2020年6月23日配信終了
変わる商業印刷!
付加価値印刷とコロナ共生時代を見据えたDM
ライブ配信の際、配信冒頭のトラブルで視聴しづらい場面がありましたことをお詫び申しあげます。
付加価値印刷とサービス提供への転換が叫ばれている商業印刷の世界。デジタル化がけん引していくこの世界は、新型コロナウイルスの感染拡大によって変わる生活様式でどのような対応を迫られていくのか。全日本DM大賞(主催:日本郵便株式会社)で13年連続入賞を果たし、今回初のグランプリに輝いたフュージョン株式会社から吉川景博氏をゲストに招き、対談形式で商業印刷の変化と未来をダイレクトマーケティングの変化とともに考えたオンラインライブをダイジェストした。
最新全日本DM大賞を振り返る
今年3月に発表された第34回全日本DM大賞において、フュージョン(株)は最優秀賞であるグランプリを獲得した。全日本DM大賞は、DMを「戦略性」「クリエイティブ」「実施効果」の3つの軸で評価する日本最大のアワードだ。審査員も務める吉川氏が、まずは今回の全日本DM大賞の全体像を振り返り、解説した。
入賞DMを顧客ステージ別に俯瞰すると、新規顧客開拓からロイヤル顧客の育成に至るまで、実に幅広い顧客層にアプローチが取られていることがわかる。ECやSNSを使ったデジタル連動型が全体の約7割を超えるのもひとつの特徴だ。内容面では、顧客との関係を深める「カスタマーエンゲージメントの強化」、マーケティングオートメーションなどと連動してタイミングよくパーソナライズされた内容をスピーディに届ける「データ+イノベーション+スピード」型、休眠顧客などに対して何らかの行動喚起を促す「アクティベーションDM」に大別され、それぞれ工夫が凝らさている。その中から、入賞DMの実例がいくつか紹介された。
グランプリを受賞した東京個別指導学院のDMは、入塾から間もない受験生を持つ保護者に対し、子どもの兄弟や友人の紹介を募るものだ。保護者のエンゲージメントを高めることがひとつの狙いで、勉強面の指導だけではなく保護者の支えにもなりたいと考える塾の姿勢を伝えるため「母子手帳」のスタイルを模して届けた。「塾との関係性を深めながら、親子で学習に向き合うきっかけにしてほしかった」と吉川氏は語る。子どもの成長記録を書き込める冊子は好評を博し、入塾率は通常のおよそ2倍、コストは7割削減できたという。
また、ロイヤル顧客育成や休眠顧客へのアプローチも面白い。千趣会のベルメゾンは、コスメ製品のロイヤル顧客に対して、クリスマスプレゼントDMを送った。クリスマスまでの日にちを数える「アドベントカレンダー」に1日ずつコスメのサンプルがついている。パウチを外すとイラストが出てきて、使い終わった後も飾れるデザインだ。特別感満載のDMは、送付した顧客の60%以上が新たに化粧品を購入する大反響となった。
スーパーマーケットのいなげやは、ポイント失効を切り口に休眠顧客を復活させるべくDMを送付。目隠しシールをはがすと、失効ポイントと有効期限がわかるシンプルな内容だ。ポイント数の多い人を中心にコールセンターの空き時間にフォローし、25%以上が失効前に再訪する結果となった。「食品スーパーで休眠顧客を取り戻すのは難しいが、お客様から感謝の言葉もいただけて、効果の高い施策だった」と吉川氏は振り返る。両者はまったく異なるアプローチではあるが、ただレスポンスを追い求めるだけでなく、お客様のことを考え抜いたアプローチという点では共通している。
その他、Web宿泊サイトのゆこゆこホールディングスや化粧品通販のアテニアのDMが紹介された。これらに共通しているのは、顧客の行動や心理を、デジタル行動をベースにつかんで連動し、顧客毎にタイミングを計ることで受け取る人の心に響くという点だ。
(第34回全日本DM大賞についてはこちら https://www.dm-award.jp/index.html)
令和時代のDMとは?
次に、これからの時代を考える上で、ROIについての考察を行った。ダイレクトマーケティングの施策のひとつとして大きな役割を果たすDMは、費用対効果も含めて結果重視で提案するのが基本だと吉川氏はいう。売上は、「客数」×「客単価」の積み重ねであり、いわば顧客の行動の結果だ。よって、「誰にどういう行動をしてもらうか」を考えるのがDM制作のポイントとなる。また、コロナ禍によってECが売上を伸ばす一方で、実店舗は顧客数や来店回数が減少している。「顧客にとって購買チャネルは自由。ROIはDM単位ではなくも、オムニチャネルを前提に顧客単位で考えていかなければならない」と日本HPの甲斐はいう。「今回の例のようなB2Cだけでなく、B2Bでも、DM制作を単発で考えるのではなく、個別の企業単位でROIを考えていくことが必須になるだろう。」と続けた。
また、不確かな世の中だからこそ、ダイレクトマーケティングを「お客様との絆を紡ぐダイレクトなアプローチ」として再定義したいと甲斐は語る。これまでのDMは、顧客の購買履歴や属性情報で分類されたものはあっても、顧客を単一の視点でのみ捉え、DMは単独で実施されていた。メディアミックスはできても、顧客の嗜好を想像し、それにあわせたDMを個々に送ることは技術的に難しかったのである。時代は変わり、デジタル化の波は顧客との接点のありようも変えた。顧客の行動から生まれるデータを上手に活用しながら、個々の購買意欲に合わせたオファーを意図したタイミングで送れるようになったことは大きな変化だ。「いくらレスポンスが今までより良かったとしても、大半のお客様が受け取ってすぐに捨てるような独善的なものではなく、受け取った多くのお客様をハッピーにするものが令和時代のDMの基本」と甲斐はいう。単にレスポンスを追い求めるだけのマーケティングではなく、真の顧客理解を進め、DMそのものがブランド体験の一部になるということ。そして、デジタル印刷技術の進歩によって、さまざまな素材にさまざまなインキで表現できるようになった今、より豊かな体験を届けることができる。甲斐は、これらのことを掛け合わせたものを「令和時代のDM」として定義した。
「バラマキ型のDMはもう通用しないでしょう。『みんなに』ではなく『あなたに』届けることが大切」と吉川氏はいう。「マーケティングオートメーションと連動し、訴求するコンテンツとタイミングは連携できている。そこにクリエイティブな部分もパーソナライズされると、もっと大胆な手法が生まれるのではないか」と展望を語った。
「対象が企業であっても届けるのは企業の中にいる人です。それがどんな人で何を伝えたいか。企業に対しても『あなたに』届けるという考え方は、未開の地かもしれません」と甲斐はここでもB2Bの視点に関して付け加えた。
今、印刷会社に期待することとは?
2019年の日本の広告費の構成は、マスコミ4媒体(TV、新聞、雑誌、ラジオ)が全体の37.6%、DMを含むプロモーションメディア広告が32.1%、インターネット広告が30.3%となっている(株式会社電通調べ)。マスコミ媒体は前年比で減少、インターネット広告は増加、DMはほぼ横ばいとなっているが、DMは制作費を含めると約4,844憶円の規模となり、新聞を超える大きな市場であることが推測される。今年は新型コロナウイルスが多大な影響を及ぼし、経済産業省の発表では、4月の折込・DM広告費が前年同月比で半減したことを示している。しかし、スーパーマーケットがこぞって折込チラシを中止したことがこの減少の大きな要因であり、今後は直接メッセージを伝えるDMはこれまでよりもっと利用されていくのではないか、と吉川氏は推測する。甲斐は、「イベントなどの自粛により関連する広告が減少する一方で、人々は家で多くの時間を過ごしていることにもっと注目すべきだ。イベントや店頭などフィジカルで接触することが不可能ならば、家にいるお客様にどうやってリーチするのか発想を転換させれば市場が大きく動くことは間違いない」と人々の生活や行動の変化に着目した。従来のやり方や予算配分に固執するのではなく、変化に合わせて柔軟に対応し、今こそマーケティングミックスを変化させることが必要だ。そしてそれが商業印刷の内訳を変化させることにつながり、今言われている付加価値印刷を実現させる。
最後に、吉川氏に、印刷会社の方々に期待することを聞いた。フュージョンは、DMを制作する際、しっかりと時間をとってお客様と向き合い、理解することから始めるという。お客様と一緒に考え抜いて創り上げるプロセスを大切にするという吉川氏は、「企業に対してDMを売るだけではなく、最終的にDMを手にするお客様がどう捉えるか、という物差しで考えると、どんなことでも提案できる。それは事業主が求めていることでもあるので、ぜひ徹底して調べてクライアントに提案してほしい」と語る。その中で、データ活用は重要な位置づけになっていくだろう。顧客の行動や嗜好をタイムリーに捉え、個々のニーズにマッチしたアプローチは不可欠だ。「データを通じて顧客を深く理解する重要性はますます高まっていきます。一人ひとりの顧客に寄り添い、エモーショナルに伝えるDMは無限の可能性を秘めています。デジタルとうまくクロスし、アイデアを出しながらお客様に丁寧に伝えていくことが大切です」と吉川氏は語った。
こうしたDMを実現するには、デジタル印刷がもたらす技術は必須だと甲斐はいう。デジタルを最大限に活用し、お客様に寄り添ってハッピーを届け、企業との絆をつくる — それが、令和のDMが担う使命なのかもしれない。
1993年大手流通小売業入社。マーケティング部門にて広告全般を担当。主に顧客戦略策定、FSP開発、データ分析等、顧客データを活用したプロモーションを実践。現在は、フュージョンにてダイレクトマーケティングを軸とした、企業のマーケティング戦略立案、営業支援、新規顧客開拓などを実践。
■米DMA公認ダイレクトマーケティングプロフェッショナル
■一般社団法人 日本ダイレクトメール協会:ダイレクトマーケティング委員長
■全日本DM大賞審査員
■共著書「新DMの教科書(宣伝会議)」
IT業界においてマーケティング職20年。B2C、B2Bそれぞれの特徴を活かす独自のマーケティング施策を実施。途中eコマースビジネスの立ち上げにより、本格的なデジタルマーケティングを経験。以降、ブランド開発からコンバージョンまでフルファネル設計と段階ごとのクリエイティブ開発、評価を得意とする。現在はこれまでに得た知見をもとに、アフターデジタルにおける体験の時代における付加価値創造マーケティングを追求中。AIのマーケティング活用や産学連携の活用法にも取り組む。