2024.12.19
ミライタッチ×Polyビデオバー×HPプリンター実証実験レポート
学校の授業形態が大きく変化している現在、GIGAスクールに代表されるICT活用はもちろん、デジタルデバイスの導入により、子ども達の学びの環境は常に進化を続けている。輝かしい取り組みの一方で大きな課題となっているのは、増え続ける不登校児童の存在だ。「誰一人取りこぼさない」をテーマとする日本の教育環境の中で、その解決の糸口と成りえる取り組みが「学びの多様化学校」だ。今回はその先駆けとなった大分県玖珠郡玖珠町の校舎に試験導入されているソリューションを紹介したいと思う。
「学びの多様化学校」はいわゆる不登校特例校のことで、「不登校児童生徒等を対象とした学校設置に係る教育課程弾力化事業」の一環として平成16年に閣議決定され、平成17年より周知された教育施設だ。2024年11月現在、全国で35校が存在し、不登校児童になったことで、学びから遠ざかる子どもたちを受け入れ、もう一度自らの力で学び、生き、未来を作ることができる人へと成長してもらうため、教諭ら一同と共に活動する場となっている。
今回訪れた大分県玖珠郡玖珠町にある「玖珠町立学びの多様化学校」もその中のひとつであり、2024年4月に新設された学校となる。「この学校の中では教師に自由裁量が与えられます。そこで私たちは『対話』『野遊び』『探求』といった教科を新設しています」と語るのは井上氏だ。
「対話」とはまさにコミュニケーションを通じて、自分と他者を理解することを目的としており、「野遊び」は自然から様々なこと学び、創造性や健やかな心身をはぐくむことを目指している。「探求」においては、協同でものごとを創造する力をプロジェクトとして学ぶ授業となる。
「学校を欠席していた分だけ、授業の進度は下がります。その分の対応として、新設教科があり、ICT機材を使いながら学び、今まで遅れていた部分を補充していくというカリキュラムを組んでいます」と岡野氏も言葉を続ける。株式会社 日本HPおよびさつき株式会社は同校の考えに賛同。ICT教育を支援すべく、ひとつのソリューションを提供し、その実証実験をしてもらうことになった。
右から、玖珠町立学びの多様化学校 教諭 井上孝文氏、同校教諭 岡野 悟氏
今回、玖珠町立学びの多様化学校に試験導入されたのは、さつきが開発・販売している電子黒板ソリューション「ミライタッチ ChromeOS Flex 搭載モデル(以降、ミライタッチ)」および、HPのPolyブランドからUSBビデオバーの「Poly Studio USB ビデオバー(以降、Poly Studio)」、同じくPolyからオンラインコミュニケーションの品質を上げる「Poly Blackwire 3320 USB-A(以降、Poly Blackwire 3320」さらにタンク補充式のインジェクションプリンター「HP Smart Tank 7305」だ。これらの製品をひとつのプラットフォームとして使うことで付加価値のある授業が可能になる。このソリューションによって何が得られたのか紹介していこう。
EDIX関西で発表された「ミライタッチ×Poly Studio×HP Smart Tank」によるパッケージソリューション。ICT教育をさらに前進させてくれる数々の機能を提供する
ミライタッチはChromeOS™を搭載することで、他のGIGA端末同様にGoogle Workspace for Educationによる一括管理が可能となっている。単純にChromeのブラウザを大画面で表示したいといったニーズに簡単に応えられるだけでなく、例えば教員が自分のIDでログインすれば、職員室にある自分用の端末と同じ環境が電子黒板上で使えるようになる。これは生徒にもいえることで、小さな自分の端末をより大画面で操作することができる。もちろん、タッチパネル対応でズーム、ピンチなどのジェスチャーも自由自在なので、スライドを使った課題の発表なども本格的におこなえるのが魅力だ。
教室に設置されたミライタッチ。この日は黒板脇に置かれていたが、授業内容によってフレキシブルに位置変更も積極的におこなえる
「普通の大画面テレビにChromebookの画面を投影するというのはこれまでも経験しましたが、ミライタッチは画面の拡大、縮小がパネルで指示できるので、より直感的に使えることに最初は感動しました。また、大画面テレビの場合はブラウザやページの送りはいったんPC上でやらなければなりませんが、ChromeOS搭載のミライタッチはそのまま画面上で指定することができます。授業をいちいち止める必要がないので、非常にスムーズに進みます」とファーストインプレッションを語る岡野氏。
「生徒達から一番多い声は、画面がとてもきれいだという意見です。これまでの大画面テレビはテキストなどを表示すると文字つぶれが目立つことがありましたが、ミライタッチは4Kの超高精細ディスプレイなので、それはまったくおこりません。そういった意味では、教科書やテキストを表示するには最適な電子黒板という言い方もできるかと思います」と井上氏も言葉を続ける。
また、小型のWebカメラをミライタッチに追加することで、プリントの読み込み等にも活用しているという。「生徒が紙に書いた内容を画面上に発表する際に、Webカメラを手に持ち、アップで見えるようにしたり、リアルな教科書のテキスト部分をクローズアップしたりするのに役立っています。ワンポイント的な使い方ですが、授業の中では非常に効果的です」と岡野氏は語る。
小型のWebカメラを接続し、テキストを投影しながらタッチジェスチャーで内容をクローズアップしながら説明するといった使い方もできる
同時に導入されたビデオバーのPoly Studioについては、リモート授業での活用がメインになっているという。Poly Studioは高性能マイクと大型ステレオスピーカー、4K品質の高性能Webカメラが一体となった製品になる。最先端のAI機能を豊富にもち、優れたノイズリダクションや参加者の数に合わせたフレーミングや話者へのズームなども自動でおこなわれ、リモート環境におけるコミュニケーションをよりリアルに演出してくれる製品だ。
「欠席の子がいる場合、その日の朝には連絡が入るのですが、リモート授業を希望する場合にはPoly Studioを使って授業の様子を届けます。フォームで問題を作ったり、手元のデジタル教科書を見たり、授業しながらちょっとした課題を送ることができるので、それをやってもらいます。こちら側で、入力が終わったのか、どんな答えを入れたのかといったこともすぐに把握できるので、遠距離にあっても通常と変わらない感覚で授業ができます」と岡野氏。
「Poly Blackwire 3320に関してはリモート授業だけでなく、外部の方々とWebミーティングをするような場合で、周囲に雑音が多いときに使用しています。あまり機会はないのですが、何度か試してみて、とてもクリアで明瞭なやり取りができました。今後も積極的に使っていきたいですね」と井上氏は語る。
Poly Studioも取り外し可能。授業の内容をリモートで送るため、この日は教室の後ろの棚に置かれていた
オンラインコミュニケーションの品質を向上させるPoly Blackwire 3320
しかし、良いことばかりではなく、高性能がちょっとした問題を引き起こすケースもあったのだという。「ひとつは、画面酔いです。Poly Studioは教師の移動に合わせて自動的に画角を調整してくれるのですが、それを嫌う生徒が何人か出てしまいました。解像度の高いきれいな画面なので凝視のしすぎかも知れませんが、今では画角は固定して使うことが多いですが、遠隔授業にはあまり影響はありません。今後はカメラのフレーミング方法を変えるなどの工夫もしたいと思います」と岡野氏。
「もうひとつ面白いエピソードがありました。実は修学旅行のときに何をしようか話し合いをする授業の際に、ひとりの子がリモートで参加していましたが、ちょうどその子が修学旅行中に誕生日を迎える予定でした。ちょうど画面の向こうにいたこともあり、教室の生徒たちとひそひそ声で、〇〇さんにサプライズプレゼントをあげよう、と打ち合わせていたのですが、その内容がすっかりリモート先の本人にも届いていたのです(笑)」と井上氏は楽しそうに当時のエピソードを語る。Polyの最新テクノロジーにより、小さな声でもクリアに相手に届けることができる。複数人が部屋にいる場合にとても有効な機能なのだが、このときばかりはそのテクノロジーがうっかり邪魔をしてしまった格好だ。
HP Smart Tankは、従来のインクジェットプリンターが採用してきたカートリッジ式ではなく、インクタンクに直接インクを注いで補充する方式を採用したプリンターだ。これにより、大容量インクの搭載が可能となり、従来のカートリッジに比べ印刷コストを圧倒的に下げることに成功している。
印刷コストを最小限に運用できるHP Smart Tankシリーズ。失敗を恐れず、自由にプリントすることが可能だ
「HP Smart Tankについては、日常の学習プリントや生徒たちが作った成果物の印刷に使っています。直前に使った例ですと、夏休みに夏祭りをしようということになり、生徒たちに出し物を考えてもらいました。そのアイデアを印刷して教室に張り付けていったのですが、その際にはプリンターが大活躍しました。以前は職員室に来てもらい、一人ずつデータをもらいながら印刷したのですが、HP Smart Tankなら、教室にいながら簡単に印刷することができます」と岡野氏は語る。
印刷物を利用して作られた壁紙。児童生徒らの楽しそうな声が聞こえてきそうだ
実際に授業の様子を見せてもらったが、ミライタッチ×Poly Studio×HP Smart Tankの組み合わせによる運用は、非常に効果的に働いている様子が見て取れた。生徒たちからは、画面のきれいさや大画面のみやすさについての言及が多く、それだけ真剣にミライタッチに表示される内容を読み取ろうとしていることが分かる。
「テレビだけだったときは一方通行に表示させるだけでしたが、ミライタッチやHPの製品と組み合わせることで双方向のコミュニケーションが電子黒板上で実現できたと思います。Chromebookと同じ使い方ができるので、操作を改めて覚える必要がないのも良い点だと思います。生徒たちの授業への理解は確実に深まっているといえます」と岡野氏は改めて今回のソリューションを評価する。
「以前は教科書に今日やる授業の内容をあらかじめ書き出していましたが、終わると次の授業のために消さなくてはならず、翌日にはまた同じことを黒板に書かなくてはなりません。わたしはその時間が非常にもったいないと常に考えていました、ミライタッチとHPの製品との組み合わせにより、あらかじめデジタルツールに授業のポイントを書き出しておけば、何回でも簡単に呼び出せるようになりました。私たち教える側にとっても授業の効率化に大きく貢献してくれていると思います」と井上氏も感想を語る。
「ミライタッチとHP製品の組み合わせは、他の教室でも使いたいという先生もいらっしゃいます。また、単体でオンラインコミュニケーションはもちろん、ブラウザの情報が表示できることから、大規模な災害があった際に避難所となる学校や近隣施設に持ち込むことで、被災状況のリアルタイム把握や、被災者が関連するSNS情報の表示にも役立てられるのではないかと考えています。この使い方はまだ試していませんが、有効活用できるのか実証実験をしたいと思っています。今後もさつき様とHP様にはご協力いただけるとうれしいですね」と最後に井上氏は語ってくれた。
なお、取材時(2024年11月)には、本編で紹介した「玖珠町立学びの多様化学校」」という校名だったが、2024年12月からは「玖珠町立くす若草小中学校」へと名称が変更される。同校の児童生徒らがじっくり話し合った結果に誕生した校名で、これを町が承認。新たな校名へと選ばれることになった。日本HPとさつきはこれからも玖珠町立くす若草小中学校の支援を続けていく。
右から、株式会社 日本HP エンタープライズ営業統括パブリックセクターDX推進営業部 斉藤 伸幸氏、井上氏、岡野氏、さつき株式会社 ITソリューション事業部 事業推進部 柳 颯人氏
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