が300平方キロメートルを超えるので、町としては広大な部類に入ると思います。さらに町の面積の80%以上が林野地帯で、海にも面している自然が豊かな環境でもあります。
この広大なエリアに町民の皆様が点在しているような状況なのも特長です。車で移動する場合でも東西で90分、南北に120分かかると言えばみなさんもその広さを想像しやすいと思います。このような地域の特性も踏まえながら情報通信インフラを設計する必要もあったのです。
今回の情報通信インフラの整備には、地域の方々に対してブロードバンドサービスを提供すること、ネットワークを用いて行政を組織化すること、さらに地理的条件でテレビの視聴が難しい場所がたくさんあったので、そのような地域に対して地デジ放送を配信することという3つの役割が求められていました。
そのためにNTT西日本様や九州電力様と協力しながら通信品質を保つために通信ケーブルの敷設をしていきましたが、電柱をそのまま使えない場所も結構あって、付け替えが必要なケースもありました。そのような場合は、私が直接地権者と話し合って許可を得たりしました。
一部遅延もありましたが、2008年に構想がはじまり、工事に着手したのが2010年8月、最終的に2011年7月にはサービスの提供が始まりました。規模を考えるとかなりスムーズに進んだと考えます。
どのような理由でブロードバンドの敷設がうまくいったのでしょうか?
肝付町の場合は環境がまったく整っていなかったのですが、逆にそれがスムーズに敷設できた理由のひとつかもしれません。まっさらな状態から設計して行動することができたので、例えば「中心部だけすでに光ファイバーが入っている」というような別の条件を考える必要がありませんでした。シンプルにできたことがスムーズに進行できた理由かも知れません。
行政サービスが行き届く未来の肝付町を目指して
肝付町の情報通信インフラ整備が完了したとき、どのような未来をイメージしましたか?
情報通信インフラの整備を通じてネットワークについて大きな理解を得ることができました。ちょうどその時期にアップルのiPhoneが普及し始めていました。デバイスやガジェットが好きなこともあって、私自身もソニー・エリクソンのスマートフォンを海外から試験的に取り寄せ、試用してみるということもやっていました。
当時感じていたイメージは、「これからはあらゆる情報がスマートフォンに集約されていくのではないか」という世界観でした。これらのモバイルデバイスを活用するためには、光回線が必須になるでしょうし、そのための足掛かりとしてまずは肝付町の情報通信基盤をしっかり整備することが大切だと思っていました。
同時に出てきたTwitterやFacebookなどのSNSもあっという間に広がりをみせ、それらがどのように発展していくのかわくわくしながら見守っていましたし、クラウドサービスも次々と発表される中、こうしたテクノロジーを活用することも必要になると感じていました。
そして思い描いたのは、面積が広い中に町民が点在する肝付町にとって、これらのテクノロジーが様々な面で助けてくれるのではないかというイメージです。例えば、出先で使うパソコンはセキュアで使いやすいように仮想化基盤を使えるようにしてシンクライアントにすればよいのではないかといったように、いろいろと想像を膨らませていましたね。
ありがとうございます。ちょうどここで時間となりましたので、続きは次回にしたいと思います。本日はお疲れさまでした。
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