2019.12.20
映像圧縮転送技術などを開発する天馬諮問は、同社が手掛ける手術室の高精細映像配信システムに、日本HPの高性能ワークステーション「HP Z Workstation」シリーズを採用した。処理性能・信頼性の高さに加え、充実したサポート体制が導入の決め手になった。
私たちの暮らしの中でいつ遭遇するか分からないケガや病気といったアクシデント。そんな状況に電話一本で即座に駆け付けてくれる救急隊は心強い存在だ。しかし、そんな存在が無くなってしまったらどうだろうか──。消防庁によれば、2017年の救急出動件数は過去最高の634万超に達し、10年前と比較すると約20%増加している。その一方で、救急隊数は約6%の増加にとどまっている(「平成30年版 消防白書」より)。
今から10年ほど前、同様に救急車が搬送する患者を受け入れる救急病院が見つからない“患者のたらい回し”が大きな社会問題になっていた。搬送中の患者の重症度を正確に伝えきることができず、患者を受け入れる準備が追い付かないことが、病院側が救急車の受け入れを断る要因の一つだった。
そんな状況下で、救急車内の様子をリアルタイムに映像配信し、病院側が患者の容体を確認・把握できれば迅速な受け入れ態勢が整えられるなど問題解決につながると考えたのが天馬諮問だった。
同社は12年1月、映像圧縮転送技術の開発とその技術を活用したソリューションの提供を目的として創業された企業で、もともと大手製薬会社の研究開発部門で画像・映像処理を担当していた代表取締役の篠原雅彦社長ら数名の技術者有志が製薬会社をスピンアウトして設立した。
「画像・映像処理を行う上で、広く普及している既存の技術は扱いにくいという課題を抱えていました。それならば既存技術よりも優れた新技術を研究開発しようと、製薬会社を飛び出して天馬諮問を設立しました」(篠原社長)
独自の画像・映像圧縮アルゴリズムとコーデックの研究開発に取り組んだ同社は、既存技術に比べて3分の1程度のデータサイズにまで圧縮できる新技術を開発した。そして、その成果を具体化する最初のソリューションとして「救急搬送サポートシステム」を完成させる。
救急搬送サポートシステムは、救急車内に設置したカメラで患者の様子を撮影し、その映像を生体モニターのデータとともに天馬諮問のデータセンターへ伝送。病院側からインターネット回線を通じてデータセンターに接続すれば、高精細な映像を見ることができるというものだ。救急車からの映像は、わずか数Mbps程度という低速の3G回線でも転送することができ、ここに天馬諮問の独自圧縮技術が生かされている。
13年6月に救急搬送サポートシステムの提供を開始すると、全国の消防本部が続々と採用。現在までに、同システムを搭載した救急車は全国で200台以上も走っている。このシステムをきっかけに、当面は医療・災害分野などのニッチな領域にフォーカスした映像圧縮転送ソリューションを提供するようになったと篠原社長は話す。
救急搬送サポートシステムの延長として、天馬諮問が続いて取り組んだのが「手術室高精細映像アーカイブシステム」だ。これは、病院の手術室で撮影した手術の様子など高精細の術野映像をリアルタイムに圧縮・蓄積し、ライブ配信を実現するというもの。
「現在、多くの病院が医師・医療スタッフの情報共有、患者へのインフォームドコンセントやエビデンスなどを目的に、術野映像をアーカイブして記録・保存するという取り組みを始めています。術野映像を学術発表やカンファレンスの資料として利用したり、医学生の教育に用いたりする場合もあります」(篠原社長)
すでに同様のシステムを導入している病院は増えているものの、最近になって既存システムの課題が浮き彫りになりつつあるという。
「近年、患者の負担を軽減する内視鏡手術が広く行われるようになり、その様子を映し出すデジタル映像の品質は高精細の一途をたどっています。従来のアーカイブシステムはフルHDの映像をBlu-rayやDVDに保存するものが多く、長時間にわたる手術中の映像を記録できないという課題がありました。4K/8Kなどさらに高精細な映像のアーカイブやライブ配信することは非常に困難です」(篠原社長)
そこで天馬諮問は、同社の優れた映像圧縮技術を応用した手術室高精細映像アーカイブシステムの開発に取り組むことにした。しかし、システムの開発には乗り越えなければならないハードルがあった。
「救急搬送サポートシステムの場合、救急車内に配備したタブレットでも十分高速に映像圧縮処理を行うことができます。ところが、手術室高精細映像アーカイブシステムに求められる品質で映像圧縮処理を行うには、タブレットはもちろん、一般的なデスクトップPCでも容易なことではありません」(篠原社長)
高精細な映像を高速に処理するには、どうすればよいか。天馬諮問が行き着いたのは、高性能ワークステーションを採用することだった。高性能プロセッサとグラフィックスを搭載したワークステーションならば、非常に負荷がかかる高精細映像の圧縮処理も難なくこなすことができる。
では、どんなワークステーション製品が手術室高精細映像アーカイブシステムに適しているのか。当然のことながら高性能スペックのハイエンドワークステーションを導入すれば、処理の問題はクリアできるが、その分コストがかかってしまう。製品選定を決めあぐねていた同社は、プロセッサメーカーのインテルに相談。そこで紹介されたのが、日本HPの高性能ワークステーション「HP Z Workstation」シリーズだった。
「複数のワークステーション製品を比較検討した結果、HP Z Workstationはミッドレンジモデルの『HP Z4 G4 Workstation』でも必要な処理性能を発揮することが分かりました。ワークステーション市場におけるシェアがナンバーワンであり、信頼性の高さも申し分ありません。さらに国内生産の安心感、手厚いサポート体制も評価しました。当社が実証実験を実施する際にもさまざまな支援、協力をしてくれたこともあり、HP Z Workstationを採用することに決めました」(篠原社長)
手術室の高精細映像アーカイブシステムでは、フルHDや4Kの映像品質の場合にはインテル® Xeon® W-2145 プロセッサを搭載した「HP Z4 G4 Workstation」を使用している。このZ4にはさらに、インテル® Optane™ SSD 905p 480GB AiC PCIe を搭載し、作業の効率化を後押ししている。
インテル® Xeon® W プロセッサーは、メインストリーム・ワークステーション・プロフェッショナルのニーズを満たす最適なパフォーマンスを提供します。ハードウェア支援型のワークロード・パフォーマンス、セキュリティー、信頼性により、プロフェッショナル・ワークステーションで増大する要求や、プロフェッショナル・クオリティの高精細映像の圧縮処理に対応します。
ワークステーション・クラスのパフォーマンスと業界トップクラスの耐久性を誇り、最上級のストレージ体験をもたらす新境地を拓いたインテル® Optane™ SSD 900P シリーズ。かつてないほど高性能なデスクトップ PC やワークステーションを実現し、プロフェッショナル・ユーザーや、コンテンツ・クリエーター、エンスージアストの生産性を高めます。
将来的に8K以上の映像を扱う場合には、最新のインテル® Xeon® Platinum 8200 プロセッサー を搭載可能な「HP Z8 G4 Workstation」の導入も検討しているという。
救急搬送サポートシステムや手術室高精細映像アーカイブシステムなど、これまでは医療・災害分野を中心にビジネスを展開してきた天馬諮問だが、最近は同社の映像圧縮技術の評判を聞きつけた、さまざまな業種業界から声がかかるようになった。
18年10月に始めた新たな取り組みが、ドローン向けソリューションの開発だ。近年はドローンを使った空撮映像をリアルタイムに伝送するニーズが高まっている。ドローンを飛ばして映像を撮影するのは、山間部や農地など通信環境の良くない場所も多いため、ナローバンド回線でも高品質の映像を転送できる同社の圧縮技術はうってつけだ。
とくに篠原社長が注目しているのが、HP Z Workstationベースのウェアラブルコンピュータ「HP VR Backpack」だという。この製品を利用すれば、ワークステーションを映像撮影の現場に持ち出して、その場で圧縮処理を実行するというニーズにも応えられるようになる。
「ビジネスの主軸を医療・災害分野に置いていることに変わりはありませんが、今後はドローンに限らず、当社の映像圧縮技術を必要とするさまざまな領域にもビジネスの幅を広げていきたいと考えています」(篠原社長)
独自の映像圧縮技術を武器に、今後のビジネスの拡大が期待される天馬諮問。HP Z Workstationはこれからも、同社のソリューションをコンピューティングの側面で支えていく。
株式会社日本HP ワークステーションに関する問い合わせ先
URL : https://jp.ext.hp.com/workstations/
天馬諮問株式会社 問い合わせ先
URL : http://www.tenmashimon.co.jp/ja/contact/
記事制作:ITmedia NEWS編集部