2020.03.30
マーケティングに新しい価値を。小松総合印刷小松社長インタビュー
歴史のある地方の印刷会社の中にも常に時代の変化に対応し、自己変革に取り組み続けている企業は多い。そこには印刷というビジネスにこだわりを持ちながら、新たな視点で自らを見つめ直し、将来の姿を描き続ける経営者の強い意志がある。マーケティング領域における印刷の新たな価値を追求する小松総合印刷の小松肇彦社長に話を聞いた。
――いただいた名刺はカラフルなデザインでQRコードまでついています。なかなか斬新ですね。
小松氏 これが一枚一枚違うデザインで印刷ができる可変印刷です。HPさんのモザイクというソフトを使い、HP Indigoで印刷しています。QRコードを読み込むと当社のホームページが表示されるようになっていますが、ユニークQRコードになっていて、誰の名刺からホームページにアクセスしたかのログも取れる様になっています。営業マン毎の成績が確認でき、ダイレクトマーケティングを実現するツールの一つです。
当社ではこうした可変印刷やダイレクトメールに使う圧着ハガキ、販促ツール用のスクラッチ、スピードくじなどマーケティング活動に使う印刷物を数多く手掛けています。
――御社は1948年創業の歴史のある印刷会社です。なぜマーケティング領域の印刷物を手掛けるようになったのでしょうか。
小松氏 当社は私の父が設立した会社で、私は35年前に入社しました。チラシやパンフレット、文集、名刺、テストなどを手掛ける地方の総合印刷会社で、いわゆる地域の一番店でした。ただ、常に他の印刷会社との価格競争が厳しく、経営的には決して楽ではありませんでしたね。
事業を拡大しようとして30年前にオフセット輪転機を導入しましたが、仕事がなかなか増やせなくて、営業エリアを広げざるを得なくなりました。本社のある長野県伊那市から高速道路を一時間ほど走っていける、甲府市や長野市などに営業に行ってチラシを受注したりしていました。それでも新規開拓をしようとすればまた直ぐに価格競争に陥って苦しくなるという悪循環の繰り返しでした。
なんとかチラシ受注以外の方法も展開していきたいと考えて、新たなビジネスのネタを探しにアメリカに視察に行ったのが、20年ほど前のことです。10数社視察して2つのことに気付きました。普通の印刷だけでは手詰まりになることと、インターネットを使うべきだということです。
1998年にMacでのDTPを開始して、Webサーバーを立て、翌年にはCTPを導入して製版工程はフルデジタル化していましたが、さらに2002年には6色UV印刷機を導入しました。これが特殊印刷のスタートです。2011年には、5色UV印刷機に3台のインクジェットプリンターを搭載したハイブリット印刷機を導入し、宛名やID・パスワードなどのテキスト印字を含んだ印刷へと変化していきました。また、カラー可変印刷を念頭に2014年ごろにはHP Indigoも導入するなど、新たなことにも積極的に挑んでいます。
当時は、他社とは違うことができることを見せるためにサンプルを作って、展示会などで行商しましたね。これまでとは違う柱を作ろうと必死でした。
――その活動がマーケティング領域に発展していったのですね。
小松氏 マーケティングに関わるところまでやりたいと考えて、意識して外部とのつながりを広げて行きました。その時に、名古屋の印刷会社の勉強会でデータベースマーケティングの専門家から、そのうちOne to Oneマーケティングの時代が来るという話を聞きました。
それに近い形で何かできないかと考えて、アメリカのデジタル印刷の推進団体の大会を視察したり、ラスベガスのマーケティング企業を視察したりしました。そこで面白いと思ったのが、今のマーケティングオートメーション(MA)の世界です。
帰国してからデジタル印刷機やMAのツールを導入してサービスを開始しました。まだそれほど注目されていないころに幕張メッセや東京ビッグサイトに出展して、MAの分野では先駆け的な存在になることができました。
――変革の過程では反発もあったのではないでしょうか。
小松氏 最初は従業員にわかってもらえませんでした。会社を変えるのに、7,8年はかかりましたね。辛い時期もありましたが、社長として従業員がプライドを持って仕事をやれる会社にしたかったのです。
従業員が地域のマーケティングセミナーの講師を務めたり、マーケティングのコンサルタントを呼んで社内向けに勉強会を開いたりして、今ではマーケティングをやらないと生き残れないという感じにはなっています。
――デジタルトランスフォーメーションの難しさはどんなところにあるのでしょうか。
小松氏 DX・デジタルトランスフォーメーションには色々な面があります。前述のMAからEmailの送信やDMデータのプリンターへの自動送信などシナリオに基づいたCRM的な運用や、印刷機までのデータの自動配信などはかなり方向性は見えていて、実際の運用までにそれほど時間はかからないと思います。OMOやアフターデジタルと言われる時代です。マーケティングの方法も劇的に進化していくと思います。そこに新しい印刷会社の存在価値が改めて見直されるのでは無いでしょうか。
ただし、印刷会社の工程には印刷後の加工工程があり、ここをDX化することは、現状なかなか難しいですね。しかし、One to Oneの印刷物を間違いなく、効率的に作っていくには、加工部門も含んだ自動化が必須になると思います。協働ロボットも他業界では活躍していますが、紙を扱うとなると、現状ロボティックスのサプライヤーのみなさんはどうしても逃げ腰になってしまいます。しかし、印刷業界の生産現場におけるデジタルトランスフォーメーションの実現に向けた「Think Smart Factory」が昨秋京都で開催されるなど、取り組みが動き出しています。生き残りのためには、積極的に取り組んでいかなければならない事だと思います。
可変印刷物への流れは、インバウンドの増加や、消費増税対策としてのキャッシュレス推進でQRコード決済が推奨されたりしたことで、状況は大きく変わってきました。スマートフォンの急激な普及もあり、ユニークQRコードなどからスマホに繋がるデジタル化の流れはより加速すると思います。弊社は昨年カメラ検査装置とともに、KODAKのインクジェットプリンター(プロスパー)を4台搭載したUV印刷機を導入、スマホに繋がるデジタル化の製品をより多くのお客様に提供できる様になりました。製造のみでなく、データとデジタル技術を活用して、顧客のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスを変革していく事はより重要になってきます。その流れを作っていければ、印刷の価値はより高まっていくのではないでしょうか。
――印刷業界はこれからどう変わって行くと思いますか。
小松氏 去年はSNSやLINEとの連動などを提案させていただきましたが、今年はYouTubeのような映像との組み合わせも進むと思います。当社でもYouTubeチャンネルの配信や、コンサルティング業務も始めました。
形はこれからも変化して行くと思いますが、弊社の仕事は“売れる仕組みのお手伝い”です。印刷が強みですからそこにある程度こだわるようにしていますが、そこにこだわりすぎると未来が見えてきません。
大事なのはお客様が何を求めているのかということです。紙やWebやSNSなど手段は色々ありますが、お客様の目的によってツールは変わってきます。一通り最低限は扱えるスキルを持って、目的に合わせて提供するツールを変えて行くことが重要です。
勿論、すべて自前でやるには無理があります。そこはアライアンスも積極的に組んで行くべきでしょう。お互いの得意技を関連付けてストーリーを作り、それをお客様にご提案し、PDCAを回していく事が弊社の役割になって行きます。
低価格で印刷物を作れる会社も必要ですが、ネットプリントの会社は既に多数あります。でもタイムリーに、求められているものを提供できる会社はもっともっと必要になると思っています。
――今後印刷会社としてはどんな戦略を取るべきなのでしょうか。
小松氏 PSP(プリントサービスプロバイダー)とか、MSP(マーケティングサービスプロバイダー)とか言われる概念があります。どちらに立つ会社なのかのスタンスを明確にするべきでしょうね。どんなサービスを目指すのかという延長線上に製造もあるわけです。時々のトレンドや技術は、常に変化すると思いますが、常に新しい技術やサービスを提案して、お客様の販売促進の支援を行う事が弊社の存在意義だと思っています。すべての会社が同じ方向を見る時代では無いと思います。それぞれの会社の思いが形になったサービスや技術を磨いていく事が大切なのではないでしょうか。
これからも積極的に色々なチャレンジを続けて行きたいですね。
【本記事は JBpress が制作しました】