2023.03.24
株式会社帝国倉庫
オンプレミスでITシステムを構築してきた企業にとって、サーバやインフラを維持するためのコストや人的資源の確保は常に課題となっているケースが多い。度重なる改修や、システムの積み上げによって、がんじがらめとなり、その状況からの脱却も容易ではない。一方で、大きな決断により、システムを刷新し、すべてを自社から切り離し、フルクラウド化することによって、業務効率化を実現するだけでなく、システム維持にかかるコストや負担を大幅に圧縮することに成功している企業もある。システムのすべてをフルクラウド化し、基幹システムはもちろん、情報共有も最適化することに成功した帝国倉庫に話を伺ってきたので紹介しよう。
株式会社帝国倉庫
1907年(明治40年)に創業した歴史ある企業。当時日本最大であった十五銀行の出資により、様々な企業や銀行の機密書類や美術品などの保管のために設立された。現在は営業所が8カ所、関連会社が2社、本社と合わせて11の拠点を持ち、メインの倉庫業務はもちろん、バックアップメディア保管サービスなども取り扱っている。同社に2019年に副社長就任、2020年から代表取締役社長に就任された永元 徹氏は、三井住友銀行、株式会社JSOLなどを経て、現職に就いている。ITに通じ、各所でデジタルテクノロジーを使った改革を実現してきた手腕の持ち主でもある。
本社
〒135-0024
東京都江東区清澄1丁目5番1号
TEL.03-3642-0121 FAX.03-3641-1763
URL:https://www.teisoh.co.jp/
帝国倉庫株式会社
代表取締役社長 永元 徹氏
AZPower株式会社
代表取締役 橋口 信平氏
〒101-0047
東京都千代田区内神田2-4-2
一広グローバルビル 8F
URL:https://azpower.co.jp/
株式会社 日本HP
エンタープライズ営業統括 営業企画部
プログラムマネージャー 大津山 隆氏
――2020年に永元さまが代表取締役に就任されました。株式会社帝国倉庫(以降、帝国倉庫)にはどのような背景があったのですか?
永元:経営改善が主な理由で、経営のアップデートのほか、成長戦略に乗せることが私の役目です。三井銀行の人事部時代に太陽神戸銀行との合併の際に情報共有化を進めていました。当時のITシステムはシンプルなものでしたが、全社的な情報共有ワークフローを作り、通産大臣賞をいただきました。
その後、三井住友銀行の監査部長の時、国内営業拠点のリスクアセスメント手法の開発もやりました。今でいうビッグデータ活用のようなもので、かなり大規模なシステムとなり、特許も取得しました。そういった経験もあってか、SIerであるJSOLの副社長への就任にも繋がっているようです。
IT畑出身というわけではないですが、関わることが多かったので、帝国倉庫でもそこに注力することになりました。
――ITと長く関わってこられた経緯が良く理解できました。帝国倉庫ではどのような取り組みをされたのですか?
永元:経営のアップデートと成長戦略を決めていく過程で、物流業界で成長する為には成長エンジンとしてもっとITを使うべきだと思いました。そして現在のITの状態がどのようなものなのか、今後どうするべきかを検討しました。
その後、1年をかけて自社の企業体質、ITシステムの活用状況などについて調査しました。その結果、昔ながらの職人気質の社員が多く、データやシステムではなく、経験と成功体験を基にした仕事の進め方が主流で、良い側面もある一方で、外の世界が今どうなっているかあまり興味がない部分もありました。
今後、物流業界としては、フィジカルインターネット、あるいは物流効率化、サプライチェーンの見直しといった変化が見込まれており、当然弊社もその変化に巻き込まれていくことになります。しかし、ITの活用が不可欠であることを誰もあまり考えていなかったのです。
――その当時のシステムはどのような構成だったのですか?
永元:ほとんどのシステムはオンプレミスで、いわゆるレガシーなものでした。一部はクラウドサービスも使っていましたが、基幹システムを含めて永年つぎはぎだらけで延命させているという実態でした。
なぜ、このような状態になったのか調べたところ、6、7年前に基幹システムのレベルアップ、再構築に失敗したという苦い経験があったのです。その経験が尾を引いて、社内にシステムを変更することに対する拒絶感が生まれてしまったという背景がありました。
――確かにプロジェクトの失敗は新しいことへの挑戦の阻害要因となってしまいますよね。
永元:その通りです。必要性は分かっていてもあの失敗はもうしたくない、ああいう苦しい思いはしたくないというメンバーがいるのも仕方ないと思いました。そういう意味でも、もう一度全員で振り返り、帝国倉庫のITの在り方に対するスタンスを巻き戻すことにしました。
まずは原点に戻り、今のシステムの課題を見つけることにしました。基幹システムは導入した当時から何回かは改修されていますが、機能としてはまったく変わっていません。情報系は双方向になっておらず、掲示板のような一方通行のものしかありません。ですから何かを社内に告知しても、どんな意見や反応があるのかも分からない状態です。
これではITシステムとしての強みはなく、お客様からの信頼を得ることもできません。成長戦略のためには大幅な刷新が必要なのは明白ですが、どこから手を付けるべきか分からないような状況でした。いわゆる八方ふさがりの状況で、2024年にはサーバやアプリのサポート切れ問題も迫っていました。
残された時間がないまま、基幹システムも社内システムも更新しなければならない状況です。結論として開発・ランニングコストを抑制できる、パッケージを使うか、クラウドにシフトしSaaSの全面採用しかないということが分かってきました。そこで私は全社に向かってクラウド化を宣言しました。
――とても重いそして思い切った決断ですね。
永元:当時は副社長でしたが、もうこれしか方法は無いと真剣に経営陣に決断を求めました。IT投資コストはかけられませんから、新しくシステムを開発することも、ましてやハード機器やサーバを増強することもできません。要するにIT資産を持つことがそもそも大きな負担でした。
――そのような状況にある中小企業はたくさんあるような気がします。
永元:おっしゃる通り、ほとんどの企業がこの問題を抱えていると思います。特に物流業界はそれが顕著だと考えています。すそのの広い業界ですから、大手以外の物流業者が多額のIT投資をすることは難しいでしょう。
――さらに、その問題点を理解することも難しいと思います。
永元:国土交通省が中心となりフィジカルインターネットなどの取り組みが始まっていますが、おそらく十分に理解されて具体的な取り組みが始まるまでには時間がかかるものと思いますし、そもそも投資する余裕がない物流業者も多いと思います。
当社でも昨年の4月からフルクラウドによるシステム運用を開始していますが、まだ既存のシステムをリフトアンドシフトしただけなので、今後も改修は続けていきます。入出庫データのインターフェイスをEDIにするとか、あるいはシステム間連携の出口を作るなどして、お客様と双方向のステータス管理、トレーサビリティの仕組みなどを取り入れていく予定です。
――現在の方針は、まずかつて使っていた基幹システムはそのままAzure上に移した上で、システムを順次改修していくという流れですか?
永元:その通りです。フルクラウドにしたことによって余裕が出た分の予算を使ってレベルアップを進めています。実はオンプレミスと混在になっていた時代のランニングコストと、現在のフルクラウドシステムで使っているトータルコストはそれほど変化していません。しかし、中身は大きく変わっていて、システムを維持するコストは当時の3割ぐらいに減らせているので、残りの7割を機能の拡充や、新しいサービスの導入にふりむけています。つまりこれまでの維持コストを前向きな投資に変化させていることになります。
――運用コストが多く、攻めのIT投資ができないというのは多くの日本企業の課題ですよね。システムが複雑になるとランニングコスト、運用コストも膨れ上がる。ある意味クラウドに持っていくと、ベンダーに任せることができるので戦略的なところに費用がかけられるといったところですね。現在のシステムは使いやすいですか?
永元:おかげ様でかなりすっきりしましたよ。クラウド環境になったことで最初に感じたのは運用面ですね。システム運用専任者が不要になったので、社内システムの担当に異動してもらいました。それにサーバルームも不要になりましたね。当時は20ラックぐらいありましたが、それも全部廃止しました。
それとBCPですね。バックアップが大きく変わりました。Azureは5分間隔でレプリケーションを取っているのでなんの心配もいりません。これまでは、毎日データを磁気テープに落として関東のある地域に毎日送っていました。復旧のテストも十分にしないでバックアップを保管していましたが、今のシステムは40分ぐらいで復旧できます。これは復旧テストもしましたので確実な情報として、お客様にもアピールできます。
――なるほど、クラウドからサービスが提供されているということ自体がセキュアであり、安心な材料としてお客様へのアピールに繋がるということですか。
永元:その通りです。今回フルクラウドを選択することにより、結果として会社としての弱みだった部分を強みに変えることができたと思っています。
――最終的に構築されたフルクラウドシステムの概要について、可能な範囲で教えてください。
橋口:そちらについてはシステム導入を担当した私からご説明させていただきます。今回の帝国倉庫様のITシステムフルクラウド化にあたり、最初に永元社長に私どもの「フルクラウドオフィスリファレンス」というサービスの図をお持ちして、イメージしていただきました。永元様からは『まさにこれがやりたいです』とおっしゃっていただいたので、今回のリフトアンドシフトが実現されることになったのです。今回構築したのはまさにこの図が示しているものと同じです
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キックオフから9カ月ですべてのシステムがクラウド上へ移行しました。導入期間中も業務を止めることなく、段階的にシステム移行が進んでいったため、ユーザーの混乱もありませんでした。
ポイントはネットワークで、帝国倉庫様は全国に拠点があって閉域網で繋がっています。AzureとMicrosoft365でそこを安全に繋げる必要がありますし、回線の帯域も確保しなければなりません。そこでWANの二重化をご提案させていただき、ベースとなるAzureへの安全な経路を確保しました。それを実現すると共に、オンプレミスの環境とクラウドをLANで繋がるような状態にして、システム移行がやりやすいようにしました。
――なるほど、複雑になりがちなオンプレミスからクラウドへの移行をネットワークを整理することで、シンプルに行うことが可能になったのですね。
橋口:最終的に社内には閉域網へ接続するルータしか置いていません。ファイアウォールやVPN、インターネットへの接続は通常社内に置くケースが多いのですが、インターネットへの接続までクラウドに持っていきました。この場合、認証がポイントになりますが、クラウドへはAzure Express Routeを経由させることと、Azure ADで行う認証を多要素認証にすることでプロテクトしています。これによって、日常の運用に置いてもセキュアな環境を維持できるシステムになったと思います。
――情報系システムも活発に使われるようになりましたか?
永元:情報系はMicrosoft Office365をノンカスタマイズで使っています。
これを採用して良かった事は、社内のコミュニケーションレベルが格段に向上したことです。
各営業所は、その日の作業内容やお客様の情報など、日報を作成しなくてはいけませんが、それをSharePointで投稿してもらっています。
感想欄にコメントを書いたり、日報を読んだ人は誰でも「いいね」ボタンを押せるようになっています。社内の何人が日報を見ているとか、あるいはコメントに対してどんな返信をしているといった様子も分かるようになっています。
新入社員ががんばっている様子を見て、先輩が「無理するな」などと声を掛けるようなシーンがあったり、安全管理のまじめなやり取りがあったり、社員同士のコミュニケーションが盛んになっています。
本来は本社と現場のコミュニケーションのための機能と思っていましたが、こういった使われ方をするようになって少しうれしく思っています。「思ったことをどんどん書いてほしい!、なんでもいい!」と伝えています。今までは情報系の仕組みの中で一方通行のものしかなかったので双方向の情報共有が生まれたのはとても良いことだと思います。
また、簡単にスマホから写真や動画をアップできますので、安全管理の担当者が現場指導のための写真や動画を掲載し、社員たちはそれを参考にして作業手順を守るようにしています。安全管理上改善すべき点を可視化できますので、とても分かりやすいと、好評です。まだ使い始めて1年ぐらいですが、社員が自然と使いこなしているようで、良い双方向型の情報共有基盤が作られつつあるのを感じます。
――在宅ワークの人たちもこの社内SNSを使っているのですか?
永元:今回のシステム刷新を契機に、クライアントデバイスもシンクライアント端末にしたので、家に持ち帰っても安心して使えるようになりました。ですから、もちろん彼らも社内SNSを活用しています。デバイスの管理方法も変えて、機器としての管理はしていますが、もし紛失したとしても情報漏えいの危険性はありませんので、無理に探す必要もなくなり、紛失届を出してくれればそれで対応可能としています。
写真で永元氏が使っているPCはシンクライアント端末として導入された「HP mt22 Mobile Thin Client」
橋口:シンクライアント端末はAzure Virtual Desktopに接続しています。 社内にはWANを使ってアクセスできるので、移行期間中でもクラウド側と社内側、両方アクセスできるような環境にしたのでスムーズに導入できました。
そのほかFAT端末を将来的に使用するケースにおいてもIntuneによる統合管理も可能ですし、Windows Defenderによってウイルス対策もしっかりできるようになっています。暗号化も施してあるので外部に漏れても復号化は困難です。
今回のシステムのポイントの一つはクライアントデバイスの調達にあります。フルクラウド化されたシステムでは、デバイスの良し悪しがユーザーのエクスペリエンスを大きく左右します。クラウドに接続されるデバイスをHP製品に集約することで、リアルなワンストップサポートが実現されました。このメリットは実際の運用時に大きく管理負担を軽減させますし、システム全体の品質、安定性の確保にも寄与します。
とはいえ、これを可能にしたのはHPが持つ幅広いポートフォリオによるところが大きいです。今回はシンクライアント端末やWeb会議に使用するコラボレーションデバイスがメインですが、プリンター、ディスプレイなど、他にもたくさんの部分に適用することができるのもHPならではといえますね。
――今お話に出たWeb会議にはMicrosoft Teamsもお使いですか?
永元:もちろん使っています。拠点間の会議にも使いますし、お取引先とも使いますね。Microsoft 365になり、ますます活発に使うようになったように思います。これまでは多人数同士の会議で、ハウリング防止や誰のPCを使うのかといった部分で調整が面倒な部分があったので、橋口さんに相談してみたところ、HP Presence Meeting Room Solutionを紹介してもらいました。
――使い心地はいかがですか?
永元:まだ試験段階ですが、とても快適です。最初に気に入ったのはカメラがAIで発言者にフォーカスしていくところですね。インタラクティブな効果もあって、会議が楽しくなりますね。ディスプレイに映る画質も良く、明るさ調整が効いているのかとても自然な発色だと思います。
また、こちらで出席しているメンバーの表情がよく分かるという声も届いているので、相手にも鮮明に映っていることが分かりました。まだやっていないのですが、2画面出力やデュアルカメラでホワイトボードを映しながらの会議なども試してみたいですね。
――機能を気に入っていただいているようで安心しました。
永元:月に一回営業所長会議をやりますが、それが長時間になるケースが多いのです。経営データを指し示しつつ会議をするので、端末のカメラでは表情を見せるのに姿勢を一定にしていないといけないので疲労度が強く残るのが課題でした。HPのコラボレーションデバイスを使ったら、とても楽で手放せないと思うようになりましたね。
社内SNSの活用のされ方を見ていても、これからはコミュニケーションや外部とのコラボレーションが当社内でも盛んになっていくことが予想されます。そうしたときに、HP のコラボレーションデバイスがあれば、その動きが加速すると考えています。
今後は複数拠点への導入も視野に、さらに使い込んで良さを見つけていきたいと思っています。
――最後にIT運用についてお悩みの中小企業の方々にアドバイスをお願いします。
永元:IT投資余力が少ない企業こそフルクラウドにするべきだと私は思います。それが原資を作ることにもなりますし、運用負担も大幅に削減できます。オンプレミスでのIT運用には見えないコストが含まれているので、クラウドにするほうが投資対効果は大きいと思いますし、ランニングコストも低く抑えられます。IT運用に不安や不満がある場合は、ぜひクラウドを活用することをご勘案いただければと思います。
――ありがとうございました。
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