【藪上 憲二 編】第2回: ICTのための予算獲得には「理屈」が必要な訳とは?

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-01-15

藪上 憲二氏
藪上 憲二氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

藪上 憲二

一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事

藪上 憲二
  • 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。

前回は自己紹介も兼ねて、これまで藪上さんがどのような取り組みを自治体などの組織のなかでされてきたのかということを伺いました。今回は、具体的にIT導入などに関する予算に関する事柄や、ご苦労なども伺ってみたいと思います。

藪上

おそらくどこの自治体の職員さんであっても同じだと思いますが、基本的にはあくまでも議会の承認が下りた予算のなかでやりくりすることになります。もちろんどの部署からも同じように「予算が必要だ」という声が上がってくるわけで、その中で自部署の新規案件のための予算を通すということはなかなか難しい面があります。

一度その事業を始めてしまうと、なかなかやめられないという側面も自治体にはありがちなことなので、なおさら新規案件に関しては慎重になってくるのも一般的です。また、役所の体質といいますか、前例踏襲主義のようなところもまだまだ残っていることが多いと思います。最近の物価や人件費の上昇であるとか資材価格の高騰などもあって、機材の更新ひとつ取ってみてもなかなか難しいこともあります。

例えば本来は5年間くらいでパソコンを更新していこうと思っていても、予算が通らないために6年目もなんとか使っているようなこともよくあります。こうした兼ね合いから、スペックを下げて調達するようなこともあるので、DX推進の担当者としては、予算の獲得に苦労することもあると思います。

そのような状況で予算を割いてもらうには、担当者がうまく説明して必要性を理解していただくという作業がとても大切です。予算を獲得するためには、財政当局を納得させるだけの「理屈」というものが重要です。

―限られた予算のなかでは、IT関連だけを大幅に増やしてもらうようなことは難しいかと思います。そういった状況で、これまで藪上さんが体験してこられた予算獲得術のようなものはあるのでしょうか。

藪上

結局のところ、自治体単位でみれば予算総額は変わらないので、IT関連を増やすのであればどこかを減らすということになってしまいます。自治体によっては、そこの首長にIT関連の導入などをやる気がある場合は、財政当局を飛び越えて実施に向かっていく場合もあります。

しかし一般的には、費用対効果を具体的に示せるかどうかがポイントになってきます。特に新規案件の場合はなおさらです。例えば、「このツールを導入するには300万円かかりますが、毎年〇〇万円の人件費削減が可能になり、費用対効果としてプラスになります」ということや、「これだけの経済効果が見込める」など根拠として示せるものがあると理解されやすいということです。

先ほどの首長の話と似ていますが、その自治体にIT関連の導入やDX化についてどれだけ熱意のある職員がいるかどうか、ということも実際にはポイントになってきます。上から命令されてやるだけでは、当然ですがどうしてもモチベーションは上がりません。しかし、DX化などの必要性を認識している職員がいれば、予算獲得の理屈などもなんとかうまく組み上げていけるものです。

ただ、多くの自治体ではIT専門職を採用していません。ですから、担当者が3~4年くらいで転属していってしまうことが普通なので、その期間では熱意を持って取り組めないということも起こりがちです。前任者が熱意を持ってITにも詳しい人で「こういう構想を持っていたが実現できていないので続けて進めて欲しい」というようなことをいわれても、後任者が詳しくなければ立ち消えてしまうことも珍しくありません。

自治体予算の内訳で考えると、「全体の予算の〇〇%をIT関連にあてましょう」というような指標があるわけではありません。むしろ独立した予算というより、総務費のなかで割り当てられることが多いと思います。人件費と同じような扱いになっていて、IT関連の予算として切り出されることは基本的にありません。財政当局からみればIT関連に予算を支出しても、それが直接利益などを生み出すわけではないからです。そんな背景から予算の割り当てに消極的になる側面があるのだと思います。

そういったときに、IT関連の補助金などもあると思いますが、そういったものを予算として組み込むこともあるのでしょうか。

藪上

IT関連はそのために特別な税金を徴収したりしているわけではないので、例えば健康保険などと違って自主財源と呼べるものはありません。

ただし、国が補助金を出す事業の中にはIT関連にひもづけて自主財源のように使えるものもあります。ただし、国から補助金が出る場合でも、全額を使えることはあまりありません。コロナ禍のような全額補助という場合もありますが、一般的には補助金の1/2か1/3程度が使えるかどうかというところです。GIGAスクール構想のような場合には、2/3くらいと比率が高い場合もありますが、通常はそれほどではないと思います。

また、建設系の場合には起債して予算をまかない、その元利償還金のうち半分を国が負担するというような場合もあります。そちらでIT関連のものを導入する場合には、通常の補助金とは仕組みが異なってくるので、ケース・バイ・ケースになります。

最近、政府が進めている取り組みとして「新しい地方経済・生活環境創生交付金」というものがあります(参考:https://www.chisou.go.jp/sousei/about/shinchihoukouhukin/)。

この場合には、いろいろとやり方はあるのですが、例えば「事業の当初3年間のランニングコストまで面倒をみましょう」というようなこともあります。ここで国が意識しているのは、「市民サービスに影響するものであれば補助金を出しましょう」ということです。

例えば「学校のWi-Fi環境を見直しましょう」というようなことであれば、児童・生徒に直接影響することなので補助金も出やすくなります。しかし、職員だけが使う「役所の庁舎内のDX化」となると住民への効果が見えにくいので難しくなるようなこともあります。もちろん、これも最終的には市民サービスに影響してくるはずなのですが、こういう内容だと「対象外です」といわれることも多いと思います。このため、先ほどの「理屈」のように市民サービスと絡めながら、補助金を受けられるような事業内容とすることもあります。

そのような予算獲得の方法もあるなかで、IT関連の導入などの青写真を描くには、どのようにしていけばよいのでしょうか。

藪上

予算について納得してもらうためには、説得材料をどうやって調えるかということも大切になってきます。自治体の場合にいちばん説得材料としてわかりやすいのは、「他の自治体ではすでにこうなっています」というような事例を具体的に挙げることです。前例踏襲主義ということもありますが、多くの自治体の場合にはファーストペンギンになろうというところは少ないと思います。しかし、成功事例があるのならば、そのハードルは下がることになります。「うちの自治体は遅れているので、ここにこれだけの予算を付けてこうしないと追いつけません」というような理屈で、きちんと納得してもらうことが重要です。

民間企業と違って、自治体の場合には事例があるかどうかというのがとても重要になってくると実感しています。もしなにか困ったことがあれば、先行している他の自治体に教えてもらうこともできます。そういったことも、説得材料として大きいと思います。

また予算規模についても、「ここの自治体の規模でこれくらいの金額で」というような妥当性を持って提案することが可能になってくるのもメリットです。自治体間での横のつながりについては、特に問題なくできることも多いので、様々な事例を教えてもらうこともよくあります。

国が進める事業などに関して、やりやすい分野などというものはあるのでしょうか。

藪上

やはり専門的な内容になってくると、提案しても分かりにくいという面はあると思います。例えばテレワークやリモートワークなどは分かりやすいので、そういったことに関連してセキュリティを高めるための事業であるとか、効果が分かりやすいものが通りやすい傾向にはあります。特に市民サービスの向上というのは分かりやすいので、市民と行政の両方が楽になるサービスの導入なども認められやすいかと思います。

予算獲得については、単純に「更新するのに必要です」というだけでは弱いような場合もあります。そういう場合にはあらかじめ「更新と同時にこういう新しいサービスも導入します」というような形で説得力を持たせることもあります。「このような付加価値があるので、金額的には少し上がっても妥当です」というようなこともいえます。

予算請求に関しては、いろいろなやり方があるかとは思いますが、自治体の調達の場合にはRFI(Request For Information)を複数社に出して見積金額を出してもらい、そのうえで予算化していくのが最近は増えていると思います。

予算化に関しては、担当者の力量が問われるところでもあるので、しっかりと説明できるだけの知識なども大切になってくると思います。

予算獲得に「理屈」が必要になる理由がとてもよくわかりました。本日はここまでにいたしましょう。ありがとうございました。

連載
  1. 第1回:自治体ICTを動かすキーマンの原点
  2. 第2回:ICTのための予算獲得には「理屈」が必要な訳とは?

HPは、ビジネスに Windows 11 Pro をお勧めします。

Windows 11 は、AIを活用するための理想的なプラットフォームを提供し、作業の迅速化や創造性の向上をサポートします。ユーザーは、 Windows 11 のCopilotや様々な機能を活用することで、アプリケーションやドキュメントを横断してワークフローを効率化し、生産性を高めることができます。

組織において Windows 11 を導入することで、セキュリティが強化され、生産性とコラボレーションが向上し、より直感的でパーソナライズされた体験が可能になります。セキュリティインシデントの削減、ワークフローとコラボレーションの加速、セキュリティチームとITチームの生産性向上などが期待できる Windows 11 へのアップグレードは、長期的に経済的な選択です。旧 Windows OSをご利用の場合は、AIの力を活用しビジネスをさらに前進させるために、Windows 11 の導入をご検討ください。

※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません。

ハイブリッドワークに最適化された、Windows 11 Pro+HP ビジネスPC

ハイブリッドなワークプレイス向けに設計された Windows 11 Pro は、さらに効率的、シームレス、安全に働くために必要なビジネス機能と管理機能があります。HPのビジネスPCに搭載しているHP独自機能は Windows 11 で強化された機能を補完し、利便性と生産性を高めます。

詳細はこちら

日本HP 公式オンラインストア
HP Directplus
用途やニーズでカスタマイズ可能

法人向けPC国内シェアNo.1。直販サイト限定の多彩なラインナップと特別キャンペーンをお見逃しなく。信頼のパフォーマンスと強固なセキュリティを備えた最新モデルを、1台からお得にお見積り可能。ビジネスを加速させる最適なPCソリューションを、あなたの手に。

HPのダイレクトストアはこちら

「自治体・公共」の人気記事

自治体・公共