2024.09.19
GIGA×AI探求セミナー in 中富良野
GIGAスクール構想が開始されたのは4年前のこと。2024年にはセカンドGIGAもスタートしており、今後はますます教育現場でのICT活用の重要度が高まってくることになる。GIGAスクールで得たものは何か?これからどのようなものが必要なのか、多彩な実践者を迎えて開催されることになった「GIGA×AI探求セミナー in 中富良野」を盛り上げるべく日本HPも協賛および出展をおこなった。当日の多様なセッションの内容をご覧いただきたい。
株式会社SENTAN
代表取締役
松田 利夫氏
ここではDX推進サポートや生成AIサービスの開発などを手掛ける株式会社SENTANの代表取締役 松田 利夫氏による、GIGAおよび教員向けの生成AIについての提案をテーマとしたセッションが用意された。さっそくその内容を紹介しよう。
現在、クラウドサービスを中心に触れ合う機会が多くなっている生成AI。これまでのキーワードによる情報検索とは違い、対話型でより深い解答が得られることで、あらゆる業界で実践的に使われているのはご存じの通りだ。
「生成AIを動かす大規模言語モデルがどういうことをしているのかというと、パターン認識とパターン学習がベースになっています。これは例えば、幼児が言語を獲得していく過程と似たものになっています。」と説明する松田氏。
大人が生まれたての子どもが目を開いた様子を見ていれば、小さいながらも光や色を認識し始めていることを感じることができる。そして、子どもに語りかけているうちに音声を認識しはじめ、学習が一定のレベルまで積み上がると言葉を発するようになる。
「生成AIも同じような発達の仕方をしています。ビデオなどの動画や、絵などの画像認識をすることができるものもありますが、これも子どもの発達と同じような学習方法によるものです」と松田氏。先ほど触れたように小さな子どもが成長と共に周囲の情報を積み重ねて学んでいくように、AIも何かを学びながら成長しているのだ。
「生成AIについて、『これから生成AIはもっとよいものになっていく、だからそれまで待っていた方がよい』という言い方をする人がいます。これはある程度の学習を積み重ねると、突然それまでとはレベルの違った能力をAIが獲得したようにみえることが理由かもしれません。例えばそれが、数年前のChatGPTのように急に話題になって普及してくるような事例で説明できるかもしれません。ただし、AIの場合は学習させ続けないと使い物にならないので、待っていたところで意味はありません。後回しにすれば、その分だけ遅れていくだけです。すでに技術があるのですから、いま使い始めてみることが大切です」と松田氏は語る。
現在、主要メーカーであるインテルやAMD、そしてNVIDIAといった半導体メーカーを中心に、マイクロソフトなどのOSメーカーも含めて各社が生成AIに関してしのぎを削る状態になっている。もちろんそこでは、ハードウェアメーカーであるHPなどもAI PCなどを大々的に販売しており、AI市場は大いに伸びているのが現状だ。
「クラウドでの利用は当然ですが、今後は皆さんの身近なところのハードウェアでAIを動かすべく、『AI PC』や『Copilot+ PC』 といったものを市場に投入してきています。ここでは各メーカーの共通戦略として、『クラウド』と『エッジ(教員や生徒の手元にあるPCやタブレット)』との連携強化ということが語られています」と松田氏はいう。ChatGPTを代表とするクラウドサービスの生成AIと、手元のPC上で使える生成AIをそれぞれ使い分けていく時代がすでに訪れているのだ。
「これまでのように、学校内でクラウドの生成AIを利用する場合には、どうしてもセキュリティに関するリスクが潜在的にあることになります。もしエッジ側のPCで生成AIが活用できるのであれば、個人情報などのデータなどをクラウド上に出すことなく、学校内のPCだけで完結することができます」と松田氏。
これはいってみれば、「AIを所有する」という概念に切り替わることになり、外部サービスであるクラウド上のAIを利用する場合には、誰かが用意してくれた環境でしか動かすことができない。一方、エッジ環境で生成AIなどを使えるのであれば、それはまさに自分だけの「プライベートAI」を所有することにほかならないというわけだ。
「プライベートAIのなかに、個人情報や積み重ねた学習データなどをたくさん覚えさせていけば、みなさん自身の情報を持つ生成AIができあがることになります。この生成AIは、他人任せで作ることはできません。これからの生成AIというものは、学校にとっても重要な資産であり知的財産なのです」と松田氏は語る。
プライベートAIの有用性は理解できるが、それを学校内でどのように実現していけばよいのだろう。「学校で考えられる環境には高度なサーバーシステムはありませんし、お給料の高いエンジニアをたくさん雇うこともできません。あくまでもワークステーション規模のコンピューターと、我々自身による作業でできることを前提にしなければなりません。みなさまの周りにはたくさんのテキスト情報がありますが、それこそ大規模言語モデルに与えるデータとしてもっともふさわしいものになります。また、授業を録音した音声データなども、生成AIが学習するための重要なデータになります。クラウド上のサービスと同等のことを考えるのではなく、自分たちでできる環境の実現に絞ってもらえば、生成AIを自分たちで所有して育てていくことは、今日からでも可能になるといえます」松田氏は語る。
例えば学校の文書関連業務だけに生成AIを使うことを考えれば、システム全体の規模感も小さく済み、その分、手が行き届いたセキュアで業務効率の高い使い方も可能になる。文書管理システムがうまくいけば、さらに生成AIが学習する範囲を広げ、会議の際の会話や、日常的な連絡メールなど、学校内のあらゆるテキスト、音声データを学習させることで、後からでも生成AIによって活用していけるようになる。
「同じことを、これまでのデータベースで構築しようとするととても大変な作業になります。当たり前ですが、学校の先生はITエンジニアではないので、そういう仕事に特化しているわけではありません。しかし生成AIはまさにその仕事に最適な能力を持っているので、先生方にITスキルがないとしても、学習用のデータをどんどん放り込んでいくだけで、自動的に整理して後から取り出すことができるようになるのです」と語る松田氏。同時に同氏は「ただし、こういった作業を外部のIT業者に任せてはいけません。教育の現場であれば、あくまでもその専門家である先生方が育てていくことが大切です」と警鐘を鳴らす。
プライベートAIを育てていけば、自分が必要とする資料に基づいて回答を出すようになる。情報の信頼度も上がり、従来のデータベースでは気づかなかったようなことも、生成AIに尋ねることで情報としてピックアップできることもある。「『ある期間のトレンド』のような分析をしたいときには、データベースよりAIの方が最適な答えを出してくれることも多いのです」と松田氏は語る。
「今年の傾向を見ても、生成AIに関する業界の大きなトレンドは、セキュリティ性の高いものや専門性の高いものを作ろうというところにあります。また、ひとつのAIに限定するのではなく、用途ごとに最適なAIを活用していこうという考え方も、より進化していくことになるでしょう。そこで大切になってくるのは、先ほどから申し上げているように、AIに学習させるためにどういうデータを入れていくのか、『トレーニングデータ』をどうしていくのかということになります」と松田氏は見通しを語る。
生成AIのような大規模言語モデルを扱うためには「大規模なトレーニングデータ」が絶対に必要というわけではない。小規模なトレーニングデータでも十分に役立つ生成AIを作ることは可能だ。学校などで利用する場合にも、専門分野を絞っていくことで、実用的に使いやすいAIを作ることができる。
「小規模なトレーニングデータによる大規模言語モデルを連携させて、違う組み合わせのAIを活用するなどといった方法も可能になります。『RAG』という言葉も盛んに聞かれますが、そういった技術なども含めながら大規模言語モデルを連携して使っていくというやり方もあるわけです」と松田氏は解説する。
「みなさんのプライベートAIを作っていくために大切なのは、ファインチューニング(微調整)とプリトレーニング(事前学習)です。大規模言語モデルにおけるプライベートデータの取扱いについてはさまざまな方法がありますが、ファインチューニングとプリトレーニングに注目すべきだということです」と言葉を続ける松田氏。
実際プライベートAIを動作させるサーバにはラックではなく、近年能力の向上が著しいワークステーションも十分活用できる。この場合、従来のAIシステムだけでは教務に不足が出た場合でも、簡単に台数を増やすだけで安価に対応できる点もメリットになる。「みなさんにとっても生成AIはひとつではなく、用途によって使い分けることが当たり前になってくるのだと思います。AIの世界は進化のスピードがとてつもなく速いので、教育分野においてもなるべく早期の導入を検討していただければと思います」と松田氏は最後に語り、壇上を後にした。デジタル活用が浸透している現在、生成AIはもっともホットな話題だ。有意義なセッションを受けた会場からは大きな拍手が送られていた。
スムーズなイベント開催をサポートしたスタッフの方々
HPもブースを設けてセカンドGIGA向けのデバイスを中心に展示。セッションの合間を縫って、来場者が質問に来ていた。
いくつかのセッションでグラフィック・レコーディングを制作してくれた櫻井 里佳氏
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