2022.09.02

対応迫る「脱・紙文化」。電子帳簿保存法とインボイス制度の現状と対策

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SCSK株式会社
プラットフォームソリューション事業グループ ITエンジニアリング事業本部  ミドルウェアソリューション部 第三課長  奥谷 篤史氏

2022年1月から施行が始まった「改正電子帳簿保存法」と、2023年10月に開始される「インボイス制度」。どちらも業務に大きな変革をもたらし、企業側はその大小にかかわらず必須で対応する必要がある。

刻一刻と対応期限が迫る中、企業として何を、どのように、どこまで対応すれば良いのだろうか。電子帳簿保存法(電帳法)とインボイス制度の現状と対策、2つの制度がもたらす影響についてなどを、SCSK株式会社 プラットフォーム事業グループの奥谷 篤史氏にお話を伺った。

改正電子帳簿保存法で新たに義務づけられたこととは

―― まずは、電子帳簿保存法について教えてください。

奥谷: 電子帳簿保存法は、電子的に帳簿や書類を保存しても良いと認めた法律です。国税関連の帳簿や帳票は7年間紙で保存というのが元々の決まりでした。それを電子保存でも良い、としたのがこの法律になります。

そもそも紙で保存するのは、コストが非常にかかります。一般的にキャビネットなどに書類をファイリングして保管すると思いますが、7年間分となるとキャビネットに入りきらずに別途倉庫を借りるほど書類がたまっていきます。総コストとしては、プリント費用・ファイリング費用・キャビネット費用に倉庫費用までかかるわけです。

さらに、税務調査の時は倉庫から出し入れしないといけませんし、紙は検索がしづらいので調べたり文書を探すのに人的費用もかかります。

そのため、企業としては「基本的には紙をやめてペーパーレス化したい」という背景がありました。また、テレワークの浸透、サステナビリティの観点からも業務オペレーションにおけるペーパーレス化がどの企業にとっても重要となっています。

2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法では、これらの背景を踏まえて、生産性の向上や、テレワークの推進などを目的とした抜本的な見直しが行なわれたものです。

主な改正点をご紹介します。

【主な改正点】

  • ・承認制度の廃止
  • ・帳簿書類のデータ保存の要件緩和
  • ・スキャナ保存の要件緩和
  • ・電子取引データ保存の厳格化
  • ・罰則規定の新設

取引先から紙で受領した領収書や請求書・契約書・見積書などをスキャンして、その画像データを保存することが認められました。これによりペーパーレス化の推進が期待できます。

既にペーパーレス化に取り組み、コスト削減、経理作業の大幅削減を実現している企業も多く出てきました。

―― 電子帳簿保存法には、2024年1月まで猶予期間が設けられています。この期間は何のために設けられているのでしょうか。

▲2022年1月から施行が始まった改正電子帳簿保存法の主な要件一覧。義務付けられているのは一番右の「電子取引」の項目

奥谷: 電子帳簿保存法の対応には、「帳簿」「書類」「スキャナ保存」「電子取引」の4つの区分があります。「帳簿」「書類」「スキャナ保存」は、電子で保存するか紙で保存するかを選択できるのですが、「電子取引」に関しては電子保存が義務付けられています。

この「電子取引」に関して、2年間の猶予期間が設けられています。

▲電子取引の分類。

奥谷: 電子取引は、EDI・インターネット・メール・インターネットFAXの4つに分類されます。Webサイトのフォームから発注したものや、メールで見積書や請求書のやりとりをしたものなど、あらゆる電子取引を電子保存することが、今後は必須となります。申告漏れには重加算税の10%が加算されるなどの処罰がくだされます。

Webやメールを介さない取引はほぼ存在しないことから、すべての企業が対応しなければならない分野となるでしょう。

電子取引の保存には「真実性」の確保と「検索性」の確保が重要

──電子取引の保存について対応するうえで、抑えておくべきポイントを教えてください。

▲電子取引の要件

奥谷:「真実性」と「検索性」でしょうか。電子取引の保存に対応するには、ただ電子保存をすれば良いわけではありません。データが改ざんされていないという真実性を確保し、取引年月日・取引金額・取引先などですぐに調べられる検索性の確保も必要です。

真実性に関しては、文書データが改ざんされていないことを証明できればいいのですが、実際に証明するとなると、全てのログが保存されている必要があったり、事務処理規定の整備が必要であったり、想像以上にコストがかかります。

そのため、我々は文書データへのタイムスタンプ付与*をおすすめしています。

*タイムスタンプとは・・・・・・
電子データがある時刻に確実に存在していたことを証明する電子的な時刻証明のこと。タイムスタンプに記載された暗号情報とオリジナルの電子データを突き合わせることで、その電子データがタイムスタンプによって証明された内容であることを確実に確認することが可能。

奥谷:検索性の確保に関しては、自社発行のPDFなどは比較的対応できているケースが多いのですが、例えば取引先が紙の請求書をスキャンしてPDF化したものを送ってきているケースなどでは難しいです。その際は、PDFに検索性の確保の対象となる取引年月日や取引金額をメタ情報としてつけておく必要があります。

真実性の確保と検索性の確保は、スキャナ保存、電子取引の要件で求められます。既存のシステムでの対応が難しい場合、おすすめしたいのが電子帳簿保存法対応のソリューション導入です。

JIIMA認証取得済の電子帳簿保存法対応ソリューション「invoiceAgent」

── SCSKでは、どのような電子帳簿保存法対応のソリューションを扱っているのでしょうか。

奥谷:電子帳簿保存法対応のソリューションとして、我々は「invoiceAgent(インボイスエージェント)」をおすすめしています。invoiceAgentは、OCR機能で情報を読み取りや、文書の自動振り分けが可能です。

invoiceAgentは、法対応の検索性の確保に準拠した検索機能や、真実性の確保を実現するタイムスタンプ付与の機能が装備されています。

奥谷:またinvoiceAgentは、公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の「JIIMA認証」を受けたソリューションです。この制度は、市販のソフトウェアやサービスが電子帳簿保存法の要件を満たしているかをチェックし、法的要件を満たしていると判断したものに認証するものなので、安心して導入いただけます。

奥谷:ここで弊社での事例をご紹介します。図はスキャン保存の流れを示したものです。
例えば、取引先から受領した請求書をスキャナでスキャンし保存します。営業アシスタントが、その請求書をもとに基幹システムで請求伝票登録をします。

その際、スキャンしたPDFをシステムから登録すると、API連携でInvoieAgentに登録されます。その際タイムスタンプも自動的に付与されています。

InvoiceAgentからその文書を表示するURLリンクが返却され、弊社の場合は基幹システムの画面のボタンを押せば、URLのリンクが開くという仕組みにしております。

承認者が承認を行う際や、会計監査の際には、基幹システムで、取引先、取引金額、年月日を検索できますので、こちらで検索性の確保を実現しています。
検索して該当の伝票データが表示され、ボタンを押すとInvoiceAgentの画面が開き、該当文書のプレビュー画面が自動的に開くという仕組みになっています。

このようにして、電子帳簿保存法対応の検索性と真実性の両方を実現しながら、API連携によって保存に対する手作業もなく実現している事例になります。

単に法対応を実現するだけではなく、業務の効率化まで踏み込んで、最適なソリューションを構築できるのがSCSKの強みになります。

インボイス制度の準備も電子帳簿保存法対応から

── 続いて、インボイス制度について教えてください。

奥谷: インボイス制度は、軽減税率制度への対応や請求業務の電子化を目的とした新しい法制度ですが、ものを仕入れて販売する場合、適格請求書発行事業者から仕入れを行った上で、適格請求書(インボイス)をもとに税務署に申告しないと、原則として仕入税控除が受けられなくなるという要件があります。

奥谷: 仕入れ税額控除は、売上の消費納税から仕入消費納税を引いた金額を納税する仕組みのことです。

例えば、ものを7,000円で仕入れた場合に自社は仕入先に700円の消費税を払っています。それを1万円で売ったときに、1,000円の消費税を受け取ります。この受領した消費税1,000円を納税するわけではなく、1,000円のうちの支払済の700円を差し引いた300円が納税額となるというのが仕入れ税額控除です。

適格請求発行事業者以外から仕入れると控除が受けられなくなるため、かなりの税額アップになります。これを避けるために、自社が仕入先となる場合は適格請求書発行事業者に自社もなった上で、適格請求書発行事業者と取引をする、というのが今後の流れになっていきます。

── インボイス制度が施行される2023年10月までにどのような対応をとれば良いでしょうか。

奥谷: インボイス制度に関しては、まだ対応が確定していない(取材は2022年7月)ので、あくまでこういう対応をしておいたほういい、準備をしておいたほうがいい、ということにはなりますが、自社が仕入先となる場合は適格請求書発行事業者への登録が必要となります。

奥谷: そして、自社の請求書発行するシステムについて、インボイス制度の要件を満たした適格請求書(インボイス)を発行できるシステムへの改修が必要となります。

奥谷: 適格請求書(インボイス)は紙での保存も許可されていますが、売手、買手ともに7年間の保存が義務付けられています。その点を踏まえて、我々は電子で保存することを推奨しております。いわゆるデジタルインボイスです。このデジタルインボイスは、電子帳簿保存法の対象となりますので、インボイス制度の準備のためにも、法対応に準拠した文書保管のシステムが必要になります。

奥谷: 今までお話した点を踏まえると

  • ・適格請求書(インボイス)は電子保管を推奨(デジタルインボイス化)
  • ・デジタルインボイスは電子帳簿保存法対応が必要であるため、その仕組みを準備しておく

を抑えておくのが良いのではないでしょうか。invoiceAgentは、ご説明したとおり電子帳簿保存法対応に対応していますし、企業間連携も可能です。

2022年1月から施行が始まった「改正電子帳簿保存法」と、2023年10月に開始される「インボイス制度」について、SCSK株式会社 プラットフォーム事業グループの奥谷 篤史氏に解説していただいた。どちらも必須で対応する必要があるため、できることからすぐ取り組む必要がある。

ただ、ここでひとつ注意するポイントがある。それは、「とにかく安くすまそう」というマインドで対応してしまうことだ。奥谷氏によると、このマインドで取り組み始めて、結果的に人手に頼ったマニュアル作業が増え生産性が落ちている例が多くあるという。

人手に頼った作業ではなく統合的な生産性を考えてシステム化する。できればあわせて、業務フローの変革、オフィスワークと在宅ワークを組み合わせたハイブリッドワークへの移行などを見据えた対応が重要だ。

その取りかかりとなるのが、文書管理全体の見直しだろう。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応は、ペーパーレス化の推進に繋がる。どちらの制度にも対応したペーパーレス化には、奥谷氏の解説にあったように「真実性」と「検索性」が重要となる。また、手書きの書類をスキャンする場合などにはその書類が電子化されても読めるようにしておくことも重要だ。

これらを満たすには、印刷環境の見直しも必要となるだろう。さらに、在宅ワークによる印刷やスキャンのセキュリティリスクが増しており、新たな課題となっている。

日本HPでは、多様化する働き方に対応した「ハイブリッド印刷環境づくり」に力を入れている。そのソリューションとなるのが、ハードウェア・ソフトウェア・サプライ・サービスを1つにまとめ、さらに在宅勤務用プリンターと自宅へのサプライ品の配送までも含めた「HP MPS(Managed Print Service)」だ。このようなサービスも視野に入れ、真に生産性向上を考慮した電子帳簿保存法やインボイス制度への対応をぜひ実現させてほしい。

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