2024.04.08
GIGAスクールにより、学校教育におけるICT活用が加速している。一方で、様々な理由で、新たな課題が出てきているという現実もある。教育現場の最前線となる、各校では日々新しい問題が起きており、自力での対応だけではなかなか解決しないケースもある。そんなときのサポート機関としてICT支援員を派遣する等を行う、学校ICT推進センターが鹿児島市教育委員会に設置されている。今回は Poly の実証実験に参加している鹿児島市教育委員会の学校ICT推進センターに、ICT活用の現状やリモート環境の普及、学校DXなどについて語っていただいたので紹介しよう。
鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター 文部科学省学校DX戦略アドバイザー 所長 木田 博氏
「令和3年度がGIGA元年とも言われますが、私がこちらに赴任してきたのがまさに令和3年4月でした。スタートから3年間を一緒に過ごしてきましたが、学校あるいは先生方の活動をみていても、授業支援システムなどについては、その活用率はずっと右肩上がりになっています。これは日々のログデータなどからも確認でき、子どもたちにもICTの活用というのが日常生活に溶け込んでいることは確かです。小学校、中学校という違いはもちろん、学校によって環境は変わるのですが、全体的にみても教育現場でのICT活用は浸透しているといえるでしょう」と語るのは鹿児島市教育委員会 学校ICT推進センター所長で文部科学省学校DX戦略アドバイザーも務める 木田 博氏だ(以降、木田氏)。GIGAスクールが開始されてから約3年。鹿児島市の全体像としては確実にICT活用の歩を進めているという実態がうかがえる。
「ただ一方で、やはり先生たちが子どもたちに知識や技能を教える、与えることが仕事だといったような、従来のスタイルからなかなか抜け出せない部分があるとも感じています。旧来の価値観で言えば、先生が知識を子どもたちに分け与えるのが授業のイメージでしたが、ICTを使えば先生の知識をはるかに凌駕する情報を子どもたち自らが得ることができます。そうなると、子どもたちは教えてもらうことから、自ら学び取るといった学習観に、教師を含めて転換していく必要があります。実際にICT環境が身近になったことで、学校も変わりつつあります。」と木田氏は語る。
GIGAスクール構想を進めるにあたり、学校ICT推進センターの役割はかなり大きいと思うが、現在はどのような考えのもとに活動をしているのだろう。「端末の整備もそうですが、なによりもネットワーク環境の安定を図るというところも重要になっています。GIGAスクールでは『クラウド・バイ・デフォルト』が原則になるため、当然ですがネットワークが一番の肝になります」と木田氏。学校ICT推進センターでは、それぞれの学校に合わせたネットワーク環境を構築、改善するために努力を重ねているのだ。
「ICT支援員の確保も私たちの業務です。ICT支援員さんは鹿児島市が直接雇用する人材で、会計年度任用職員という位置づけになっています。なぜそういう雇用の仕方にするかというと、毎年毎年、支援員さんが入れ替わるとサポート業務の継続性に問題が生じる可能性があるからです」と語る木田氏。
実際に学校で先生方が支援して欲しい内容は多岐にわたっており、校務もあれば児童生徒の学習についての相談もあり、機器のメンテナンスなどもあるのが実情だ。これらすべてを1年の任期中に把握しきることは難しいといえる。「支援員さんが毎年変わってしまうと、そこからまた支援員さん自身が学び直しになってしまいます。3年もすれば、先生方の方が詳しくなっている状況というのもあるかもしれません。そうではなくて、なんでも質問すれば答えてくれるような、優秀な支援員さんというのを自治体自身で育成する必要があるのではないか、というところから外部委託ではなく直接雇用という方式にしたわけです。現在は4人の支援員さんがいますが、もちろんそのなかでは情報を常に共有しています」と木田氏は説明する。
現在では、例えば各学校のネットワークに問題が生じた場合でも、監視ツールによって問題の切り分けがリモートから行えるようにしているのだという。これにより、学校へわざわざ行かなくても、「〇〇棟の〇階のスイッチにエラーが発生しているので電源を入れ直してください」といったような指示を出すことができるようになっている。こうしたテクノロジーを使った業務効率化も進んでおり、時間や人的負担の軽減に役立っているという。「それを実現できるようになったのも、経験値を積み上げたICT支援員さんだからなのです。これにより、ヘルプデスクに関しては格段にスピード感が上がりました。こうしたトラブル対応を外部委託している自治体もありますが、私たちは内製で対応できるようにして良かったと感じています」と木田氏は語る。
現在の鹿児島市の学校で特に問題となっているのは何なのだろう。「ひとつは増え続ける不登校児童生徒の問題です。不登校、もしくは学校に来ることはできるのですが、教室へ入れず、保健室や相談室に登校してくる子どもたちも少なくありません。別室に登校している子どもたちの中で増えているのが、自分の教室とオンラインで結び、授業を受けるといったケースです。文科省は、2026年度までに不登校の児童生徒が希望した場合にオンラインによる授業配信ができる学校を100%とする数値目標案を示しています。このことから、これからは教室での授業をオンラインで配信することが日常化していくと思います」と木田氏は説明する。実際に不登校児童生徒の中でも、勉強は続けたいという子どもたちは多く、オンライン授業へのニーズは高まっているという実感があるのだという。
「ただし、オンライン配信をする場合、教師がタブレットのカメラなどのセッティングや、配置などを準備するのは大きな負担になります。ほかの教師がサポートしてくれるケースもありますが、どの学校でもそれができるわけではありません。実際に授業をはじめると、先生が動くたびにフレームアウトしてしまい、姿が見えずに声だけ聞こえるということもよく起こります。これでは、子どもたちの興味もそがれてしまうでしょう」と木田氏は実際の学校授業でのオンライン配信への課題を語る。
「今回、鹿児島市に対してHP様が実証実験をしていただいている Poly のビデオバーシステムのように、カメラが先生を自動追尾してくれるような状態ができれば、先生方の負担も減らすことができますし、視聴する子どもたちにとっても見やすいものになります。こういった技術を使えば、不登校や別室登校の子どもたちも無理なくオンライン配信を受けられます。いずれにせよ、オンライン配信をするのであれば、いかに効果的・効率的にやるか考えていかなければなりません」と木田氏は語る。
また、オンライン配信などのリモートテクノロジーは、他校とのコラボレーションにも応用できる側面もある。「鹿児島県は離島と複式校が多いのですが、その背景には児童生徒数が非常に少ない学校がそれだけ存在しているという実情があります。そのような環境では、ある程度似通った価値観や考え方を共有しながら子どもたちが育っていくこともあって、多くの人の多様な価値観や考え方に触れる機会も限られてしまいます。多くの自治体では、児童生徒数の減少による学校の合併も行われていますが、場合によっては遠距離による通学を余儀なくされることの影響など、子どもたちへの負担が大きくなってしまうケースもあります。それと比較し、オンラインで他校と繋がるというのは非常に有効な手段といえます。子どもたちにとっては、知らなかった友達と出会うことができる機会をたくさん得ることが簡単にできるのですから」と木田氏。
例えば学校同士がリモートで結ばれており、カメラを常時オンにしておけば、子どもたちはそれが日常の環境となり、すぐに受け入れることができる。もし、その後に実際に対面する機会があったとしても、カメラ越しに触れあっているのだから、打ち解けることも容易だ。「テクノロジーによって、学校同士がつながることが実際にできるようになれば、少人数学級、あるいは小規模校のデメリットの部分をある程度相殺できるのではないかという期待があります」と木田氏は語る。
今後、学校関連で注目されているポイントのひとつに2nd GIGAがある。「2nd GIGAスクールでは、2つのポイントがあると思っています。ひとつは、先ほど申し上げた学びの質的な転換を図っていかなければいけないということです。これまでは、どの子も同じような課題で、一斉学習による一問一答をしていくようなやり方が主流でしたが、教育環境がこれまでとは大きく変わっている中、これまでとは異なる学びの在り方に転換していくことが必要だと思います。それは、児童生徒など学ぶ側でも同じで、授業というのは先生から教えてもらうばかりでなく、自分で学び取っていくもの、というような意識の変革も必要でしょう。もうひとつは、教育データの利活用です。鹿児島市全体でクラウドを使っていくので、いろいろなデータを収集することが可能になります。このデータの取り扱いの方向性として、子どもたちの指導のために有効に使われることが望ましいといえます。一方で、これらのデータは子どもたちだけでなく、保護者も見ることができて、自分たちでも活用できるようにすることが必要だと思います」と木田氏。
2nd GIGAでは、デジタルを根付かせるための教育方法の積極的な採用や、データをそれを必要とする子どもたちに見えるように利活用していくことが目標となるというわけだ。「また、来年度からは鹿児島市ではメタバースによる不登校対応をする予定があります。不登校の子どもたちがアバターでメタバースに入り、そこにある教室でオンライン授業が受けられる仕組みです。そうなると、Poly のビデオバーシステムのようなシステムに対するニーズも増えていくでしょう。これからはオンライン授業の『日常化と常設』がキーワードになると考えます。ビデオバーシステムのような機器は有効なツールであることは間違いないので、実証実験を通じてさらに深く知りたいと感じました。いずれにせよ、HP様には今後も教育に貢献できる技術や製品等の情報提供等をいただきたいと思います。」と木田氏は最後に語ってくれた。HPは今後も鹿児島市の教育をサポートしていく。
※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。
Poly(旧 Plantronics & Polycom)はHPの一員として、長年培った高性能な音声・映像技術によって、社内外でのコミュニケーションにおける課題および距離の問題を解決。オフィスや外出先、自宅などどこで働いていても快適なコラボレーションができるハイブリッドワークソリューションを提供します。
ハイブリッドなワークプレイス向けに設計された Windows 11 Pro は、さらに効率的、シームレス、安全に働くために必要なビジネス機能と管理機能を搭載しております。HPのビジネスPCに搭載しているHP独自機能はWindows 11で強化された機能を補完し、利便性と生産性を高めます。