2023.02.10

印刷会社の未来をつくるM & Aとは?

株式会社フジプラス

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M & Aは最終契約締結で完了するが、実はM & Aの成否は、PMI(Post Merger Integration)、つまりM & A成立後の「経営統合プロセス」にかかっている。PMIを推進するための重要な任務に、フジプラスで生産管理を担当する入社8年目の女性、浦谷氏が抜擢された。それまでにマネジメント経験はないものの、理知に富み、「営業寄り」でも「現場寄り」でもなく客観的に物事を捉え、努力を惜しむことなく常に前向きに「改善」に取り組める、そんな素質が社長の目に留まったのだ。後編では、M & Aによる企業の成長と成功、従業員満足度向上の鍵を握るPMIのプロセスについて深掘りしていく。

後編
~M&Aの成功の鍵を握るPMI
(M&A成立後の経営統合)~

1. 完全なる「アウェイ」からのスタート

――PMI(Post Merger Integration)をどのように進めてこられましたか?

浦谷氏:「M & Aが成約した2022年2月に、PMI責任者として滋賀県彦根市の地に半年間赴任しました。知り合いもいない見知らぬ土地で、経験のない新しい仕事を任され、不安も大きかったですが、着任までの2ヶ月間、何度も社長と面談を重ね、懸念事項を詰めるなど、準備を進めていきました。

トライワーク彦根は、主に小売業界に向けたPOP宣伝物のデジタル印刷を手掛ける会社です。29名の従業員で、小部数や細かい仕様にもスピード感をもって対応しています。

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トライワーク彦根 会社概要:https://www.trywork.co.jp/company/outline.html

トライワーク彦根 設備:https://www.trywork.co.jp/facility/facility.html

着任して、まずは前オーナーから経営資源の引き継ぎを行いました。そして、社員の皆さんと1on1(個人面談)を実施して、コミュニケーションを取りながら人事・総務面から把握していきました。同時に、面談を通してM & Aのステップでは見えていなかった不透明な制度や困りごとを洗い出していったのです。この段階では業務面には手をつけず、銀行口座の整理や、ネットワークセキュリティのリスク、ライセンスに関わるリスクなどを洗い出し、整理していきました。

人事、総務面を把握できた後は、2ヶ月ほどお客様とプロダクトについて把握する日々が続きました。組織や制度、プロダクトについて把握できると、変えなければいけないところや、反対に変えてはいけないところが明確になってきます。問題点を分析し、ようやく改善点が見えたところで、優先順位をつけ、親会社のフジプラスに協力してもらって関係各署に必要な依頼を割り振っていきました。

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一例ですが、トライワーク彦根には間接部門がなかったため、パソコンが壊れてもどうしたらいいかわからない、という状況がありました。そこで、トライワーク彦根にはない部署の機能を親会社に補ってもらうため、フジプラスが使用している社内コミュニケーションツールを導入し、ホットラインの体制を構築したのです。担当もいなかったので、トライワーク彦根の中で、システムに強い人、物流に強い人などを特性で振り分け、リーダーを中心にグループを作り、問題が生じた時にフジプラスの担当とホットラインでつなぎ、いつでもヘルプを出せる仕組みを作りました。

改善を重ねて課題が解決し、不便だったものが便利になるにつれ、信頼度も上がっていきました。経営者が変わり『何かが起こっている』というのではなく、『より良くするために一緒に取り組んでいる』という感覚を持ってもらえるようになってからは、物事を随分進めやすくなったと感じます。目に見えて物事を進みやすく感じたのは、着任して3ヶ月ほど経ってからのことでした」

――PMIで苦労したことは何ですか?

浦谷氏:「私自身、PMIは初めてでしたので、M & Aや、決算書の読み方などを一から猛勉強したり、以前のM & AでPMIを担当されていた方に話を聞いたりと、入社して一番大変な経験となりました。正直、仲間もいない企業にたった一人で乗り込むという、完全に『アウェイ』な状況でしたから、もちろん初めは居心地がいいわけではありませんでした。それならば、すぐにでも1対1でちゃんと話をして、味方になってくれる人を作っていこうと考えたのです。これまで、1on1はあくまでも受ける立場で、主催した経験はありません。全てが手さぐり状態でしたが、社員の皆さんは、経営者が変わって、これまでのやり方が急に変わってしまうのではないかと不安に感じていたと思うので、まずは、何かを大きく変えるのではなく、事業継承のために来たということ、誰一人欠けることない事業継続を目的としていることを繰り返し伝えるようにしました。

また、初対面の方と短期間で信頼関係を築かなければならなかったので、その点は苦労しました。急な変化を不安に感じる人も多く、改善の際は、目的を共有し理解を得ながら、極力緩やかに変化させることを心がけました。何度も対面で時間をかけて話をしたり、こちらからのメッセージの回数を増やしたり、コミュニケーションをしっかり取りながら進めていきました。これを機に社員の皆さんと丁寧にお話しする機会を作れたことは結果として良かったのではないかと思います」

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――PMIの経験で得られたものは?

井戸氏:「PMIを遂行する中では、労務関係含め様々な書類に目を通し、それこそ年末調整から年金まで、あらゆることを全部見なければなりません。それは経営者の目線に近いですよね。その経験を経て、会社全体を俯瞰して見る力がつき、浦谷自身、半年間でものすごく成長したと感じています。また、会社全体としては、PMIのノウハウが蓄積されてきました」

浦谷氏:「PMIは、現場監督的な要素が大きく、システムなら誰、ハードなら誰、経理なら誰に相談するというように仕分けていくことが多いので、それだけに多くの部門の方と連携し、協力いただきながら進めてきました。PMIの任務終了後は、生産管理の業務に戻っていますが、PMIの経験を経たことで、自分の部署だけではなく、営業や工場含めて、より大きな視点で物事を見られるようになったと自分でも変化を感じています」

2. M & Aで得た新しい企業文化からの学び

――現場の業務オペレーション面から見て、トライワーク彦根の最大の魅力は何ですか?

浦谷氏:「自分で考えて的確な判断ができる、つまり自走できる組織であるというところでしょうか。各自が個人で動いていますが、純粋に会社にとって良い方をポジティブに選べる人達であるところは大きな強みだと感じています。皆さん仕事に誠実な方々なので、細かい要求への対応能力がありますし、業務の仕組みがしっかりしていたので、そこは変える必要がありませんでした。部分的な仕事に留まらず、おおよそ全体の行程に責任を持って仕事をしていることは、達成感と責任感にもつながりますし、仕事のモチベーションにつながっているのだと思います」

井戸氏:「仕事を囲いこまず、誰かの不在時もうまく補い合いながら回る仕組みができ上っていたのは感動でしかありません。その仕組みや、それを支える人、企業文化が最大の強みだと感じます。中にいる人たちのマインドが良いからなのでしょう」

――フジプラスの傘下になったことでどのような業務上のメリットがありますか?M & Aで得たもの、失ったものがあれば教えてください。

浦谷氏:「失ったものはすぐには思い浮かばないのですが、知識やノウハウをグループ内で共有できたことで、社内で業務改善が進んだことがひとつの大きなメリットだと感じています。例えば、フジプラスでやっていた品質管理の体制をトライワーク彦根に持ってくるなど、良いところを積極的に取り入れています。トライワーク彦根とフジプラスの意見交換をできる場も作っていますので、これからはフジプラスにも返していけたらと思います」

井戸氏:「反対に、フジプラスにとってのメリットも大きかったと思います。トライワークは、『5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」)とはこういうことだ』と思えるくらい、とにかくオフィスが整理整頓されていてキレイなんです。そのカルチャーを勉強するために、フジプラスの社員が見学に来ては、『どうやったらこれを実現できるものか』と頭を抱えて帰っていきます。トライワーク彦根の精神や習慣、仕事の方式などからは、フジプラスが逆に教わることも多いので、お互いにとって実のあるM & Aだったと考えています」

月日の移ろいは早く、長いようで短い半年間の任務が終わった。浦谷氏は、より円滑に、質の高い仕事を効率良く進めるための基盤を築き上げ、次のPMI責任者にバトンを渡した。現在は、第二段階のPMI責任者が常駐してマネジメントを行っている。今後は、さらに仕事を増やしていくためのベースづくりを推進していくという。

3. M & Aのポイント(まとめ)

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M & Aは、事業を安定的に継続させ、社会にとって良い存在方法を見つけ出すひとつの手段である。M & Aを成功に導くには、経営統合を視野に入れ、長中期に渡った具体的な目標を設定し、それを実現するための戦略を考えることが重要だ。フジプラスの場合、自社にない部分を補完し、自ら成長するという一貫した目的のもと、特に顧客資産に注目して何度もM & Aを成功させている。顧客基盤、設備、技術、ノウハウ、企業文化など、企業によって大きなシナジー効果を得るために獲得すべき資産は異なるかもしれない。的確な経営資源の獲得は、競争力を高め、企業の成長につながるはずだ。それを見極めて、第三者である専門家の力を借りながらM & Aのステップを着実に進めていく。リスクを正しく把握するために、自ら足を運び、自分の目で確認することも大切だ。

一方、PMIは、買収した側に一方的に事業活動を合わせるのではなく、変えてはいけないところ、良いところも見極め、企業価値を上げるためには、どの領域に手をいれるべきかの判断が肝となる。強引な進め方や性急な変革をすれば、現場に大きな混乱が生じるかもしれない。組織、制度、業務フローなどの問題点を見極め、優先順位をつけること。きめ細やかなコミュニケーションを徹底し、目的を理解し、互いが納得した上で進めること。M & Aは、これから先の未来を繁栄につなぎ、人々の生活を幸せするための投資でもある。会社を統合し、互いが幸せにビジネスを推進するためには多数のポイントがあり、フジプラスの事例から学ぶことは多い。

フジプラスには、ビジョンとしてこんな言葉が掲げられている。「変化を楽しみ、時代に求められる、永遠のベンチャーマインド企業へ――」予測できない変化の波も恐れず、存在価値を高めることを目指すフジプラスは、これからも、挑戦の歩みを止めることなく次なるステージへと道を拓いていくだろう。企業として成長し、感動をつくり続ける会社であるために。

リンク:株式会社フジプラス https://fujiplus.jp/

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