2024.10.31
2024年10月17日、グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミールで、CTC Forum 2024が開催された。毎年、世界最先端のテクノロジーが体験できる本イベントで、生成AIの大ブームとなった今年は何が展示されるのか、多くの来場者がその内容を見ようと集結した。HPももちろんこのイベントに参加。ブース出展のほか、エンタープライズ営業統括 営業戦略部 部長 松本 英樹氏もセミナーを開催するなど、大きな役割を果たした。ここでは、松本氏のセミナーの内容を中心に紹介したいと思う。
セミナーが充実しているCTC Forumらしく、今年も素晴らしい講師陣に彩られた会場でひときわ目立つのが「AI」をタイトルに持つセッションの多さだ。一般的には幻滅期にあるのではないかという調査結果もあるが、依然として企業の期待の大きさが分かる結果だ。
HPの松本氏がおこなうセミナーのタイトルも「AI PCの展望とHPのアプローチ」と題されたもので、サブタイトルは「生成AIをハイブリッドで使う時代に向けて」となっていた。松本氏が何を語ったのか、ここで概要を紹介しよう。
株式会社 日本HP エンタープライズ営業統括 営業戦略部 部長 松本 英樹氏
Chat GPTの登場により、大いに盛り上がった生成AI。2024年に入り、ビジネスへも本格的に転用しようという動きも活発化した一方で、様々な理由により断念したといったケースも増えている。「生成AI活用は、いわゆる幻滅期に入っていると考えられます。とはいえ、いずれはこれまでのテクノロジー同様、啓発期、安定期へと入っていくのだと予想しています」と松本氏。例えば、クラウドがそうであったように、多くの革新的なテクノロジーは同じようなサイクルを辿り、現在ではビジネスに溶け込んでいるのは、これまでの歴史を見ても明らかだ。
「いったんは落ち着いていますが、これから生成AIが使われていくためのキーワードとして『オープンソースモデル』があります。生成AIの中でもオープンなモデルに関して、各方面の企業や組織の方からのお問い合わせが増えています」と松本氏は語る。これまで流行した生成AIのほとんどがクローズドモデルであり、その仕組みはブラックボックス化されており、独自の調整や新たな機能の追加など、自由にできるとは言い難かった。一方のオープンソースモデルは仕組みのすべてを見ることができ、自分たちの手でチューニングや機能の追加などを自由におこなえるのが特長となる。
「さらにこれまでの生成AIサービスは「LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)」と呼ばれるものがほとんどでしたが、それに対して「SLM(Small Language Models:小規模言語モデル)」があります。例えば、クラウド型の生成AIが何百兆、何千兆という規模のパラメーターを使うのに比べ、SLMでは数億、数十億のパラメーターしか使わないといった違いがあります。パラメーターは減りますが、それだけに手軽に扱え、企業内で使うには十分な回答が得られることもあり、SLMへの関心も高まっています」と松本氏は語る。
LLMは大量の高性能グラフィックスを何セットも組み込んだサーバーが必要になるのに対し、SLMはワークステーションクラスのコンピューターでも動作させることが可能だ。つまり、生成AIを稼働させるシステムのリソースに対する設備や運用コストの違いもあるのだ。「例えば、ある業務に特化した回答だけが必要な生成AIであればSLMで十分であり、手持ちの学習データを用いて迅速に実装していくことが可能なのです」と松本氏は解説する。
直近の導入事例として、 NVIDIA RTX 6000Ada を3枚搭載するHP Z6 シリーズを一気に36台納品したケースを紹介。もっと小規模な環境でも十分なAI開発は可能とし、「ワークステーションを単体、あるいは数台といった、手軽に構築できる環境で、生成AIを開発、学習させるスタイルに最近は注目が集まっています。さらにその先の推論となると、ローカルコンピュータ―、すなわち、私たちが使っているPCでも十分な処理能力を持つものが出始めています。それが最近注目されている『AI PC』というものになります」と松本氏は語る。
AI PCを定義するのがCPU、GPUに加えてAI処理に特化した「NPU」を持つという特徴であり、このほか、Microsoftが提供する生成AI「Copilot」を持つこと、さらにCopilotをキータッチだけで呼び出せる「Copilotキー」を持つPCがAI PCと呼ばれるPCの対象となっている。「従来、AI処理にはGPUが使われてきましたが、高い処理能力に比例してバッテリの消費も激しいという特徴がありました。これを解決するのがNPUであり、それを搭載する最新のプロセッサーが『インテル® Core™ Ultraプロセッサー』です。このプロセッサーにより、少ない消費電力でAI処理ができるようになるため、ノートPCで推論をさせても大きくバッテリを消費することなく、作業が継続できるようになったのです」と松本氏は説明する。
SLMとAI PCの組み合わせにより、社内データをネットワーク外に出さずとも内部だけで活用できる生成AIを簡単に構築・運用することが可能になる。機密情報を扱う企業にとって、クラウド型の生成AIの利用に制限を掛けていたケースも多かったと思う。利用したかった生成
AIが、セキュアな環境で快適に活用できることになる。これからは、企業がセキュアな環境で安全に運用する、「ローカルSLM」あるいは、大企業やグループ企業内で使う「ローカル
LLM」が主流となる可能性が高いのだ。
「例えば金融業界でいうコードのコーディングにAIを活用したい例や、RAGとしての活用や、営業日報などのレポート作成、リアルタイム商談でのサポートといったシーンでもSLMとAI PCの組み合わせがその特長を発揮します」と松本氏は補足する。
続いて、松本氏はAI PCの自社製品としてインテル® Core™ Ultraプロセッサーを搭載する
「HP EliteBook 1040 G11」を紹介。AI PCとしての要件をクリアし、従来のPCと比較してパフォーマンスも高く、AI処理時のバッテリ消費も断然良くなることを強調した。「Web会議が増えていますが、その時の合成背景にはすでにAIが用いられています。ほかにもセキュリティソフトにもAIを用いているケースもあるなど、実は多くの機能でAIは使われているのです。つまり、現状においてもAI PCはその特長をいかんなく発揮できるといえます」と松本氏は説明する。
そのほか、背後からののぞき見をキータッチひとつで防止する「HP Sure View」や、電源オフのときでも、「探す」「ロックする」「データ消去する」といった命令をリモートから発信できる「HP Protect and Trace with Wolf Connect」※、データ通信が5年間使い放題となる「HP eSIM Connect」※など、AI PCの行動範囲を広げより強力にサポートする機能やサービスを紹介した。※対応モデルのみ
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「AI PCの登場によって、より少ない電力でスムーズに推論ができるようになりました。企業や組織のみなさまにおいては、ちょうど Windows 10 から Windows 11 への移行の時期でもあるので、このタイミングでAI PCのご導入を考えている方も多いと思います。HPならAI PCとしての品質はもちろん、セキュリティや通信環境などトータルなソリューションもご提供できますし、HPのワークステーションを活用したSLMによる生成AI活用環境もワンストップでご提案できます。生成AIの企業活用にご興味のある方は、豊富なポートフォリオを持つHPにご相談いただければと思います」と最後に松本氏は語り、セミナーを終了した。生成AIの活用に関して試行錯誤が続いている企業が多い中、打開のヒントとなる多くのトピックスを届けてくれた、松本氏へ惜しみない拍手が送られていた。
HPのAI PCの展示だけでなく、松本氏の話にあった、ローカルで動作するSLM/LLMのデモも実施されていた。ネットワークに繋がっていないAI PC上の生成AIに対して、特定のシチュエーションをプロンプトとして投げかけて画像を生成するシーンや、ローカルネットワーク内にあるデータのみで提案書の作成をさせる実例、コード補完のためのプログラミングを生成AIに実行させるデモなどがおこなわれ、多くの来場者が足をとめて見入っていた。ローカル
LLM/SLMにはワークステーションとAI PCが必須だが、改めてHPのワンストップによる提供が可能という点でのアドバンテージを感じさせてくれる展示内容だったように思う。
AI PCの展示やローカルSLM/LLMのデモがおこなわれたHPブース
生成AIによって、プロンプトに応じた作画が可能
ローカルデータのみを使った対話型生成AI活用やコード補完のためのプログラミングの実行など、ローカルSLM/LLMでもかなりのことができることが分かるデモ内容だった
ローカルPC上で動作する生成AIのパフォーマンスに多くの来場者が驚かされていたが、これを実現しているのは「インテル® Core™ Ultraプロセッサー」の存在だ。
松本氏のセミナーでも触れられたように、AI PCの要件としてなくてはならないインテル®
Core™ Ultraプロセッサーには、AI推論処理のみに特化した「NPU」を持つのが特徴。
CPUやGPUでAI処理をするよりも電力効率が高く、より低い消費電力で動作させることが可能。実際に生成AIプログラムを動作させる場合は、CPU、GPU、NPUがそれぞれ得意な処理を分け合うことで、これまでにない高効率なAIプログラムの処理を実現するのだ。
もちろん、第13世代インテル® Core™ プロセッサーが継承してきた、P-Core、E-Coreに演算処理を分散させる「3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」も継承。
さらにE-Core SoCという3番目のコアを搭載することで、より高い処理能力と低消費電力を実現している。これらの特長により、プロセッサー単体としてのパフォーマンスも大きく向上し、特に電力消費に関しては、バッテリ長時間稼働に大きく貢献している。インテル® Core™ Ultraプロセッサーは、これからの時代をけん引する製品だといえるだろう。
CTC Forum 2024は、まさに最先端のテクノロジーを体感させてくれるイベントだった。HPブースには常に人だかりがあり、技術力の高さとポートフォリオの厚さを感じさせてくれる内容だった。次回、HPが出展するイベントがあれば、ぜひ読者のみなさまにも参加していただきたいと思う。
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ハイブリッドなワークプレイス向けに設計された Windows 11 Pro は、さらに効率的、シームレス、安全に働くために必要なビジネス機能と管理機能があります。HPのビジネスPCに搭載しているHP独自機能は Windows 11で強化された機能を補完し、利便性と生産性を高めます。