医療現場の安全な生成AI活用を促進 ローカル環境のRAGシステムをHPワークステーション上に構築 | HP Tech&Device TV

医療現場の安全な生成AI活用を促進
ローカル環境のRAGシステムをHPワークステーション上に構築

心身障害児総合医療療育センター

産業分野を問わず生成AIの業務活用に期待が高まっているが、機微情報を扱う分野ではセキュリティの観点から導入に慎重にならざるを得ない。そうした中で、障害のある子どもたちを支援している心身障害児総合医療療育センターは、業務システム内に蓄積された看護手順書やヒヤリハット事例集など資料から情報を検索・活用できる安全な生成AI環境構築のPoC(実証評価)を実施した。ノーコードの高精度RAG(検索拡張生成)製品ChatBridとHPのワークステーションを活用して、ローカル環境で実施したPoCの概要および評価結果について関係者に話を聞いた。

<目的>

  • 機微情報を含む看護手順書やヒヤリハット事例集などから、RAGを用いた生成AIによって情報を効率的に検索・生成できる仕組みが、経験の少ない若手や新入職員の教育と医療の質を確保して患者の命を守ることにもつながる心強いシステムになることに有用であることを検証

<アプローチ>

  • ローカル環境において動作するRAGシステム「ChatBridOR」と、それを下支えするAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WXを搭載したHPワークステーションを採用

<システムの効果>

  • ローカル環境内でセキュアかつ高速に生成AIおよびRAGの活用が可能
  • LLMモデルの切り替えが高速でありPoCを効率的に実施

<ビジネスの効果>

  • 組織内の看護手順書およびヒヤリハット事例集から効率よく情報を検索・取得
  • 不足しているナレッジを容易に特定し看護手順書を効率よく改訂可能に
  • 患者の命を守るための医療安全と医療の質を確保するためのシステムを構築
  • 医師、看護師などの医療従事者の働き方を変革する医療DXの手段の1つとして貢献

心身障害児の医療療育で中心的な役割を担う

―心身障害児総合医療療育センターの概要や特色についてお教えください。

センター小﨑
当センターは、手足が不自由なお子さんをはじめ、発達障害のあるお子さんや医療的ケアが日常的に必要なお子さんなどに対して、医療と福祉を中心にさまざまな視点から支援を行っている国立民営の総合的な医療療育相談機関です。また、日々の実践や工夫、研究の成果を全国の療育関係者に伝える教育研修事業を行うなど、日本の療育活動のレベルアップを図ることも当センターの使命です。

社会福祉法人日本肢体不自由児協会 心身障害児総合医療療育センター 常務理事・所長 小﨑 慶介 氏
社会福祉法人日本肢体不自由児協会
心身障害児総合医療療育センター
常務理事・所長
小﨑 慶介 氏

―今回の生成AIの実証実験に至った背景および、解決したいと考えていた業務課題についてお聞かせください。

センター小﨑
当センターは80年以上の長い歴史があります。入所される方々の障害の状況も多様で、必要な支援内容は非常に多岐にわたります。そのため業務に当たる職員には、広範囲かつ専門的な知識や経験が求められるのです。

ところが、リハビリや保育などの各部門は独立性が高く、積み上げられた知識が1つのナレッジベースとしてまとまりにくい状況でした。また、ヒヤリハットの報告についてはシステムに記録して蓄積しているものの、検索性が悪く部門を越えた情報共有がしやすいものではありませんでした。そんな中、数年前から別の研究でご協力いただいているメタデータの野村さんとの会話がきっかけで着目したのが生成AIです。これを用いた検索の仕組みで新入職員の効率的な教育とヒヤリハットの共有に役立てられないかと考えました。

センター中田
他の病院で歴が長い職員であっても、当センターでは特殊なケアや判断が必要な療育ならではの知識を身につけなければなりません。その観点から知識を効率的に収集できる仕組みは特に重要です。もし過去の事例を自分で容易に調べられれば成長につながります。また、知識ゼロの状態よりも事前に知識をインプットしたほうが先輩にも相談しやすくなります。

療育記録については、情報共有のためにオーダリングシステムの運用が定着していますし、ヒヤリハット事例についてセンター内で開発したアプリ上に蓄積しているので、すでにデジタルデータになっています。それらを情報ソースとして、職員からの質問に回答できるRAG(検索拡張生成)を取り入れた生成AIシステムを実現したいと考えました。

社会福祉法人日本肢体不自由児協会 心身障害児総合医療療育センター 事務部施設管理課 情報処理係 医療療育情報室 主任 中田 章 氏
社会福祉法人日本肢体不自由児協会
心身障害児総合医療療育センター
事務部施設管理課 情報処理係
医療療育情報室 主任
中田 章 氏

メタデータ野村
限られた人員で業務を行う医療機関にとって、AIが業務手順や過去のベストプラクティス、業務でしてはいけないことを新人や若手のスタッフに示してくれることは、患者の命を救うことにつながり、とても心強い存在になりえると考えています。

ローカル環境でのシステム構成で機密情報を生成AIに利用

―PoCで構築したシステムの特徴を、技術的な観点からお聞かせください。

メタデータ野村
機微情報を扱うため、外部と遮断したセンター内のローカルネットワーク上での利用が前提となります。そこで、当社開発のオンプレミスRAGシステム「ChatBridOR」を使用しました。OSSのLLMを採用しており、推論の実行からRAGのためのデータ検索・取得まで、すべてローカル環境で完結できます。

パラメータ数が小規模なモデルのLLMでも高い応答精度を実現する1つの方法として、RAGで参照させる情報を、論理構造をシンプルに明示したマークダウン形式にするアプローチがあります。ChatBridORは、RAGのために使用するファイルがPDFであっても文書の構造を推測し、自動的に修復してマークダウン化する機能を備えています。そのため、すぐに使い始められて知識開発に集中できるようになります。

メタデータ株式会社 代表取締役社長 野村 直之 氏
メタデータ株式会社
代表取締役社長
野村 直之

センター中田
PoCでは、PDF形式の看護手順書を取り込みましたが、絵で表現している部分もうまく変換されており、非常に感動しました。

メタデータ野村
AIの活用ではデータを用意する前処理の作業がしばしば課題になります。しかし、ChatBridORでは、当社が「AI for AI」と呼んでいるように、AIの性能を引き出すための前段のデータ処理にもAIの技術を活用しています。

一方で、人命にも関わるシステムですから、勝手に推測せず正確を期すための工夫もしています。また、AI特有のブラックボックス化を解消するため、回答の根拠となった箇所が参照先の資料のどこにあったのかを示すとともに類似の根拠となる共通の単語や類義語に多色で色付けする「ビジュアル類似検索機能」を用意しています。こうすればAIの回答を納得した上で利用したいという医療現場のニーズを満たせます。

さらに、この機能があることで、正しい回答が得られなかった場合に「質問したことの答えがシステム内になかったので追記が必要である」ということに気づけるので、「知識デバッグ」が容易であり、よりよいマニュアルへとブラッシュアップしやすいのです。

―ハードウェアについてはいかがでしょうか。本PoCではHPからの貸出機を利用したそうですね。

HP勝谷
展示会で野村様からPoCの具体的な構想を伺ったところ、HPのワークステーションの強みを生かせるローカル環境でのAI利用であり、医療はもとより他の業界の新人教育にも展開できる意義のある取り組みでしたので、喜んでご提供することにしました。

今回の機種は「HP Z6 G5 A Workstation」を利用しています。具体的なスペックとしてCPUは96コア192スレッドを持つAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WXを搭載し、256GB DDR5メモリ、高速SSD。GPUはRTX6000 Adaで構成しています。

メタデータ野村
ChatBridORはコアがあればあるだけ使うスーパーマルチスレッドで動作するため、このCPUの能力を最大限に利用して、高速に処理できます。また、ワークステーションについては、コンパクトな筐体に最大3枚のGPUを搭載可能なことも魅力ですし、信頼性とセキュリティの面でも要件を満たしている製品です。生成AI時代を先取りした設計だと感じました。

株式会社 日本HP ソリューション営業本部 ワークステーション営業部 AI/DS市場開発担当部長 勝谷 裕史 氏
株式会社 日本HP
ソリューション営業本部 ワークステーション営業部
AI/DS市場開発担当部長
勝谷 裕史 氏
センター内に設置されているHP Z6 G5 A Workstation
センター内に設置されているHP Z6 G5 A Workstation

現場業務で実用的な回答精度とスピードを確認

―PoCを通じてこれまで得られた成果や構築したシステムの評価についてお聞かせください。

センター中田
大きな成果は、看護手順書とヒヤリハット事例がうまく組み合わさった回答を数秒で示し、PoCに参加した看護指導部からかなり好評だったことです。AI活用に手応えを感じたようで、将来的には患者さんの情報を参照する際に、注意するべき情報をAIが自ら自動で提示してくれることを期待する意見もありました。

一方でLLMの種類については、Llama3.1 Swallowの70Bと8Bを切り替えて比較検証しました。性能を考えれば70Bが望ましいですが、プロンプトの設定次第で8Bでも十分に運用できる回答が生成できることがわかりました。ChatBridの持つ文章の構造解析と日本語処理を活かして、既存の文章をRAGシステムに利用できることは、生成AI活用の導入ハードルを下げるという点で非常に大きな意味を持つものだと感じています。

メタデータ野村
モデルの切り替えではGPU上のメモリにあるデータを丸ごと読み直す処理が発生するのですが、とても高速なことに驚きました。切り替え作業がよく発生する開発中は非常に助かりました。

HP勝谷
さまざまな要因が合わさっていますが、192スレッドを実現しているCPUが処理時間の短縮に大きく貢献しているのは間違いないでしょう。今回のPoCではパラーメータが異なる生成AIモデルを使用し、性能比較をしました。モデルデータの入れ替えにはCPUを使います。良い性能が出せるパラーメータが大きいモデルはデータ容量も大きくなります。容量が大きいモデルを入れ替える際に96コア192スレッドを持つAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 7995WXの高い処理性能が作業時間の短縮に貢献しました。

ChatBridORを用いて、看護手順書の情報を参照して回答を生成するRAGシステムを実現
ChatBridORを用いて、看護手順書の情報を参照して回答を生成するRAGシステムを実現

全国の療育施設での活用を視野に

―今後の展望についてお聞かせください。

センター小﨑
このような情報ツールが全国の療育施設にも広がることになれば、当センターが実施する研修に、使い方の科目が追加される可能性はあります。また、コアになる情報と各施設固有の情報をうまく切り分け、定期的に情報を共有することで、ナレッジベースを全国で育てることもできるかもしれません。

メタデータ野村
そのためには価格面が大きな課題です。いくら費やしても精度とスピードを上げたいという企業とは異なり、初期投資をなるべく抑えつつ納得のいく結果を出せる構成が求められるのではないでしょうか。当社としてもハードウェアの構成やソフトウェアでの工夫でコスト問題の解消に努めたいと思います。

センター中田
もし、今よりさらに導入しやすい価格になれば、当センターのノウハウも活用して、療育に携わる若い人たちのための 教育ツールとして全国の療育施設に普及できそうです。急性期病床では数秒で結果が欲しい場面が多いと思いますが、そうでない現場では1、2分待ってもよいシチュエーションもあります。また、精度についても、最後は人間が確認と判断を担うことになるので、100%でなくとも許容できる精度であれば利用できます。用途に合わせて必要十分な構成のワークステーションが、現実的な価格で手に入れられるようになることを期待しています。

HP勝谷
ワークステーションも市場に多くの製品があります。そうした中で当社としては、現場が求める生成AI処理のユースケースやスペックを理解し、幅広い現場でのAI活用を促進できるための選択肢を増やしていきたいと思います。

集合写真

※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。

HP Z8 Fury G5 Workstation

HP Z6 G5 A Workstation

最大96コアAMD Ryzen™ Threadripper™ PRO プロセッサ搭載可能、ハイエンド GPUを最大3基搭載可能なAMD採用のフラッグシップモデル。

ワークステーション