2024.04.17
鹿児島市立玉江小学校
現在、全国的な問題として不登校児童生徒の増加が挙げられている。大都市に多く見られる傾向で、その数は上昇の一途を辿っているのが現状だ。一方で、コロナ禍を経験したことから、学校でもリモート授業に可能性を見出すケースは増えている。そして、このリモート授業が不登校児童生徒を取り残さない教育に役立てられるのではないかという試みも各所でおこなわれている。鹿児島市立玉江小学校では Poly の会議室ソリューションを使った実証実験として、不登校児童とのリモート授業における活用方法について試行を繰り返している。今回、その中間報告が届いたので、同校の歴史やICTの取り組みと共に紹介したいと思う。
鹿児島市立玉江小学校
鹿児島市立玉江小学校 校長 佐々木 好彦氏(右)、教頭 美坂 史朗氏(左)
鹿児島市立玉江小学校(玉江小学校)は明治11年に開校した「大平小学校」を前身とする歴史ある学校で、現在は多くの教育機関がひしめく下伊敷地域に校舎を構えている。児童数786名、各学年共に100名以上、4クラスの在籍があり、特別支援学級においては9学級ある、大規模小学校だ。「現在立地している場所は、かつては練兵場だったところで、のちに鹿児島大学が設立された場所です。そして鹿児島大学が移転したため、その跡地に各種の学校などが移転してきて、大きな学園地域として発展してきたものです。玉江小学校の周辺には、幼稚園から大学までさまざまな教育機関が隣接しています。」と語るのは教頭を務める美坂 史朗氏(以降、美坂氏)だ。玉江小学校の校舎があるこの地域は、学園都市としての機能も有しているのだ。
「近所には鹿児島県障害者自立交流センターなどもあり、その施設とも連携して福祉の授業を展開するなど、地域の特性を生かした学びを取り入れています。」と語るのは校長の佐々木 好彦氏(以降、佐々木氏)だ。「そのほか、伊敷長なすという伝統野菜があり、5年生になると1年をかけて育成から収穫、販売と一連の工程を授業として展開し、農業体験として学ばせています。」と佐々木氏は話を続ける。好立地であることを有効に活用し、児童らの学びに結びつけているのは玉江小学校ならではの取り組みだといえる。
「本校では校訓として『のぞみ 大きく たくましく』というものを掲げています。持続可能な社会の作り手になれるよう力強い子どもの育成を教育目標としています。コロナ禍、生成AIの台頭をはじめ、時代の変化が目まぐるしい中でも、生き残っていけるようなたくましさを持った人間に育って欲しいという願いがこめられています。」と美坂氏は解説する。そんな教育方針の中で育っている児童たちはみな笑顔が絶えず、活気にあふれている印象だ。
GIGAスクール以降、玉江小学校のICT活用はどのような状況にあるのだろう?「端末が行き渡った当初は、教職員らもどうすればよいか分からないといった状態でしたが、PCに明るい先生を中心に少しずつ使われていった形です。特に『ロイロノート』は、簡単に使えるツールなので、教職員研修でも取り上げて積極的に活用するようになりました。」と美坂氏は振り返る。
「ただし、クラウド型教育プラットフォームの活用、あるいは家庭との連絡ツール的な使い方といった部分まで、本校ではなかなか進んでいない部分もあります。保護者のみなさまを含め、全員がICTに詳しいわけではないので、これまで通り、学校メールの方が簡単だという声も未だにあるのが現状です。」と美坂氏は説明する。「それとは逆に、生徒たちはタブレットPCをかなり使いこなしています。先ほど話に出たロイロノートなども自分から率先して操作し、テキストを入力しています。そういった意味では子どもたちの方が慣れるのが早いですね(笑)。」と美坂氏は笑顔で語る。
玉江小学校では、GIGA端末の持ち帰りは、学級閉鎖時などの緊急時や、夏休みなどの大型休養期間に限定している。「コロナ禍のときはともかく、現在でもインフルエンザが流行る時期があり、現在でも学級閉鎖をせざるを得ない状況もあります。そのようなときに児童たちにタブレットPCを持ち帰ってもらい、連絡ツールでの体調確認や、宿題の送付などをおこなっています。実際に子どもたちからは、『元気です』『こんなご飯食べました』など、報告が届くので担任の負担軽減も実現できているようです。使いこなすというまでは至っていませんが、確実にICTやリモート環境を利用する状況が広がっていると思います。」と佐々木氏。
「今日もこれから5年生が、他校でやはり伝統野菜を作っている学校とオンラインでコミュニケーションを行う予定になっています。特に社会科や総合的な学習の時間などでは、このように他校との情報のやり取りがスムーズにできるというのも、大きなメリットだと感じています。」と佐々木氏は言葉を続ける。
リモート授業やオンラインコミュニケーションという部分でも活用がはじまっているGIGA端末。玉江小学校での通信環境はそれに応えられているのだろうか。「正直なところ、デジタル教科書などを複数の学級で一斉に使うような状況になると、動きが重くなるなどの報告はあがってくることがあります。先日、体育館に3年生から6年生までの生徒を集めて、議案に対してどの意見に賛成するかという全員参加型の総会でタブレットPCを使ってみましたが、うまくいきませんでした。600人近くが体育館で一斉に使用したので、ある程度予想はできましたが、こういう環境ではまだ改善の余地があります。各教室に別れてやれば大丈夫だったかもしれませんが、このあたりは試行錯誤をしている状態です。」と美坂氏。大きな負荷がかかる状況では課題があるようだが、日常でのやり取りにおいて支障はないという。全校生徒が一斉に使うようなケースが実現できれば魅力ではあるので、その辺は今後の環境整備に期待したいところだ。
今回の実証実験に用いている Poly 製品は高性能USBビデオバーの「 Poly Studio 」だ。Poly 独自の「 Poly DirectorAIスマートカメラテクノロジー 」を採用しており、豊富なカメラワークで話者を自動追尾したりすることで視覚効果に優れた映像体験を提供する。また、ステレオスピーカー、マイクも高品質で臨場感のある音声を相手に伝えることができ、「 Poly Acoustic Fenceテクノロジー 」を使えば、任意の範囲外の雑音をカットすることも可能だ。
玉江小学校の実証実験に使われている Poly Studio
取材当日の実証実験では、理科室に Poly Studio を設置。Poly Studio のカメラは会場全体に向け、HP Dragonfly G4の高精細5MPのWebカメラを黒板に固定する形で撮影している。HP Dragonfly G4は Poly Studio の制御用に使用しているものだが、マルチカメラ対応なので2画面の出力が可能だ。これにより、一度に2つの情報を相手に届けることができ、インタラクティブなリモート授業が構築できるというわけだ。
今回のリモート先は、校舎内の別の階に設けられている「相談室」となる。ここには、不登校の傾向にある児童が入室しており、GIGA端末を手に、ほかの生徒らと同じ理科の授業を受ける準備をしている。
Poly の実証実験へ申し込んだのも、理科教諭 前田 賢治氏(以降、前田氏)だ。「ここは大きな学校なので、不登校など学校に来ることができない子どもたちも多いのです。ただ、不登校だとしても『授業は見たい』と思っている子どももいるのではないかと考えました。もしそうなら、いつでも授業に参加できるような環境さえ作ってあげれば、学力の保障にもつながるのではないかと考えたのです。」と経緯を語る前田氏。
鹿児島市立玉江小学校 理科専科 前田 賢治氏
理科室には30名以上の児童が集まり、授業を受けている。時間が進むにつれ、児童たちはタブレットPCで調べ物をしながら、思い思いに課題に対する答えをノートに書きこんでいる。最後は書き込まれたノートをタブレットPCで撮影し、ロイロノートにアップロード。自分が導いた答えに自信がある生徒は、それを発表するといった内容だ。担任の前田氏は、授業の進み具合に合わせて、リモート先の児童にノートPCや Poly Studio で声掛けをしていく。リモート先からの返事も明確に聞こえているので、授業内容がきちんと伝わっていることが分かる。
実証実験では、Poly Studio は教室全体を撮影し、HP Dragonfly G4の5MP対応Webカメラで黒板を撮影、それを2画面でリモート先に届けている。
Poly Studio のセッティングはどのようにおこなっているのだろう。授業を終えた前田氏に聞いてみる「最初はHPの方に基本設定をしていただきましたが、その後は使いながら設定を変更しています。画面の分割や授業の様子を撮影しながら相手に届けようとする場合、教師が単独でやろうとすれば機材的にも負担が大きいですが、Poly Studio とHP Dragonfly G4を使うとUSB接続のみで非常に簡単にセッティングできる上に、話者を自動追尾している映像と黒板を固定で映し出す映像を一度に相手に送ることができます。これによってかなり授業に集中できるようになりました。」と語る前田氏。特に理科の授業の場合、実験をおこなうこともあるため、セッティングや運用時の負荷軽減は非常に役立つのだという。
前田氏は時折、リモート先の生徒にも声掛けをし、きちんと内容が伝わっているか確認する。画面の向こうからは「大丈夫です!」と元気のよい返事が返っていた。
「実験の様子を観察するようなケースや、経過をじっくり見ていくケースでは特に Poly Studio とHP Dragonfly G4は相性がよいシステムだと思います。理科の授業は視覚情報で得られる学びが多いのでなおさらだと考えます。実験がある授業の場合、リモート先の相談室にも同じ実験セットを用意して、教室と同じことができるようにしています。この実証実験は不登校児童にも大変好評でした。」と前田氏は手応えを語る。
相談室でリモート授業を受けていた児童に感想を聞いてみると「先生が自動的にアップになったり、移動しているのを追いかけたりする画面を見ながら楽しく勉強できました。」と答えてくれた。
「私たちの学校にも不登校児童がおり、自宅から出られない子もいれば、学校までは登校できるが、教室には入れないといった、不登校の傾向にある子もいます。いずれのケースでも、学習が遅れがちになるとその傾向が進んでしまうので、リモート授業などを用いてそこをカバーしたいと考えています。」と語る佐々木氏。
「先生によっては、リモートまでいかなくとも、全ての授業で、黒板の板書を撮影して、それをタブレットで共有できるようにしているケースもあります。実際にそれを子どもが見て勉強してくれるかどうかは別として、『なるべくつながっていたい』という先生の気持ちもあるものだと思います。最終的には取りこぼしのないように、どのような環境であっても子どもたちに必要な情報や学習が提供できるようになればよいと考えています。その実現のために、ICTの活用に期待していますし、我々も学んでいきたいところです。」と佐々木氏の言葉を受けった美坂氏は語ってくれた。HPはこれからも玉江小学校をサポートしていく。
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