2021.12.22
株式会社CADネットワークサービス
建築デザインの世界では日々、3Dデータが作られ続けている。それらは一度使ってしまえば記録として保存され、そのまま眠り続けるが、そのデータが再利用できるとしたらどのような価値観が生まれるのであろう。そんな考えを具体化しているのが株式会社CADネットワークサービスだ。同社では巨大なデータ群を仮想空間に蘇らせ、様々な可能性を見出しているという。どのような取り組みなのか伺ってきたので紹介しよう。
株式会社CADネットワークサービス
取締役 兼 技術本部 部長 まなVRクラウド責任者 多ケ谷和義(左)
BIMソリューション部 課長 吉井一絵(右)
株式会社CADネットワークサービス(以降、CADネットワークサービス)は、その社名通り、先端技術であるBIM/CADなどのデジタルソリューションと人間を結び付け、顧客が求めるニーズを十分に満たしたサービス提供を続けてきた企業だ。CGパース・静止画CG制作、BIMソリューション、BIM/CADトレーニング、総合人材サービスなどから、VRコンテンツの制作まで幅広い分野で多くの実績を持ち、顧客満足度の高さから各方面に厚い信頼を得ていることでも知られている。
「デジタルを使った業務を長年続けてきて、そのデータ資産も延べで計算すれば膨大な情報量になります。しかし、実際にはそれらのデータは使われたらそれで終わりで、次の業務が来れば、また最初から作らないといけません」と語る多ケ谷氏。多くの建築業者がそうであるように、日々発生するBIM/CADによる各種データは案件のために使われるのみで、その後はアーカイブされるのが通例だ。
「しかし、そのようなデータでも形を変えて再編集することで再利用することができるのでなはないか。そう考えたときに仮想空間の中に街を作ってみようという考えが浮かびました」と多ケ谷氏は言葉を続ける。一度はアーカイブされたデータを再編集して、それらの建築物を使って仮想空間に存在させ自由自在にその中を歩く。ビル、住宅、道路などあらゆるものを作り続けてきたCADネットワークサービスなら、それらを素材として街を構築することも可能になるというわけだ。
「その街を、顧客に対してプレゼンテーションする場に利用したり、新人がモデルを作るときにトレーニングに使ったりするなど、実に様々なことができます。アイデア次第で無限の可能性を秘めた街、すなわちこれが『CADNET CITY』構想です」と多ケ谷氏は説明する。
しかし、そのアイデアを実現するには大きな壁があったという。「当然ですが、巨大なデータをリアルタイムに処理するには圧倒的なマシンパワーが必要です。弊社で使っているマシンにもハイパフォーマンスのワークステーションがありますが、それ以上のパワーが必要になることが分かりました。そこでHPさんに相談したのです」と語る多ケ谷氏。
この依頼を受けたHPはすぐに要件に見合うワークステーションを提案、それが今回CADネットワークサービスに導入されたインテルXeonプロセッサーを搭載するHP Z8 G4 Workstation(以降、Z8 G4)だった。
情報資産の有効活用でさらなる活路を見出す多ケ谷氏
「CADNET CITYのベースとなっているのがAutodeskの3ds Maxで作ったデータで、それをUnityで変換してアップしています。それに加えてBIMソリューション部ではRavitとGRAPHISOFTのArchicadも使うので、それらを変換しようとすると従来の環境ではとても重くなってしまうのです」と同社のBIMチーム全体のディレクションを担当する吉井氏は語る。
実際のオペレーションでZ8 G4の能力をマネジメントする吉井氏
こうした環境の違いはもちろん、特殊な形状のデザインのものをCADNET CITY内でリアルタイムレンダリングする場合は非常に負荷がかかる。それを解消するためにCADネットワークサービスが導入したZ8 G4は、インテル® Xeon® 6226Rをデュアルで搭載、グラフィックスにはNVIDIA Quadro RTX5000が2基、メインメモリが192GB、メインストレージは1TB SSDをHP Z Turboで稼働させている、いわば現時点(2021年11月現在)で最先端の仕様となっている。
「これがとても驚きました。同じ画角で処理させた場合、ドラフトでは18.45秒のものが18.05秒とそれほど変化がありませんでしたが、高画質にしたところ2分31秒だったものが1分04秒に短縮できました」と吉井氏はベンチマーク時の結果を振り返る。この状況でも2倍以上の改善がみられたが、圧巻だったのは実際に客先へ納品する際と同じ最高品質でのベンチマークだったという。「それがなんと、従来の環境では46分08秒かかっていたものが、12分15秒と劇的に短縮されたのです」と吉井氏。つまり、Z8 G4のパフォーマンスによって、最大で1/4もの処理時間短縮効果があったというのだ。
「これはほんの一例にすぎませんが、実際の業務データの場合はもっと負荷の高いデータもありますから、その効果は絶大です。これまでは納品日に合わせてレンダリングまでの時間を加味してスケジュールを組んでいましたが、Z8 G4ならコーヒーを飲んでいる間に終わってしまうことになります。時間が有効に使えるので、戻って修正して、といった作業を繰り返せますから、作業効率もクオリティも上がることになりますね」と吉井氏は導入の手応えを語る。
複雑な形状の建物や、無数のオブジェクトを処理していくにはハイパフォーマンスなワークステーションが必須となる
コロナ禍によってワークスタイルを変更する企業が増えたがCADネットワークサービスに関してもそれは例外ではなく、積極的な在宅ワークを採用しているという。「弊社では全社員を5つのグループに分けて、交代で週一勤務をおこなっています。つまり週4日は在宅ワークになりますので、ワークステーションは各自の自宅へ送付してそちらで作業にあたっています」と多ケ谷氏。
Z8 G4に関しては吉井氏の自宅へ送付し、生活環境での稼働も体験しているのだ。「会社ではデスクの下にワークステーションを入れていましたから、音に関してはまったく考えていませんでした。しかし、以前のマシンを自宅で動かすとその騒音がすごかったのです」と振り返る吉井氏。その後、Z8 G4と入れ替えた際に驚いたのはその静寂性だという。
「以前とはまったく違い、レンダリングや負荷の高い作業をしてもマシンがうなることがありませんでした。もちろん多少のファンノイズのようなものは感じますが、本当に動いているか疑いたくなる程度のものでした」と驚きを隠せない吉井氏。この静寂性を体験してしまった結果、「元のマシンへは戻れませんね」と同氏は笑顔で語る。
Z8 G4はCADNET CITYのスムーズな運用と、作業環境の改善に大きな効果を発揮しているのだ。
「VRはテクノロジーの進歩と歩調を合わせて進化しています。以前は出来なかったことが出来るようになる。以前はひとつのビルの内外を見るのが精いっぱいでしたが、CADNET CITYではひとつの街を自由に移動し、あらゆるものを体感できます。」と多ケ谷氏は語る。
CADNET CITYには住宅街やビル群、高速道路などあらゆる施設がある
CADネットワークサービスでは「まなVRクラウド」という仮想空間での学習サービスを展開しているが、実際にCADNET CITYにある道路や建物を使って、交通事故のシミュレーションを実施するなど実用段階に入りつつあるコンテンツもあるのだという。
「ほかにも建物の作り方を学ぶコンテンツや、建設機械の操作学習など、街を舞台にした様々な学びにも利用できると思います。CADNET CITY構想はまだ始まったばかりですが、今後の展開が非常に楽しみです」と多ケ谷氏は語る。
現在は郊外型の都市をモデルとしているが、海沿いの街、山間部の街、密集した住宅地等、日本全国にあるあらゆるタイプの街を創造していくことも想定しているという。「ほかにも弊社にはベトナムにグループ会社がありますが、そこの若手オペレーターにベトナムの街を作ってもらうことも検討しています。それぞれをネットワークで繋げば、大きな可能性を持った国際仮想都市が生まれますね」と多ケ谷氏は笑顔で語る。
「もちろん、そうなるにはマシンパワーはもっともっと必要です。HPさんには引き続き、時代の先端をいくパワフルで価値のあるワークステーションを提供いただければと思います。また、私たちはHPさんのVRパートナーでもあるので、VRに取り組んでいる様々な企業の方々とも結びついていければアイデアもシナジーも生まれてくると思います。その中でCADNET CITYも発展させたいですし、VRの可能性も高めていければと思います」と多ケ谷氏は最後に語ってくれた。
HPはCADネットワークサービスの今後の取り組みを加速させるために、これからもサポートを続けていく。