2022.01.19
同人誌で「Indigo品質」認知へ
同人誌印刷で知られる大阪印刷株式会社は昨年11月、Indigo第3世代機におけるHP認定中古機販売プログラム国内第1号機となる「HP Indigo 7CPOデジタル印刷機」を導入。アフターコロナの需要回帰を想定した設備強化として、同人誌印刷の主力機であるIndigoプレスを3台体制とすることで、生産キャパシティと瞬発力を高めるとともに、同社が「最大の敵」とするダウンタイム低減を実現している。
大阪印刷株式会社 緒方人志 氏
同社は、もともと同人誌専門の「マンガ喫茶」というユニークな事業形態で2012年に創業。2年後の2014年には、そこに派生する同人誌印刷ビジネスに新規参入し、印刷業へと一気に業態変革をはかった新鋭企業だ。当初は店舗型のサービスだったが、5年前に印刷通販サイト「OTACLUB」(https://otaclub.jp)を立ち上げ、ネット受注型のビジネスモデルへと舵を切ることで大きく売上を伸ばした。印刷事業開始からの6年でライトプロダクション系のトナー機9台のほか、UVインクジェットプリンタや大判出力機、昇華転写プリンタなど、グッズやノベルティ用の生産機も設備するなど、印刷事業領域で飛躍的な成長を遂げている。
そんな同社も、9期目にして初めて前年の売上を下回った。その要因は言うまでもなく「新型コロナウイルスによるパンデミック」だ。否応なしに「守りの経営」を強いられた同社だが、それを共同経営者で製造部門を統括する緒方人志氏は「ある意味、楽しい時間だった」と明るく振り返る。
「コロナ前は、追われるままに増加する需要に応えるための設備投資を繰り返す『足し算の経営』だった。これは『当たる確立の高い賭け』だったと言える。しかし、コロナ禍で売上が減少し、使える資金も限られる中では、先を見据えて最も効率の良い投資方法を導き出す『計算式』が必要であり、その『正解率』は思ったより低くなる。創業時に立ち返り、当初のような賭けができたのは非常に楽しかった」(緒方氏)
イベントへの依存度が高い同人誌印刷分野において売上が半減する会社もある中で、対前年比15%ダウンと相対的にそのダメージは軽微だったと言える同社。この経営実績について緒方氏は、「潜在的な自社の成長」を仮定している。「経済のリオープニング時に需要が倍になったとして、他社は100%に戻るだけだが、当社は85%の倍で売上170%まで成長すると試算。これはある意味、我々にとって『危機』であり、生産キャパシティの増強および瞬発力強化を急いだ」(緒方氏)
そこで同社は昨年11月、大阪・日本橋商店街の一角にあった本社工場を、スペース拡張を目的に此花区の工業臨海地区へ移転するとともに、そのスペースを活かして同人誌印刷の主力機である「HP Indigoデジタル印刷機」を増設した。
同社では、4年前に中古の「HP Indigo 7600」を導入し、さらに昨年1月には新台の「HP Indigo 7900」を増設している。3台目となる今回は、Indigo第3世代機におけるHP認定中古機の国内第1号機となる「HP Indigo 7CPOデジタル印刷機」を選択した。HP認定中古機販売プログラムとは、HP Indigoデジタル印刷機の品質や先進的なアプリケーションのメリットと印刷の信頼性を確保するために、厳しい再生プロセスを経て認定された印刷機を認定中古機として再販するもの。緒方氏は「『認定』といっても他から中古機を購入する価格と大きな差はない。
しかもメーカー保証という安心感がある。限られた予算の中で、無理をしてでも設備強化する必要があった当社にとって僥倖だった。何事も『初めて』『1番』を好む当社にとって『国内初』という響きも採用を後押しした」と語る。
新たに導入したHP Indigo 7CPO(手前)
今回の設備増強においても「Indigoありきだった」と緒方氏。「100万部刷るも10部刷るも作者の思い入れは何ら変わらない。その思いに我々がどう応えるか。その当社の答えがIndigoだったということ。トナー機のテカリに対して、IndigoはUVオフセットのようなマットな質感が出る。『しっとりとした仕上がり』という感じだろうか。とくにマット系の用紙に対して、その傾向が顕著である」(緒方氏)
同人誌の制作はタブレットなどを使ったRGB環境がほとんどで、同社の真骨頂は、このRGBデータの印刷にある。その色域の再現性をさらに向上させたのがビビッドインキの採用だ。現在3台のIndigoは、いずれもCMYK+ビビットピンク+ビビットグリーン+プレミアムホワイトの7色仕様となっており、ユニークなビビットインキ2色の搭載によってRGB色域の再現性がより豊かなものになっている。
「同人誌の場合、キャラクターの描画が多用されているため、肌の表現、いわゆるスキントーンが重要になる。Indigoのざらつき感のないスキントーンの品質評価は高い」(緒方氏)
一方、コロナ禍において同社では、この「Indigo品質」を改めて訴求する取り組みとして「見本紙キャンペーン」を実施した。
Indigoで印刷した画集のような見本冊子を作成し、1冊1,000円で販売。1ヵ月で6,000部が売れたという。その成果について緒方氏は、「印刷見本ではあるが、それを購入してもらうことで『所有』し、大事にしてもらえる。そして発注時にそこで触れた『Indigo品質』を自分の作品でも再現したくなる。そんなストーリーを想定した」と説明。結果、この取り組みが功を奏し、本の受注はコロナ前の倍以上に増えているというから驚きだ。
さらに工程の自動化にも取り組んだ。入稿データを自社サーバー上にあるフォルダへ投げ込むと、自動面付けされて印刷機へ飛んでいく。そんなシステム開発もすでに終えている。コロナ禍における時間的な余裕を利用し、先を見据えた投資と生産現場の工程を改めて整理、改善できたことが、いまの同社にとって新たな成長エンジンとして機能しはじめているようだ。
「Indigo品質の地道な宣伝活動が実を結び、その認知が見本紙キャンペーンをトリガーとして急速に広がったというイメージ。売上が急速に戻ってきたいま、本社工場移転、Indigo増設、自動化の促進といった取り組みを実行していなければ生産は確実にパンクしていたと思う」(緒方氏)
キャンペーン用に作成した印刷見本冊子
Indigoで生産する受注ロットは50〜70部程度。1台のIndigoで1日最大300ジョブが許容範囲と試算しており、現在、それをオーバーする受注状況が続いている。昨年12月のIndigoのジョブは300万インプレッションを超えているという。この状況の中で、「我々にとってダウンタイムは最大の敵」と語る緒方氏。3台目のIndigo増設は、「機械は故障する」ということを前提としたフェイル・セーフ的な考えにもとづく意味合いも強い。
「Indigo自体の堅牢性は高く評価しているが、機械である以上、不調や故障は付き物。もし、2台体制で1台が故障すれば、生産性は50%に低下、これが3台体制ならば66%の生産を保証できる。需要の戻りを想定する中で、以前からここで発生するダウンタイムに対し、大きな危機感を抱いていた」(緒方氏)
また、3台体制によるダウンタイムの低減と生産の瞬発力が向上したことで、印刷はもちろん、それ以降の製本、加工、検品、梱包といった部署における「待ち時間」が解消され、残業などを強いられていた従業員の負担軽減にもつながっているという。
同社は、新社屋への移転を前に、「いこい」から「大阪印刷」へと社名変更している。これは、ある意味「印刷のプロフェッショナルとしての覚悟」でもあるという。「当社は最新のデジタル印刷機を多数所持する『デジタル印刷の一番打者』と自負するほどの技術とノウハウを持つ企業に成長した。企業としての今後の立ち位置を盤石なものにするため、『大阪』『印刷』という大きな看板を背負うことにした。『印刷業としての覚悟』、そして従業員にも家族や友達に誇れる会社を目指すという我々の覚悟をこの社名に託した。同人誌印刷の市場は全体でおよそ50億円程度。その中で最低でも20%、10億円の市場を取り込み、この市場でトップシェアを目指したい」(緒方氏)
これまで営業部隊を持たず、100%オンライン受注で成長してきた同社だが、以前から次の成長戦略の柱を「BtoB事業」と位置付けている。ただ、新型コロナウイルス感染症拡大という未曾有の経験を強いられたことで、現在、そのプロジェクトに一旦ストップをかけている。
「『潜在的な自社の成長』が顕在化しつつあり、生産のキャパシティが逼迫する状況にある中で、現在のBtoCビジネスに対する設備投資を強化し、乗り切っていくことが現在の最優先課題だと認識している。そのことからもIndigoの4台目増設は、そう遠い話ではなく、おそらく次もCPOモデルを選択することになりそうだ。しかし、次の成長エンジンは『BtoB』であることに変更はない。近い将来にはBtoCのお客様の満足度を担保しながら、BtoBの活路を見出していきたい」(緒方氏)
【本記事は 印刷ジャーナル が制作しました】