2022.01.14
株式会社トッパンインフォメディアは、50年間にわたって培ってきたコンベンショナル機に基づく高品質・高付加価値ラベル製造技術に、「HP Indigo6900」などデジタル印刷技術を融合することで、DX戦略を推進。その一環として昨夏、オンライン印刷サービス「Happy Labels」をスタートした。新事業の核となるデジタル印刷技術について、技術本部第二技術部の田島和美部長、福島工場第一製造部二課の渡辺潤也課長、オペレーターの高木優莉奈氏にインタビューするとともに、Happy Labelsが目指すビジネス展開をリポートする。
(左)技術本部第二技術部 田島和美部長
(中央)オペレーター 高木優莉奈氏
(右)福島工場第一製造部二課 渡辺潤也課長
田島 当工場は設立当初からオフセット輪転機がメーンのラベル印刷工場であり、最大10色といった多色・高付加価値ラベルの製造に対応する印刷機を多数保有しています。ほかにも、フレキソ機やレタープレス機、そして「HP Indigo 6900」を含め2台のデジタル印刷機を設備しています。
渡辺 飲料向けの粘着ラベルが多くを占めますが、近年はセキュリティ用途のラベルを多く製造しています。例えばデジタル印刷機でマイクロテキスト(極小文字)印刷を行ったあと、コンベンショナル機でコールド箔加工を施すといったラベル製造もこなします。
田島 当工場で手がける仕事は高機能・高付加価値のラベルで、大ロットが大半を占めています。しかし近年は、多品種小ロットへのニーズ対応が求められる傾向にあり、従来のコンベンショナル機では作業の負荷が大きく、生産効率も上がらない状況でした。このような現状を踏まえて2016年、デジタル印刷機を初めて設備。さらに生産ラインの強化を目的に19年、Indigo 6900を導入しました。
福島工場に導入された「HP Indigo6900」。3,000m以下の仕事を担い、生産ラインの強化を実現
渡辺 現在、生産ロットは3000mを基準とし、それ以下のロットはデジタル印刷機へ積極的に振り分けています。ラベルの基本デザインは統一されており、一部分を変更する多品種小ロットの仕事には最適です。ただし3000m以下でも仕事の内容次第では、オフセットやレタープレスに任せる場合もあります。
田島 当工場に勤務するオペレーターの平均年齢は30歳であり、オフ輪を含め技術承継はスムーズと認識しています。また近年は、女性の入社希望者が増加傾向にあります。当社としても女性が積極的に活躍できる労働環境を整備しており、デジタル印刷機も女性オペレーターが担当しています。
高木 私は19年に入社し、当初は検査工程を担当していましたが、同年秋にIndigo 6900を導入すると聞き、ラベル印刷に興味があったため、オペレーターに立候補しました。ですからコンベンショナル機を扱った経験もなければ、DTPに携わったこともなかったのです。それでもHPのトレーニングセンターで2週間、もう1人の女性とともに勉強しながら稼働方法を修練。当工場にIndigo 6900が設置された時から現在まで当機を扱っています。なおもう1人のオペレーターは産休に入っており、基本的に私が担っています。
高木 率直に言ってとても簡単です。印刷スピードは色数などに依存しますが、それよりも見当ズレが生じないとか、求めている色をすぐに再現できるとか、ジョブチェンジに要する時間が短いといった印象です。液体トナーに関して、フィルム系基材にはプライマーを施しますが、紙系はほぼ不要。もともと合成紙への印刷からスタートしているため、プライマーの負担は感じていません。
扱う点での要望として挙げたいのが「液体トナー切れの表示方法」。現在、トナー切れが発生した場合、モニターに表示されるのですが、ほかの作業で気付かないと、印刷機が突然停止してしまうことがあるのです。なにかランプとかで知らせてもらえるようになれば助かります。
渡辺 デジタル印刷機に要するジョブチェンジの時間は、新規の場合1時間を要しますが、リピートならば15~20分程度。当社の場合、フレキソ機がリピートでも最大1時間なので、コンベンショナル機との対比ではかなり早いといえます。スムーズにジョブをこなせるように生産スケジュールを調整しており、高木が担当するIndigo 6900は1日あたり10ジョブをこなすことも少なくありません。
田島 高木が手がけるIndigo 6900は、白色の紙系基材にCMYKのプロセス印刷が多いのですが、場合によっては補色を入れることもあります。当社では現在、カラーマネジメントシステム(CMS)の構築に注力しており、デジタル印刷はもちろん、オフセットやフレキソなどの色再現について共通化を図っている段階です。Indigo 6900ではCMYKのプロセスに補色を入れることで特色を再現。またガモットの拡張を図りデジタル印刷でオフセットの色域を再現したいと考えています。
高木 ジョブチェンジの時間も短くて済むのですが、それに加えて損紙が少ないと感じます。3000mのジョブで出るロスは平均60m程度です。
渡辺 例えば同じジョブをレタープレスでこなした場合、60mのロス紙では到底対応することができません。直近での原材料価格上昇に対する利益率確保の観点でも、優位と認識しています。もちろん環境負荷軽減への貢献といった効果もあり、損紙の削減に加え、液体トナーは米FDA認証を取得しているなど〝環境にやさしい印刷方式〟といえるでしょう。
高木 1ジョブに要する時間を短縮することで、スムーズな生産にもっと貢献できるようがんばりたい。また今後は、私のような女性オペレーターが印刷業務に携わるようになると思いますので、ミスやその対処方法などを分かりやすく教えられるように努力します。また、他社で活躍されているHP Indigoの女性オペレーターとも情報交換できる機会があればいいなと思います。
渡辺 当社の場合、抜き加工が別工程となっています。現状で、Indigo 6900がこなすジョブのスピードに比べ、アナログによる抜き加工機が追い付かないケースがあり、早期に改善したいと考えています。当社では現在、オンラインでのラベル印刷サービス「Happy Labels」を展開しており、Indigo 6900を含むデジタル印刷技術を中心に生産しています。
当サービスはトッパンインフォメディアにとって多品種小ロットのラベル製造が主体となりますが、今後、生産の効率化を進めるために、後加工機の検討やデジタルワークフローの活用を推進していきたいと思います。
田島 利益を創出できる生産の効率化と安定した品質要求に応えられる体制強化が重要と考えています。特に女性の活躍はもとより、シニア層も含めたさまざまなワークプランに柔軟な対応を図れるような労働環境の整備に力を注ぎたい。それを実現させるための手段として、主力のコンベンショナル機に加え、デジタル印刷技術のポテンシャルを引き出す運用が肝要と認識しています。
トッパンインフォメディアは21年1月、蘭Happy Printingとオンライン印刷プラットホームについての契約を締結。同年7月に、国内でラベルを対象としたオンライン印刷サービス「Happy Labels」をスタートした。
同サービス運営の目的は、コロナ禍による対面での販促活動が難しい状況の打開。HPの協力を得てIndigoユーザーのHappy Printingとミーティングを重ね、プラットホーム契約へと至った。
同サービスを担当する事業企画部の柿沼健一係長は「ラベルを含む印刷通販はすでに複数の企業が手がけています。そのような中で、品質基準を高く設定している当社の信頼性をもって差別化を図れば、B to Bのビジネスが可能と考え、企画を推進しました」と語る。
事業企画部の柿沼健一係長
ただし同社の生産体制は、高品質でブランドオーナーからの信頼は得ているものの、多くが大ロット向け。これに対して、柿沼係長は「福島工場をはじめ印刷機の主力はオフセット輪転機であり、当社で小ロットといえば3000m以下といった認識。
もちろん凸版間欠機なども保有していますが、同業他社に数多く設備されており、差別化を図るのは難しい。そこでハイレベルの印刷品質を可能にしつつも多品種小ロットに対応するデジタル印刷機を活用しています。特に『HP Indigo6900』は、当サービスの核となるべき機種といえるでしょう」として、抜群の信頼を寄せる。
同サービスで新規開拓を目指すのは、クラフト系の飲料や酒類、またはローカル市場での食品、調味料など。必然的に小ロットがターゲットの中心であり「多くて2000枚程度。平均的には500枚といったところです。またデザインに関しても、デザイン会社と協力し、ニーズに対応しています」(柿沼係長)と話す。
受注した「ガハハビール」のラベル。小ロットラベルに対応
もっともサービス開始直後からすぐに軌道に乗ったわけではない。メールやSNSなどのデジタルツールに加え、Indigo 6900で印刷したサンプルをDMで配布といったアナログ的な販促も手がけることで、だんだんと認知されるようになった。
サンプル配布で効果を得たのは、Indigo 6900で使用できる可変ソリューションソフト「HP SmartStream」の「Mosaic(モザイク)」「Collage(コラージュ)」、および「HP Frames(HPフレームス)」など。特にフレームスは動画をトリミングするソフトで、ボトル等に貼付されたラベルをそろえると、動きのあるデザインが表現できる。
専用ソフト「HP Frames」で1枚ごとにデザインが変化。躍動感のあるラベルも実現
また、Indigo 6900とコンベンショナル機の技術を融合したラベル製造にも注力。マイクロテキストの印刷や可変情報印字後のコールド箔加工、さらにはセキュリティ印刷など、付加価値の高い印刷の研究を推進することで、Happy Labelsの訴求力をさらに高める努力に余念がない。
特殊光を照射すると文字やコードが浮かび上がるセキュリティ印刷など高付加価値ラベルの開発・製造に高い効果を発揮
今後の展望について、柿沼係長は「当サービスは始まったばかりであり、当社の売り上げではまだ小さいといえますが、将来的にも大きなビジネスに成長する可能性を秘めていると自負します。ウェブを介して新たな領域への需要開拓を進め、デジタル印刷技術のポテンシャルを引き出し、ラベル市場にイノベーションを起こせるような事業となれるよう、努力する所存です」と力強く語った。
【本記事は ラベル新聞 が制作しました】