2022.06.06

【木戸紙業株式会社 木戸社長インタビュー】
みんなの印刷袋通販「HappyPackaging」始動、
大手パッケージコンバーターが取り組むパッケージの印刷通販サービスに迫る

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木戸紙業株式会社 代表取締役社長 木戸正治 氏

 木戸紙業株式会社は、食品を始めとするパッケージのデザイン・製造・販売を一貫して行う大手パッケージコンバーターだ。創業92年という長い歴史を持つ同社は、最新のデジタル印刷技術をいち早く取り入れる敏捷性を併せ持ち、現在は大ロットに加え、多品種・小ロット・バリアブル印刷にも対応できる体制を築いている。2021年11月、グローバル企業HappyPrinting社との協業で、軟包装パッケージの印刷通販サービスである「HappyPackaging」を展開。変化を恐れずに、新たなテクノロジーを積極的に取り入れる同社が、難しいといわれる軟包装パッケージの印刷通販事業に果敢に挑む。

木戸紙業の歴史と、コロナ禍を経た現在のビジネス

―― まずは木戸紙業の歴史と、現在のビジネス概要について教えてください

 「木戸紙業は、昭和5年に大阪で『木戸洋紙店』として創業しました。日本では和紙が主流だった時代ですが、祖父が紙問屋から独立して、当時はまだ珍しかった洋紙の卸売業をスタートしたのです。その後、紙の販売に付加価値をつけ、袋の製造を始めました。それが、今でも取り扱いのある角底のクラフト紙で作られた佃煮袋です。内側にパラフィンというロウが塗られているので液漏れせず、これが大変人気となり全国展開をすることになりました。クラフト紙の素朴な味わいと実用を兼ね備えたロングセラー商品ですが、こうして和洋紙の加工、製造、販売を手掛ける『紙業』となったのです。その後、石油化学が勃興してプラスチックフィルムが登場します。紙よりも耐水性が高く、中身が見えるので商品の訴求をしやすいという点から、フィルムを使ったパッケージの需要が大きく伸び、それに伴いビジネスも成長してきました。

 現在は、パッケージの企画・デザインから、グラビア印刷およびデジタル印刷、製袋加工など、食品やサプリメントを始め様々なパッケージの生産を行っています。お客様は、大手を中心とする食品メーカーが9割を占め、約600社とお取引をさせて頂いています」 

―― コロナ禍でビジネスへの影響はありましたか?

 「消費者のもとに商品をお届けするためには、必ずパッケージが必要ですから、コロナ禍にあっても総じてビジネスは底堅いといえます。2020年4月の最初の緊急事態宣言では、スーパーで販売する食品が特需となりパッケージの売上増につながりました。反対に、レストランやファーストフードなどで利用される業務用のパッケージや土産物は大きく減少しました。また、それまでは堅調に伸びていたコンビニも、少し勢いが鈍りました。コンビニの需要はオフィスとの関連性が高く、出社しないことによってオフィス街のコンビニに影響が出ているのでしょう。人の流れが変わったことで、売れる物が変わったと感じます。

 このように、お客様の分野によって売上への影響は様々ですが、当社はスーパーで販売される食品パッケージを多く取り扱っているため、コロナ禍でも全体の売上は落とさず、継続して成長できています」

―― 世の中の状況が変化する中で、新しく取り組まれたことはありますか?

 「コロナ禍でお客様への訪問活動が制限される中、『みんパケ』と『HappyPackaging』というパッケージの印刷通販サービスへの注力と、マーケティングオートメーションなどを活用した、オンラインでの訴求活動に力を入れてきました。物理的な活動が制限される分、これらオンラインを活用したサービスの売上や新規のお問い合わせは増加しており、自ら情報を検索して情報を取りに行くお客様が増えていることを実感しています。

 また、大手企業を中心に環境課題に対する目標を掲げる企業も増えています。そこで、パッケージの素材や形状を変更したり、フィルムの厚みを薄くしたり、サイズを小さくしたり、様々な工夫をすることで、コストを抑えながら、環境にも配慮できるパッケージを提案しています。

デジタル印刷機の導入と、パッケージの印刷通販サービスの展開

―― デジタル印刷機の導入を決断した経緯をお聞かせください

 「HP Indigo 20000デジタル印刷機は、製品リリース開始の2014年に導入しました。初めてデジタル印刷機を自分の目で見た時、『これは導入しないと将来大変なことになる』という印象を抱きました。紙の印刷分野では既にデジタル化が進んでいましたし、パッケージ印刷で主流の印刷設備であるグラビア印刷機は、版の製造や物理的な保管スペースの確保など、持続可能性の観点でも色々と課題があります。そんな中、版無しで軟包装の印刷ができるというのは衝撃的でした。

 デジタル印刷機を検討していた当初から、様々なフィルムや素材に印刷できて、デザインも手軽に変えられるデジタルの特徴を活かした軟包装の印刷通販の構想を抱いていました。『面白いことができそうだ』という興味と期待、そして破壊的なイノベーションに対する脅威、『やらねばならない』という、追い立てられるような恐怖がないまぜになった心境でした。自分の見たくないものは見ないこともできます。目覚ましい技術革新によって従来のビジネスが脅かされる、そんな世界は来ないと思うことは簡単です。ですが、技術のイノベーションは待ってはくれません。新しい可能性にかけて、早い段階でデジタル印刷機に投資をする決断をしたのです」 

―― HP Indigoデジタル印刷機を導入してすぐに印刷通販を開始したのですか?

 「かねてから小ロットのニーズがあるのは重々感じていましたので、軟包装パッケージの印刷通販である『みんパケ』は2014年10月のタイミングでオープンしました。営業が担当するデジタル印刷の案件は、小ロットの中でも比較的大規模なものですが、人手を介していればいずれそこがボトルネックになってしまう。お客様に自己完結してもらえる方法を提供できたら、双方にとってメリットがあると考えたのです。

 しかし、サービスの設計開発をスタートした2013年当時は、軟包装パッケージの印刷通販をやっている会社は皆無でしたから、かなり苦労しました。今でこそ同様のサービスやウェブサイトはありますが、当時は見本になるものもなく、サイト構築を依頼したパートナー企業に対してもやりたいことが伝わらないもどかしさがありました。

 ようやくオープンに漕ぎ着けたものの、最初は思うように仕事が入りません。まずは営業経由のデジタル印刷ビジネスが徐々に軌道に乗り、その後を追うように、『みんパケ』やWebからの問い合わせなど、オンラインビジネスが広がりを見せるようになりました。現在もまだ目標としていたレベルにはビジネスは拡大していませんが、『みんパケ』は、コロナ禍でも売上が増加し、2014年から毎年継続して成長を続けています」

みんパケ: https://www.minpake.com

パッケージの印刷通販サービスを更なる高みへ

―― 「みんパケ」が既にサービス展開する中、昨年末に新たな印刷通販サービス
「HappyPackaging」を始動されましたが、その意図は?

 「『HappyPackaging』は、前例のない中、走りながら最善を追求した結果だといえます。小ロットの軟包装を必要とされるお客様は、皆が専用ソフトでデザインできるわけではありません。小さい会社や個人経営の方からは、デザインもやってほしいという声もありましたがお断りせざるを得ない状況で、それでも何とかそうしたお客様のお役に立ちたいという気持ちがずっとありました。

 『みんパケ』は、年賀状作成ソフトのように、テンプレートを選択し、色や文字を変更してデザインできる仕組みを構築しています。ですが、発注者は、軟包装に詳しくない方も多いので、営業担当が間に入らずに仕様を確定するのは実はとても難しいことでした。本来、オンラインで自己完結できるのが印刷通販の良い点ですが、結局は問い合わせが来て対応に追われてしまう。チャックの上にブランド名が印刷されてしまった、切り口の位置を示す印字がずれてしまったなど、出来上がりが思い描いていたものと違えば、それも問い合わせにつながります。問い合わせはお客様にとっても手間ですし、わかりづらくて注文を断念するケースもあると考えると、その壁を越えられなければ、根本的なウェブサイトのリフォームはやるべきではないと感じていました。お客様が直面する課題に対して、『みんパケ』を改善する決定的な打開策を見つけられずにいたのです。

 そんな時、HPデジタル印刷機のユーザーコミュニティである「Dscoop」から発信されたメールの中で『HappyPrinting』というWeb to Printサービスを紹介する情報に目が留まりました。『HappyPrinting』は、オランダ発祥のグローバル印刷サービスプラットフォームで、Web to Printサービスのプラットフォームを提供しながら、世界各国の印刷パートナーと連携して適地生産を行います。メールの中に、同社のWeb to Printサービスのパッケージ製造版である『HappyPackaging』を南米でオープンしたというニュースを見つけ、オランダのHappyPrinting社に連絡したところ、すぐにつながり協業に関する相談を開始しました。その時点の『HappyPackaging』は、パッケージといっても箱がメインで、軟包装の展開はこれからという段階でしたが、先方も当社の『みんパケ』を見て、互いのノウハウを合わせて協業しないかと話が進んだのです。

 彼らのプラットフォーム開発と、当社の軟包装のノウハウを掛け合わせて開発を進め、軟包装向けの『HappyPackaging』が誕生しました。昨年2月に初めて連絡を取り、契約を経て5月からプロジェクトを開始、オンラインで毎週ミーティングを実施しながら開発を進め、11月5日にはオープンしましたから、かなりのスピード展開だったと思います」

HappyPackaging:https://www.happypackaging.jp/

―― 海外のパートナーと協業して新サービスを立ち上げることは、社員の方への影響や刺激もあったのでは?

 「やはりデジタルの力はすごいですね。協業して新しいビジネスを構築したのに、実はまだ一度も先方にお会いしていないのです。契約も電子契約、システム開発もすべてWebミーティングで仕様を詰めていきました。世の中の変化を強制的に気づかされ、これまでの常識が覆るような経験でした。

 社員も刺激を受けたと思います。英語ができるメンバーはまだ少ないのですが、開発フェーズでは主に私が対応し、マーケティングフェーズではプロジェクトリーダーに任せていきます。HappyPrinting社は、プラットフォーム開発に加えて、マーケティングのノウハウ提供も事業領域としており、定期的に両社で施策を企画しています。彼らは世界中でプラットフォームを展開しているため、SNSの施策やディスカウント提供方法など、他国での成功事例やノウハウを数多く持っており、意見を出し合いながらプランを練っています」

―― HappyPackagingの機能や利点について教えてください

 「『HappyPackaging』は、袋の仕様選択、印刷データのアップロード、仕上がりイメージの3Dプレビュー、価格と納期の提示など、印刷通販に関わる全ての機能をオンラインで提供します。中でも、3Dプレビュー機能はレベルが高く、デモを見た時に、これなら『みんパケ』で壁となっていた『人を介さずにパッケージの仕様を決める』という難題を解決できると思いました。

 現在特許出願中である3Dプレビュー機能は、2Dデータを入稿すると、出来上がりの色や仕様を360度で確認できます。マウスで画像を自由自在に回転でき、裏面はもちろん底のマチ部分なども隈なく見ることができるのです。

 軟包装パッケージで白色を印刷するという概念は、紙の印刷物とは違います。たとえばアルミ地を使用したパッケージの場合、CMYKの色の下に白を敷くと、光らない色味で仕上がります。白を敷かなければ、アルミ地が透けて見えるので、光沢(メタリック感)のある色合いに仕上がります。ところが従来のイメージ画像では、どこに白を重ねているのかわかりづらいという悩みがありました。『HappyPackaging』では、シミュレーション機能で、白を重ねて印刷する部分と白のない部分をしっかりと切り替えながら再現できるため、『ここは光らせるつもりがなかったのに』といった校正ミスを減らすことができます。

 画像:HappyPackagingでのパッケージ制作時の画面

 画像:HappyPackagingで制作したパッケージサンプル

 通常は、弊社の営業担当とお客様が認識をすり合わせて初めて思い通りのパッケージが完成するのですが、この3Dプレビュー機能があれば、手元にサンプルがあるように、出来上がりの状態を正確に再現でき、お客様だけで完結できるようになります。また、納期をかなり短く設定しているのも本サービスの特長です。オーダーメイドでありながら、発注の段階で短納期・確定納期をお約束するのは、軟包装分野では思い切った取り組みです。

 事前に実際の色を確認したいという場合は、フィルムに印刷した見本だけを注文できます。アルミの台紙にフィルムを重ねると実際の色校正ができ、データはマイページに残りますので、簡単に量産発注に進めます。

 このように、『HappyPackaging』は、パッケージの印刷通販が抱えていた課題を解消できるあらゆる機能を詰め込んだソリューションなのです」

デジタル印刷事業の3本柱とマーケットイン戦略

―― デジタル印刷ビジネスの今後の展望を教えてください

 「今は、オフラインの営業活動、『みんパケ』、『HappyPackaging』の3本柱で走っています。印刷通販はそれぞれターゲットとなる業界や袋の仕様が異なりますし、『みんパケ』には既に固定のお客様もいらっしゃるので、このまま続ける予定です。

 そして、オフラインの営業活動でも『HappyPackaging』の活用を考えています。お客様訪問時には、印刷した透明のフィルムを無地の袋に重ねて仕上がりの確認をしていますが、お客様のデータをロードして、完成品のイメージを画面でお見せできれば、営業改革やお客様の満足度向上にもつながるかもしれません。

 私たちとしては、長年安定してきたグラビア印刷のビジネスが続くに越したことはありません。しかしながら、歴史を振り返れば破壊的なイノベーションは起きていますし、お客様のニーズの変化も止まってはくれません。我々は、プロダクトアウトではなく、マーケットインで市場が欲しているものを何でも提供していくスタンスでおります。経営が揺らぐような判断には慎重になりますが、持ちこたえられる投資なら、とにかくやってみてPDCAを回してみる。たとえ1回で成功しなくても、改善点を見つけながら、より良いサービスを作り上げていきたいのです。

 社会や経済見通しの不確実性が高まる中、机の上で1から10まで考えて、その通りになることはまずありません。お客様やテクノロジーリーダーの声をよく聞いて、何ができるかを考え、できることはどんどんやって、走りながら考えていく。そうならないと市場で残れないという危機感は常に持っています。できない理由を探すことは簡単です。見たくない事実から目をそらさず、あらゆるシナリオを想定した前提でリスクテイクするのが私の考えです」

 木戸紙業は、技術の進歩や変わりゆく世の中のニーズに真摯に向き合い、全力を挙げて取り組んでいる。常にアンテナを研ぎ澄ませ、チャンスを見過ごすことなくいち早く取り入れるその姿勢は、自ら進んで道を切り拓く業界のフロントランナーといえよう。デジタル印刷機のような破壊的なイノベーションを千載一隅の機会とみるか脅威とみるか、それは各社それぞれだ。しかし、木戸紙業が挑戦を続けた結果、市場の信頼を勝ち取り、いつの時代においても成長を続けていることは、業界にとって明るい光ではないだろうか。動かないリスクよりも、動くリスクを取る。デジタルシフトの移行期を乗り切る戦略が各社に問われる中、木戸紙業の先見性と英断に学ぶものは大きい。

木戸紙業株式会社

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