オンデバイスAI完全ガイド:スマホ・PCの実例と導入術まとめ
2026-01-16
ライター:倉光哲弘
編集:小澤健祐
生成AIの普及は業務効率を向上させる一方、クラウド利用に伴う通信の遅延、従量制コスト、機密情報の外部送信といった課題も表面化しています。これらの課題を解決するアプローチとして、処理をPCやスマートフォンなどのデバイス側で行う「オンデバイスAI」が注目を集めています。
現在はクラウドとデバイスを組み合わせるハイブリッドAIが現実的な解決策となっています。実際に、Apple Intelligence や Google の Gemini Nano を搭載したAICore、AI処理に特化したプロセッサ(NPU)を備える Copilot+ PC など、具体的なサービスも次々と登場しました。
本記事では、オンデバイスAIの定義からメリット・制約、そしてビジネス導入を成功させるためのポイントまでを整理し、短時間で要点を把握できるよう解説します。
職種×端末で使う“オンデバイスAI事例”10選
職種別に、AIの具体的な活用例10選を端末要件とともに解説します。本章では、以下の4つの分類で、オンデバイスAIが現場でどう役立つのか、導入の勘所と合わせて紹介します。
- 情報整理・要約:会議録音や通知の自動要約
- コミュニケーション・翻訳:通話中のリアルタイム翻訳や自動字幕
- 制作・編集・自動化:SNS文面やWeb会議の映像・音声最適化
- 横断・自動化:定型作業のAI組み込みやPC内データの検索
情報整理・要約の活用事例
本章では、情報整理・要約に関するオンデバイスAIの活用事例を3点紹介します。
- 【営業× Pixel】会議録音の自動要約(レコーダー)
- 【企画× iPhone】ドラフト要約・校正(Writing Tools)
- 【管理部× Windows】画面上テキストの要約・書き換え(クリックして実行)
これらは、機密性の高い会議録や文書を外部に送信せず、端末内で安全に処理できる点が特徴です。議事録作成や情報確認の時間を短縮し、コア業務に集中できる環境を整えます。それぞれの事例を詳しく解説します。
【営業× Pixel】会議録音の自動要約(レコーダー)
Pixel のレコーダーアプリは、議事録作成の時間を大幅に削減します。録音した音声を端末内で文字起こしし、そのまま要約まで実行できるためです。データは外部に送信されず、オフラインでも利用できます(Pixel 9 以降は日本語の要約にも対応)。会議直後に要約を共有でき、報告業務の所要時間を短縮できるため、営業担当者は本来のコア業務に集中できます。
【企画× iPhone】ドラフト要約・校正(Writing Tools)
iPhone の「Writing Tools」は、企画書や報告書の下書き作成を効率化します。OSに組み込まれた編集機能から直接呼び出し、アプリを問わず要約・校正・トーン調整を素早く行えるためです。たとえば、チャットの下書きをフォーマルなトーンへ即座に変更できます。Apple Intelligence がオンデバイスで処理を行い(日本語対応は iOS 18.4 以降順次)、あの「ちょっと面倒」な下書きの時間がぐっと短くなります。
参考:iPhoneのApple Intelligenceで作文ツールを使用する - Apple サポート (日本)
【管理部× Windows】画面上テキストの要約・書き換え(クリックして実行)
Windows の「クリックして実行」は、画面上の情報に対する即時アクションで、業務の初動を早めます。画面に表示中のテキストを検出し、別アプリに切り替えず要約や書き換え(Rewrite)を実行できるためです。たとえば、業務画面に届いた長文アラートも、「Windows キー+クリック」ですぐに箇条書きにできます。IT管理者が機能の利用を制御できるため、情報の初期確認にかかる「まず読む」手間がぐっと楽になります。
参考:
Manage Click to Do for Windows clients | Microsoft Learn
クリックして実行: 画面に表示されている情報をさらに活用する - Microsoft サポート
コミュニケーション・翻訳の活用事例
本章では、コミュニケーション・翻訳に関するオンデバイスAIの活用事例を2点紹介します。
- 【CS× Galaxy】通話中のリアルタイム翻訳(ライブ翻訳)
- 【グローバル会議× Windows】PC音声の自動翻訳字幕(ライブキャプション)
これらは、機密性の高い会話を外部に漏らさず、安全に言語の壁を越えることを可能にします。グローバルな連携や多様な人材の活躍を支援します。それぞれの事例を詳しく解説します。
【CS× Galaxy】通話中のリアルタイム翻訳(ライブ翻訳)
Galaxy の「ライブ翻訳」は、多言語対応が必要な顧客サポート(CS)業務を支援します。通話中や対面での会話を、端末内でリアルタイムに双方向通訳できるためです。必要な言語パックを事前にダウンロードすれば、オフラインでも利用可能です。これにより、外国人顧客からの問い合わせにも通訳者なしで一次対応が可能で、解決率の向上と通話時間の短縮が期待できます。
参考:Use Live Translate on Galaxy phones and tablets
【グローバル会議× Windows】PC音声の自動翻訳字幕(ライブキャプション)
Windows 11 の「ライブキャプション」は、グローバル会議のアクセシビリティを向上させます。PCから流れる音声をリアルタイムで字幕表示し、さらに他言語へ翻訳できるためです。特にCopilot+ PCでは、日本語を含む多言語の音声を英語などに翻訳する機能も端末内で実行できます。これにより、参加者の発言理解度が高まり、会議後の議事録修正回数の削減にもつながります。
参考:Use live captions to better understand audio - Microsoft Support
制作・編集・自動化の活用事例
本章では、制作・編集・自動化に関するオンデバイスAIの活用事例を3点紹介します。
- 【マーケ× Android】SNS文面のトーン変換(Gemini Nano)
- 【営業× Windows】Web会議の映像・音声最適化(Windows スタジオ エフェクト)
- 【フィールド× Pixel】写真メモのテキスト抽出・整理
これらは、機密性の高い資料やデータを外部に出さず、端末内で手軽にコンテンツの品質を向上させます。専門知識なしで効率と品質を両立させます。それぞれの事例を詳しく解説します。
【マーケ×Android】SNS文面のトーン変換(Gemini Nano)
Android 端末のAI機能(Gemini Nano)は、SNS投稿文の作成効率を高めます。端末内で動作するAIが、作成した文章のトーン(丁寧、カジュアルなど)を即座に変換・校正できるためです。マーケティング担当者が、プラットフォームに合わせて複数の文面パターンを素早く作成できます(現在は英語が中心)。これにより、投稿の作成時間が短縮され、承認プロセスでの手戻りを減らす効果が期待できます。
参考:
Gemini Nano | AI | Android Developers
Android Developers Blog: On-device GenAI APIs as part of ML Kit help you easily build with Gemini Nano
【営業× Windows】Web会議の映像・音声最適化(Windows スタジオ エフェクト)
Copilot+ PC の「Windows スタジオ エフェクト」は、オンライン商談での印象を向上させます。端末内のNPU(AI専用プロセッサ)を活用し、ウェブカメラの映像やマイクの音声を自動で最適化するためです。背景ぼかし、アイコンタクト補正、ノイズ除去などを実行し、機密性の高い商談映像を外部に送信しません。これにより、営業担当者は特別な機材なしでプロフェッショナルな印象を与え、顧客評価の向上に貢献します。
参考: Windows Studio Effects - Microsoft Support
【フィールド× Pixel】写真メモのテキスト抽出・整理
Pixel のAI機能は、現場(フィールドワーク)での報告書作成を効率化します。現場で撮影した写真(ホワイトボードやメーターなど)から、テキストを端末内で抽出し、自動で整理・要約できるためです。オフラインでも動作し、スクリーンショットの内容も整理可能です。これにより、フィールド担当者は報告書作成時間を大幅に短縮し、手入力によるミスも削減できます。
参考: https://store.google.com/intl/en/ideas/articles/pixel-screenshots/
業務横断・自動化の活用事例
本章では、特定の業務に留まらない、横断的な自動化に関するオンデバイスAIの活用事例を2点紹介します。
- 【企画× Apple】定型作業へのAI組み込み(Shortcuts)
- 【全社× Copilot+ PC】PC内データの自然言語検索(Recall)
これらは、日常的な反復作業をAIに任せたり、必要な情報を瞬時に探し出したりすることで、全社的な生産性向上に寄与します。それぞれの事例を詳しく解説します。
【企画× Apple】定型作業へのAI組み込み(ショートカット)
Apple 端末の「Shortcuts(ショートカット)」機能は、定型作業の自動化を促進します。オンデバイスAIモデルを呼び出すアクションが用意され、既存の自動化フローにAIの要約やテキスト生成を組み込めるためです。たとえば、「特定メールを要約しチャットに通知する」といった作業を端末内で自動化できます。これにより、企画担当者などは反復的な手作業を削減し、創造的な業務に時間を使えるようになります。
参考: iPhoneの「ショートカット」でApple Intelligenceを使用する - Apple サポート (日本)
【全社× Copilot+ PC】PC内データの自然言語検索(リコール)
Copilot+ PC の「Recall(リコール)」機能は、社内の情報検索時間を短縮します。端末内のNPU(AI専用プロセッサ)を活用し、PCでの過去の操作や閲覧文書を記憶し、自然言語で検索できるためです。「先週見た青いグラフ」のような曖昧な指示でも該当資料を瞬時に呼び出せます。データは暗号化され端末内に保存されるため、全従業員が資料を探す時間を安全に削減できます。
参考:
Manage Recall for Windows clients | Microsoft Learn
Privacy and control over your Recall experience - Microsoft Support
スマホ/PCで「今できること」比較
Apple、Android、Windows の端末AIを実機比較します。対応機種や日本語での要約・画面理解など、今できることを整理し、各OSの思想と今後の進化を探ります。
Apple Intelligence:主な機能と対応状況
OSに溶け込んだ文章支援や画像生成が、アプリ横断で業務を効率化します。2024年にベータ版として導入され、対応は iPhone 15 Pro やM1以降の Mac に限定されます。また、日本語にも対応しています。端末内で完結するAIが、日常業務の質と速度を安全に高めてくれます。
代表機能:ライティングツール(要約/校正/書き直し)、通知要約、画像生成(Image Playground/Genmoji)、Siriの画面理解、Shortcutsの“Use Model”
現在日本語で利用できる中核機能は、文章支援や画像生成です。これらはOSに統合されており、アプリを問わず利用できるため、日常業務を効率化します。
現在利用できる主な機能は以下の通りです。
- Writing Tools(作文ツール): 要約、校正、書き直し
- 通知の要約
- 画像生成: Image Playground、Genmoji
Siriの強化やVisual Intelligence(画像認識)など一部の機能は段階的に提供されます。そのため、導入時は用途別に提供状況を確認することが重要です。
参考:
Apple IntelligenceにImage Playground、ジェン文字などが導入されます - Apple (日本)
https://www.apple.com/newsroom/2025/06/apple-intelligence-gets-even-more-powerful-with-new-capabilities-across-apple-devices
対応端末:iPhone 15 Pro/16以降、iPad/Mac は Apple シリコン以降が対象
Apple Intelligence の利用は、高性能な Apple シリコンを搭載した近年のモデルに限定されます。高度なAI処理を端末内で完結させるために、強力なNeural Engine性能が必須となるためです。
具体的には iPhone 15 Pro 以降、iPad や Mac はM1チップ以降のモデルが対象です(iPhone 15標準モデルは非対応)。
導入計画の際は、機種とOSの条件を事前に確認することで、調達のミスマッチを防げます。
参考:
Apple Intelligenceを入手する方法 - Apple サポート (日本)
Apple Intelligence の日本語対応
Apple Intelligence の日本語対応は、2025年3月31日配信の iOS 18.4 や macOS Sequoia 15.4 から主要機能が提供されています。ただし、利用できる機能は言語や地域によって異なり、段階的に提供される予定です。
- 日本語対応済みの例: 作文ツール(要約、校正)、画像生成(Image Playground)、通知要約
- 段階的・将来提供の例: Siriのアプリ横断アクション、一部のビジュアルインテリジェンス機能
そのため、業務へ導入する際は、利用したい機能が現在のOSで日本語に対応しているか、事前に確認することが重要です。
参考:
Apple Intelligenceの機能が日本語で利用可能に - Apple (日本)
Apple Intelligenceを入手する方法 - Apple サポート (日本)
https://www.apple.com/apple-intelligence/
Android:AICoreとGemini Nanoの概要
Android は AICore を通じて Gemini Nano を端末内に配備します。現在は開発者向けプレビューとして提供されており、本章では、ML Kit や AI Edge SDK を用いた実装方法と、Pixel シリーズでの具体的な機能や対応状況を解説します。
代表的な機能と実装API
Android アプリに端末内AIを実装するには、ML Kit GenAI API の利用が簡単です。このAPIは、AICore が管理する Gemini Nano を呼び出します。
AICore は「Private Compute Core」の原則に基づき、ネットワークから分離され、リクエストの入出力データは保存されない設計です。そのため、プライバシーを保護しながら、要約や校正といった機能を数行のコードで安全に追加できます。
※より詳細な制御には AI Edge SDK も用意されています。
Pixel の実装状況
Pixel シリーズのオンデバイスAI機能は、機種や言語で利用範囲が異なる点に注意が必要です。同じ Gemini Nano を搭載していても、世代間で提供状況や性能に差があります。
たとえば「レコーダー」の要約機能は、Pixel 9 で日本語に対応しますが、Pixel 8 シリーズでは英語のみです。また、Pixel 8/8a でこの機能を使うには開発者オプションの有効化が求められます。Pixel 10 では Gemini Nano v3 が搭載され、性能も向上しています。
導入前に機種ごとの対応状況をしっかり確認しておくと、「思った機能が使えない」といった失敗を防げて安心です。
参考:
Android Developers Blog: A New Foundation for AI on Android
ML Kit GenAI API | Android Developers
ML Kit の生成 AI API の概要 | Google for Developers
Google AI Edge SDK | Android Developers
Pixel Drop March 2025: All the latest features for Pixel devices
Gemini Nano Multimodal Capabilities on Pixel Phones
Copilot+ PC:NPU要件と代表機能
Copilot+ PC は、AI処理に特化したプロセッサ(NPU)を搭載し、高度なAI機能をローカル環境で実行できる新しいPCのカテゴリです。これにより、従来のPC体験を刷新する独自の機能が利用できます。本章では、Copilot+ PC の厳格な動作要件と、生産性を向上させる代表的な機能について具体的に解説します。
高度なAI体験を支える動作要件
高度なAI体験を支える動作要件
Copilot+ PC には、OS標準のAI機能をローカルで安定稼働させるための厳格なハードウェア要件があります。NPU性能やメモリ容量が、AI体験の基盤となるためです。
Microsoft が定める主な要件は以下の通りです。
- NPU: 40 TOPS以上
- メモリ: 16 GB以上
- ストレージ: 256 GB以上
- 対応SoC: Snapdragon X、Ryzen AI 300、Core Ultra 200V の各シリーズ
これらの基準を満たすことが、Copilot+ PC として認定される条件です。
生産性を向上させる代表的な機能
Copilot+ PC は、その高い処理能力を活かして生産性を向上させる独自のAI機能を提供しています。これらの機能は端末内で処理が完結するため、高速な応答と高いセキュリティを両立できます。
代表的な機能として、以下が挙げられます。
- Recall(リコール): PC上の過去操作を記憶・検索するプレビュー機能。利用はオプトイン(同意)が必要で、データはローカルで暗号化。Windows Hello(ESS)認証で必要な時だけ復号されます。
- Live Captions(ライブキャプション): 44以上の言語の動画や音声を、リアルタイムで英語の字幕に翻訳します。
このように端末内で処理が完結する機能は、ユーザーの生産性を大きく向上させます。
参考:
Copilot+ PCs developer guide | Microsoft Learn
Shop Copilot+ PCs: Windows AI PCs and Laptop Devices | Microsoft Windows
Retrace your steps with Recall - Microsoft Support
Releasing Real-Time Translation in Live Captions to More Copilot+ PCs in the Dev Channel | Windows Insider Blog
Manage Recall for Windows clients | Microsoft Learn
オンデバイスAIの導入ロードマップとセキュリティ設計
オンデバイスAIを導入したものの、効果を実感できないという失敗を防ぐため、本章では具体的なロードマップを提示します。小さな成功を積む導入手順、投資対効果の算出フレーム、そして情報漏洩を防ぐセキュリティ設計の要点までを一気通貫で解説します。
導入ステップ:スモールスタートで進める4手順
「スモールスタート」で着実に成果を出すための、4つのステップを解説します。具体的なユースケース選定から、PoC(概念実証)での効果検証、そして本格展開後の運用設計まで、関係者の合意を得ながら安全に導入を進めるための実践的な手順です。
ユースケース選定
まず、オンデバイスAIの強みが活きる業務を一つに絞り込みます。オフライン環境での利用や機密情報を扱う業務など、端末内処理だからこそ価値が高まる場面に集中することで、初期の成功確率を高められるためです。たとえば、「営業担当者が会議の録音をその場で要約し、報告書作成の手間を削減する」といった、効果を測定しやすい業務から着手します。小さな成功事例を作ることで、関係者の理解と協力を得やすくなります。
機種要件の整理
次に、目的の機能が動作する端末とOSの要件を正確に確認します。Apple IntelligenceやCopilot+ PCなどの機能は、特定のチップ(NPU)やOSバージョンが必須であり、要件を満たさない端末では動作しません。調達ミスを防ぐためにも、この確認は不可欠です。PoC(概念実証)用に最小限の台数を用意し、MDM(モバイル端末管理)で設定を統一することで、環境差異によるトラブルを回避できます。
PoC(概念実証)の実施
協力的な小規模チームでパイロットテストを行い、実用性を客観的に評価します。全社展開の前に、実際の業務環境で精度や処理速度、バッテリーへの影響などを検証し、投資判断に必要なデータを収集するためです。「報告書作成時間が平均30%削減された」といったKPI(重要業績評価指標)で効果を数値化し、どのデータが端末内で処理されるかを記録します。の定量的な成果が、次のステップへ進むための説得力ある材料です。
本格展開と運用設計
PoCで効果が実証できたら、運用ルールを整備し段階的に展開します。安全性と効果を維持しながら利用範囲を拡大するには、OSやAIモデルの更新計画、監査ログの管理といった仕組み化が不可欠です。利用者向けのFAQを整備したり、定期的なアップデート計画を立てたりすることで、管理者の負担を軽減しつつ統制を維持します。計画的な運用設計により、組織全体で安全かつ持続的にAI活用の恩恵を受けられます。
ROI(投資対効果)の簡易フレーム
オンデバイスAIへの投資を判断する際は、クラウドの従量課金と端末の初期投資を比較するROIフレームが有効です。利用量に比例して増えるクラウド費用に対し、オンデバイスは運用コストを抑えられます。また、低遅延やオフライン利用といった副次的な便益も考慮することで、投資回収の目安を数字で明確に示せます。
クラウドとオンデバイスのコスト構造比較
投資判断では、クラウドAPI利用料と端末関連の総コスト(TCO※)を比較します。クラウドは利用量に応じて費用が増えますが、オンデバイスはNPU※搭載端末への初期投資が中心です。以下の表で示す通り、セキュリティやパフォーマンス面でも違いがあり、利用量が多いほどオンデバイスのコスト優位性が高まります。
※TCO(Total Cost of Ownership):製品の導入から廃棄までにかかる総費用のことです。
※NPU(Neural Processing Unit):AIの処理を高速化するための半導体を指します。
| 項目 | クラウドAPI | オンデバイスAI |
|---|---|---|
| 初期投資 | 低 | 高(対応端末の購入) |
| ランニングコスト | 従量制 | ほぼ0(電力など軽微) |
| セキュリティ | 外部送信が前提 | 端末内で処理が完結 |
| パフォーマンス | ネットワーク環境に依存 | 低遅延・オフライン利用が可能 |
投資回収月数の計算式
投資回収期間は、クラウド費用の削減効果から具体的に算出できます。これにより、端末購入などの初期投資がどのくらいの期間で回収できるかを数字で明確に示せます。たとえば、GPT-5 miniを利用した月1.8万円のクラウド費用がオンデバイス化で実質1.12万円削減できる場合、20万円のPCは約17.8か月で回収できます。
投資回収月数の計算式
回収月数 = 初期投資 / (月間クラウド費削減額 + 時間短縮の人件費換算額 - 月間運用増分)
試算例
- クラウド費用: 月間2億トークンの処理にGPT-5 miniを利用し月額18,000円
- コスト削減効果: 処理の90%を代替し、運用増分(5,000円)を差し引いた純削減額は月額11,200円
- 投資回収期間: 200,000円 ÷ 11,200円 = 約17.8か月
このフレームワークにより、自社の利用状況に合わせた投資対効果を客観的に評価できます。
参考:
learn.microsoft.com/en-us/windows/ai/npu-devices/
TCO(Total Cost of Ownership)とは?概要から理解し最適化するための基本ガイド | ドコモビジネス | NTTドコモビジネス 法人のお客さま
digital-factory-transformation-survey-2022.pdf (保護)
セキュリティ設計チェックリスト(データ流×信頼基盤×アプリ設計)
オンデバイスAIを安全に活用するには、「データがどこを通過し、どう守られるか」の設計が不可欠です。本項では、データフローの可視化から、TPMなどの信頼基盤、アプリ権限の管理まで、情報漏洩を防ぐための必須チェックリストを提示します。
データフローの可視化(どのデータが端末内/クラウドに行くか)
AI機能ごとに入力から出力までのデータ経路と保存先を可視化することが重要です。データが端末内で完結するか、クラウドに送信されるかによって、情報漏洩のリスクや監査の要件が大きく異なるためです。
たとえば、機能によってデータの扱いは以下のように分かれます。
- 端末内処理の例: Apple Intelligenceの要約機能、WindowsのRecall機能
- クラウド処理の例: ChatGPT連携機能、Microsoft 365 Copilot
このようにデータフローを整理することで、潜んでいるリスクを正確に把握し、適切な情報管理を実現できます。
端末の信頼基盤:TPM/Pluton、Secured-core、Windows Hello ESSなど
オンデバイスAIの前提として、TPMやMicrosoft Plutonを核とした端末の信頼性が求められます。これは、改ざん耐性と本人性を担保するためです。
そのために、以下のような機能の標準化が進められています。
- Secure Boot
- ディスク暗号化(BitLocker/FileVault)
- Secured-core PC
- Windows Hello Enhanced Sign-in Security(ESS)
- リモートワイプ
これらの機能で端末を堅牢化(けんろうか)することにより、情報漏洩や不正利用の抑止につながります。
アプリ側の境界:権限・オプトイン・保存ポリシー・監査
アプリケーションは、「最小権限の原則」や「明示的なオプトイン(ユーザーの同意取得)」、明確な「保存ポリシー」、「監査ログ」を前提として境界を設計します。権限やデータの保存先を必要最小限に絞り込むほど、情報漏えいや誤用といったリスクを抑えられるためです。
たとえば、以下のような設計が挙げられます。
- Windows Recall: ユーザーが同意した項目のみを保存し、アクセスに生体認証を要求します。
- Apple Intelligence(ChatGPT連携): 外部に情報を送信する前に、都度ユーザーへ確認を行います。
- Android AICore: Private Compute Coreという安全な領域で処理を行い、ネットワークから遮断します。
このような設計を標準化することで、処理の「透明性」と「統制(ガバナンス)」の両立を図れます。
ハイブリッド前提のガバナンス(ID/暗号化/分離)
オンデバイスAIとクラウドを併用する場合、ID管理や暗号化、データの分離といった対策を、統一されたポリシーで運用します。セキュリティの基準を揃えることで、権限の逸脱や情報漏洩のリスクを抑えられるためです。
具体的な対策として、以下が挙げられます。
- Microsoft Entra IDやOAuthによる認証の統合
- 端末でのAI操作ログとクラウドAPIログの集中監査
- 通信時(TLS)および保存時におけるデータの暗号化
- 業務用・個人用・検証用など、用途に応じたネットワークの分離
このように、全ての行程で一貫した対策を講じることが、セキュリティと説明責任の向上につながります。
参考:
https://www.apple.com/jp/apple-intelligence/
support.microsoft.com
Microsoft Pluton セキュリティ プロセッサ | Microsoft Learn
learn.microsoft.com
www.android.com
おわりに
オンデバイスAIは、端末内で処理が完結することにより、高速な応答とプライバシー保護の両立ができます。ただし、導入にはプラットフォームごとの要件を見極める必要があります。
たとえば、スマートフォンでは機能や言語、機種による差があり、PCでは「Copilot+ PC」が要求する40 TOPS以上のNPU性能など、特定のハードウェアが前提となるためです。
まずは「Apple Intelligence」や「AICore と Gemini Nano の連携」、「Copilot+ PC」などで小規模な検証から始めることをお勧めします。
同時に、本記事で解説した「データフローの可視化」「端末の信頼基盤」「ID管理・暗号化・分離」といったセキュリティ設計を統一的に整備することが重要です。適切なハイブリッド運用を設計し、効果を測定しながら段階的に活用範囲を広げていくことで、短期的に安全なAI活用の成果が期待できます。
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※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。
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