2021.02.10
トッパンインフォメディアは、トッパングループの一員として、ラベルを中心とした包装資材への印刷・加工技術を組み合わせた商品を中心に提供する大手ラベルコンバーターだ。世の中のデジタル化が加速する中、持続的な成長をするため、自らも積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組みながら、社会の新しい課題に向き合いソリューションを提供している。市場に新しい価値をもたらすために、長年培った技術やノウハウを活かして新しい分野の開拓を続けるトッパンインフォメディアに、同社の取り組みと目指す姿を聞いた。
オフセット印刷に携わった後、生産技術・製品設計を担当。現在はラベル印刷の技術系全般を担当する。デジタル印刷機導入を機に社内生産ワークフロー、生産工程自体の改革に注力している。
2006年 旧トッパンレーベル入社。販売促進、営業、開発販促を経験し、現在は企画チームに所属。シールラベル関連の新製品・新サービス企画・開発を担当。営業時代にデジタル印刷と出会い、デジタル印刷の魅力に取りつかれ、社内外でのバリアブルプリントやパーソナライズプリントの実績を作る。更なる可能性を追求すべく、現在はデジタル印刷とDXを融合させた新しいソリューションの企画・開発・販売に日々挑戦中。
柿沼氏(以下、柿沼): トッパンインフォメディアは、ラベルやシールへの印刷・加工製造を中心に、ラベルに付随する機械やシステムの提供まで幅広く対応しています。ラベル単体だと、価格や納期以外の部分において他社との差別化を図るのは難しいため、自社リソース、トッパングループとのコラボレーション、他社とのアライアンスをフルに活かして、ラベルに関連する様々な価値提供をトータルに提案しています。北海道から九州まで全国10箇所の営業拠点と、福島県・神奈川県・兵庫県の3県に工場を構えてビジネスを展開しています。
田島氏(以下、田島): 印刷・加工の製造を担う福島工場では、現在200名余りが勤務しています。製造の観点では、蓄積された技術によって高品質な商品を提供するため、他の工場と比較しても負けないような生産設備と環境の構築に注力し、現在は、大量生産はもちろん、高品質なデジタル印刷機による多品種・小ロットのご要望にも対応しています。
田島: かれこれ20年ほど前、ビールのキャンペーンシールのシリアル番号をトナー機で可変印字していたのが、当社のデジタル印刷の第一歩です。その後、2016年に開発機としてデジタル印刷機を導入して本格的な試行を始め、2019年秋にHP Indigo 6900デジタル印刷機を生産機として導入しました。
この背景には、市場の動向やニーズを鑑みて、デジタル化を推進するという会社としての方針がありました。デジタル印刷機の選定に当たっては、印刷の再現性や生産能力の高さを評価しました。HP Indigo 6900デジタル印刷機に決めたポイントは、インラインプライミングユニットの実装により様々な素材に印刷できる点と、生産能力の観点で最も弊社のニーズを満たすデジタル印刷機だと評価したためです。
柿沼: 私も選定に立ち会いましたが、HP Indigo デジタル印刷機はとにかくRIPが速いのが印象的でした。負荷のかかる可変データの印刷テストを複数社の印刷機で実施したのですが、印刷機によって全然違うんです。HPのRIP速度が15分だとしたら、A社は24時間、B社は処理できずに落ちてしまう、それくらい結果に差が出ました。要件に合わない印刷機を導入してしまうと、想定していたバリアブルの用途には使えず、デジタル印刷の良さがフルに活かせないということにもなりかねません。
田島: そうですね、私たちの工場でも女性が印刷機のオペレーションを担うのはデジタル印刷機のみです。Indigoのオペレーターは19歳と23歳の女性2名が担当していますが、ここ3年ほど、福島工場で雇用する若手社員の約半数は女性なんです。大きくて操作しづらいアナログ印刷機と違ってデジタル印刷機はスマートですし、重作業も少なく操作はパソコンですから、現担当の女性2名も抵抗がないようです。
とはいえ、工場見学では、皆さん女性オペレーターに驚かれます。ラベルコンバーターは人手不足で、高齢化するオペレーターの技術継承が課題だと言われていますが、アナログ印刷機と比べてデジタル印刷機の扱いやすさは比較になりません。アナログ印刷機の場合は、毎回版を変えるなど重作業が多く発生しますし、品質を正確に判断するには長期に渡る経験が必要で、1人前のオペレーターになるまでに10年かかることもある。そういう意味では、デジタル印刷機はオペレーターの技術習得も早く、扱いやすさは革命的だといえます。
アナログ印刷機からデジタル印刷機への切り替え ~ワインラベル~
田島: 国内大手某ワインメーカーのラベルは、シーズンやキャンペーン、店舗限定など常時20種類ぐらいのSKUが存在します。これまでは凸版輪転機で製造していましたが、製版や版替えが必要で、ジョブチェンジに約1時間、それを1日数回やることもあるので、どうしても生産時間のロスが発生します。それをHP Indigo 6900デジタル印刷機に切り替えてラベルを製造しているのですが、版替えの手間がなく、データを入稿したらすぐに印刷に入れるため、印刷工程における生産性はかなり上がりました。
一方、アナログ印刷機からデジタル印刷機への切り替えは、クライアントからスムーズに受け入れられたわけではありません。私自身、営業に同行して何度もクライアントに足を運び、デジタル印刷機が将来的に必ずお客様のお役に立てることを繰り返しお話しました。風向きが変わったのは、可変データ生成ソフト「HP Mosaic」「HP Collage」によるデザインバリアブルを紹介したときでした。一つのデザインデータを入稿すると、自動的に拡大や回転、カラーチェンジを繰り返し、無限のデザインパターンを生成する。こうしたデジタル印刷の可能性に、将来性と価値を見出して頂いたのだと思います。
柿沼: 社内でもこの業界に長い人ほど変化には抵抗があるようで、デジタル印刷への関心は個人差が大きい。新しい技術で面白いことをやってやろうと考えるのはまだ少数派ですが、社内でも啓蒙活動を続けています。
デジタル印刷の特徴を活かした新規受注 ~クラフトビールラベル~
柿沼: アナログ印刷からの切り替えだけではなく、デジタル印刷だからこそ実現できた新たな事例もあります。デジタル印刷の良さを広める為に、社内でアイデアを練り、「先着で無料のHP Mosaic可変デザインラベルを作ります」という飛び込みのキャンペーンDMを実施したのですが、滋賀県のクラフトビールメーカーである二兎醸造は、この企画をきっかけに取引を開始した新規のお客様です。二兎醸造は、様々な味のクラフトビールを、クリスマスやお正月などシーズンごとに出しているのですが、季節限定品はスピードが不可欠で、小ロットを多くのバリエーションで展開するので、まさにデジタル印刷向きの商品だといえます。
このようにデジタル印刷だからこそ受注できる案件は確実に増えています。これまでアナログ印刷機では条件が合わず対応が難しかったものや、協力会社にお願いしていたものを福島工場で内製できるようになりました。内製できると、データの管理なども含めてノウハウが自社で蓄積できるのが利点です。
二兎醸造のバラエティ豊かなクラフトビール
偽造防止を目的としたセキュリティ需要 ~Amazon Transparencyラベル~
柿沼: デジタル印刷機は、1枚1枚異なる可変情報を付加するバリアブル印刷でその威力を特に発揮します。Amazonが提供する「Transparencyプログラム」(以下、Transparency)は、Amazonが偽造品の流通を撲滅する目的で現在世界10か国にて展開しているサービスです。Transparencyは、Amazonで商品を販売するブランドオーナーが商品を登録し、製造した全てのユニットに固有のTransparencyコードを適用、Amazonが倉庫でTransparencyコードをスキャンし、正規品のみが購入者へ出荷されるというサービスです。購入者はアプリでコードを読み取ると、商品の真贋や製造日、製造場所、原料などの情報を確認できます。私たちは日本におけるAmazonの認定ラベルコンバーターとしてTransparencyで使われるセキュリティラベルを提供しています。
偽造品の流通において日本は比較的安全性が高いと言われていますが、このサービスはグローバルに展開できるので、日本で製造して輸出する場合や、海外から輸入した製品の管理にも、これから益々広がっていくと思います。弊社が初めて受注したTransparencyラベルも、南アフリカのフェアトレードで生産したソーラーランタンを日本で販売するソネングラスジャパンからです。
Transparencyラベルは納期が短いので、弊社のWebで受け付けできる仕組みを構築しました。1枚1枚異なるコードを含んだラベルなので、HP Indigo 6900デジタル印刷機の高速RIPが活きています。
Amazon Transparencyラベルを貼付したソネングラスジャパンのソーラーランタン
トラック & トレースを実現するソリューション ~i2Trace~
柿沼: Amazon Transparencyは偽造防止が主な目的ですが、製品のトレーサビリティの観点でも、ユニークなコードを使用した個体管理が有効です。i2Traceは、トレース情報を管理するための自社開発の新システムで、1つのQRコードで2パターンの認証ができます。例えば、製造メーカーがコードを読み取ると、出荷情報などの商品の管理情報が表示され、同じコードを消費者が読み取ると、商品紹介のサイトが表示されます。ラベルの他に、容器への直接印字にも対応し、専用のアプリや機器も必要ありません。
これまで、管理情報のコードを商品につけると、消費者が数字の意味を問い合わせるケースなどがありましたが、i2Traceを使用すれば、消費者に対しても有効なツールとして活用できます。
近年、ECの増加やサプライチェーンのグローバル化に伴い、不正流通や不正転売が多く発生しています。また、商品に不具合が生じた時に、すぐにSNSで拡散してしまうという風潮があり、こうした不正流通の抑制や品質担保の強化において、履歴管理は非常に重要です。
アプリ不要で生産者と消費者それぞれに適切な情報を表示するi2Trace
柿沼: 先行きが不透明なので発注が小ロット化しているのは共通していると思いますが、お客様がしっかりと情報収集をして知識をつけていると感じます。情報源はネットですから、そこにうまく食い込んでいきたい。例えば、「デジタル印刷」「ラベル」というキーワードで検索された時の対策や、コンバージョン率を上げる仕掛けづくりを考えて、Webでの情報発信やウェビナーを展開していきたいです。
新しい試みということでは、Web to Printに取り組んでいます。増加する小ロットの案件にも自動化の仕組みをうまく活用したいという意図があります。ブラウザーからデータを入稿する印刷通販は当社でも初めてですが、グローバルなオンライン印刷プラットフォームを提供するHappyPrinting社と提携し、彼らのプラットフォームを利用して、HappyLabelというサービスを提供することになりました。
このような仕組みをゼロから立ち上げると、多大な初期費用と労力が必要ですが、パートナーシップを組むことで既存の仕組みを活用できます。HP PrintOSXを使って、他のHP Indigoデジタル印刷機ユーザーと連携することも視野に入れて進めていますが、社内でも注目度の高いプロジェクトです。新規の発注は手軽さも重要なので、今後はHappyLabelの需要も増えると見込んでいます。
また、コロナ禍でラベル業界は抗菌・抗ウイルスに注目が集まっていますが、世の中の環境意識は着実に高まっているので、サステイナビリティの観点からも、デジタル印刷を訴求できると思います。当社は、持続可能な発展を推進するCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)に加入し、環境に配慮した商品の開発にも力を入れています。
柿沼: ラベルというのは、商品一つ一つに個体番号を付与する上で最適なものだといえます。DXに使われるラベルをどんどん推進してお客様のDXにも貢献したい。そういう想いをこめて、私たちは「ラベルはデジタルの入り口」と表現しています。ラベルに1つ1つ違う番号をつけて、人やモノやコトをつなげていく。自社にとってのデジタル化の入り口という意味合いも含まれています。ラベルを中心として、付随する機械やデータなどにも広げていくという考えです。
田島: 製造の観点からは、ワークフローのデジタル化を推進したいと考えています。将来的には紙の作業指示書を廃止して、全てPCで管理し、ペーパーレスにしたい。大きな改革ですが、最終的にはスマートファクトリーのようなイメージを抱いています。デジタル化によって生産現場の効率化を図れれば、その分技術開発やお客様のサポートに時間を使えるようになります。
クライアントによる印刷立ち合いも、オンラインを活用した形に変えていきたいです。リモートやオンラインによる効率化はクライアントにとってもメリットがあると思います。
柿沼: 我々はラベル印刷のプロなので、きれいなラベルを提供できるのは当たり前です。大切なのは、アナログ印刷やデジタル印刷を一方的に押し付けるのではなく、かゆい所に手が届くような、それぞれのお客様に最適な提案ができることだと思います。そのためには、新たなテクノロジーであるデジタル印刷をより深く理解し、ノウハウを蓄積してお客様の期待を超える提案活動ができればと思います。
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モノがあふれる現代において、ラベルはデザインや色彩で付加価値をもたらすマーケティングツールである。その一方で、ラベルはあらゆる情報を伝達する媒体としてDXの一端を担っている。企業は常に世の中の動向を読み解き、変化に適応していかなければならない。田島氏と柿沼氏、立場は違えど、共通しているのは新しいことに挑むチャレンジ精神だ。社員が自分の意思を提案できる風通しの良い職場と高い現場力があるからこそ、可能性を狭めることなく道を開くことができる。同社の目指すところは高く、デジタル化の道のりはまだ半ばかもしれない。しかし、HP Indigo 6900デジタル印刷機を導入し、意欲的に新しいことに取り組む同社が本気でアナログTOデジタルに取り組み、決して諦めることなく、クライアントに正面から価値を伝えようとする姿勢から学ぶことは多い。これから先も新しい価値を生み出し、躍進を続けながら業界をけん引していくだろう。