2023.02.28
合同会社 山形巧哉デザイン事務所 山形 巧哉氏
沖縄県はHP Chromebookを最も多く導入している地域のひとつだ。そんな同県において、教員、教育委員会関係者などが多く集まったイベント「 第27回沖縄県マルチメディア教育実践研究大会レポート」が開催された。教育におけるICT活用が積極的な地域で、さらなる活用法を見出そうと、次々来場者が訪れる中、日本HPもこのイベントをバックアップ。展示会やワークショップを後押しした。それではさっそく当日の様子をお届けしよう。
この日のワークショップに登場したのは北海道の函館地方にある森町で職員としてIT環境構築を続けてきた山形氏。同氏は当時の苦労話を交えつつ、『デジタルと、教育と、コミュニケーション』について語った。
山形氏は森町で2010年から庁内システムの仮想化に着手、2012年には町内の学校をシンクライアント化も開始。翌年からは本格運用も始まるなど先進的な取り組みをしてきた経歴を持っている。
仮想化導入後のパソコン教室。筐体を置かない、すっきりとしたレイアウトに変更された
その後、サーバーレス環境の研究を続け、学校のICT環境を「フルクラウド」にシフトすることを決意、これを実施した。「ゼロタッチプロビジョニングによって、クラウド上にデスクトップ環境を構築しておきます。ログインさえすれば、その環境がどこでも利用できるため教育に使うには最適だと判断しました」と山形氏は語る。
フルクラウド化されたリッチコンピューティングを開始。ゼロタッチプロビジョニングを採用しているのでデスクトップ環境はセキュアでどこからでも同じ教育を実施することが可能
「この環境はとても優れていましたが、ネットワークの遅延という大問題を抱えていました。先生方からはクレームの嵐をいただきました」と当時を振り返る山形氏。ネットワークを再度見直し、GIGAスクール構想が開始されるのをきっかけに大幅な刷新をおこなったという。「こういう状況になると単純にインターネット回線を増やすという考え方になりがちですが、実際にはもっと出口の方のルーターやWi-Fiアクセスポイントといった設備の充実の方が効果的でした。また、学校内から外部へアクセスする際に何重ものフィルターを経由します。これも問題になっていて、例えばMicrosoftやGoogleといった安全なサービスを使う際は直接アクセスを可能にするといった処置も必要だと考えます」(山形氏)
仮説、検証により、こうした課題を解決していき、さらにはコンピューターの使われ方についても将来性を考えたデザインを実施したという。「外でもネットワークに繋がれるLTEモデルを導入しました。フルクラウド&サーバーレス環境だったので、データは常に守られます。ですから、この頃には端末を持ち帰ることも容易になりました」と山形氏。スマートフォンを使うように、コンピューターも使って欲しいというユーザー目線の考え方により、このシステムにいきついたと同氏は語った。こうして森町は、全国的に見ても安定したICTインフラを構築することに成功したのだ。
ICTをストレスなく使える環境が整っている森町の教育現場ではデジタル活用が盛んだ。「森町では学習支援等のシステムは導入せず、あくまでもICTは子どもたちにとって普段使いの文具だというスタンスをとっています」と山形氏。そんな環境においてメインのツールはGoogleやMicrosoftが提供する無償のアプリ群となる。
「例えばチャットツールを利用し、体育で使うダンスを動画にしたものを配信、子どもたちはそれを真似て自分たちでダンスを録画し共有するといった使い方がされるようになりました。また、低学年の子たちはローマ字入力ができないので、音声入力を利用した検索を教えるといったこともしています。そのほか様々な発想の元、コンピューター端末が自由な形で活用されています。」(山形氏)
「こうした取り組みを続けることで、子どもたちにクリエイティブな発想が生まれ、GIGAスクールが始まった1年と少しの段階でデジタルの利活用が町内でもトップクラスになりました。それぐらいICTには力があり、可能性があるということだと思います」(山形氏)。
それでも教員、教育委員会、自治体などの組織内あるいは連携において、課題はまだまだ残っているという山形氏。例えば学校の校務ではファイル共有がうまくいっていないケースや、行事予定なども紙に依存するなど、現在でもいわゆる手作業や古い仕組みに依存するコミュニケーションが行なわれているのが実際だという。「それを解決する手段として、無償で使えるGoogle Work Space(GWS)の活用が考えられます」と山形氏は語る。プラスアルファで費用を使わずとも利用できるツールを活用することで、コミュニケーションは効率化できるというわけだ。
例えば一覧することで理解できるものをわざわざ口頭説明している可能性はないだろうか。作業報告や行事の連絡などは、授業前にわざわざ時間を割いてまでやる必要はないかもしれないのだ。「例えばチャット見てください、というだけで解決できる議題は多いのかもしれません」という山形氏。GWSのチャット機能にすべての教員を入れて、今日の連絡事項や必要書類の提出期限などを入力しておけば、その履歴は残り続けることになる。必要なときにチャットを開くだけで、かなりの量の連絡事項はいつでも取り出せるのだ。
―情報共有
GWSのチャットを活用し、朝のミーティング時間を短縮
また、ファイル共有についても無駄が多いことがよくあると山形氏はいう。「チャット機能でもファイル共有はできますし、GWSなら議事録の共同編集も容易です。紙で書いたものをデジタルにするのではなく、その場でデジタル化することがスキルアップにも繋がりますし、負担も大きく減らすことができます」(山形氏)
―ファイル共有と共同編集(議事録等)
チャット機能を利用したファイル共有の一例。議事録も共同編集すれば負担は大きく軽減される
―勤怠管理
またGoogleフォームを使えば勤怠管理に使う出勤簿も作成できる。出勤のラジオボタンにチェックを入れ、送信ボタンを押すとバックグラウンドではタイムスタンプとメールアドレスが送られるシンプルな仕組みだ。「こうやって作ると、改ざんが怖いといった意見も出てきますが、GWSの場合は編集したところは必ず履歴が残るようになっています。ですから改ざんがあっても、それはすぐにわかってしまうのです」と山形氏は語る。
ちなみにこのGoogleフォームを利用すれば、職員アンケートや休暇届フォーム、消耗品要求フォーム、公用車利用フォーム等も作ることが可能だ。
また、校務でよくある例として、スケジュールの共有を紙ベースでおこなっているケースを挙げた山形氏。「たくさんある行事までの日程管理をするケースは多いと思いますが、いまだに紙ベースでやっている学校もよく見受けられます。GWSにはカレンダー機能も備わっていますから、これを使うほうがスケジュールの共有は効率化できます」(山形氏)。
こうしたデジタルツールの場合、学校全体、学年別、クラス別、個人といった、必要なジャンル分けをした上での予定管理が容易なうえに、メールひとつ送るだけでそれを相手と共有することが可能になる。今まで都度、予定を紙で提出し、さらにそれをExcelなどで集計するといった二重の管理を行っていたケースでは特に有効だ。
―スケジュール管理
また、スケジュールが各自でしっかり作られていると、会議を招集する際にも相手の空き時間が聞くまでもなく把握できる。その後は、開催スケジュールの作成や会議室予約、参加者の招待まで、すべてがGWS上で完結させることも可能になるのだ。
―会議開催~招集
他にもGoogleサイトを使えば、自分だけが使えるポータルサイトの制作も簡単に行える。「私は自分専用のポータルサイトを作って、自分がよく使うサービスへのリンク集として活用しています」(山形氏)。
―ポータルサイトの作成
Webに公開するホームページを簡単に制作・アップロードできるGoogleサイト。使い方も幅広く、ポータルサイトの構築もすぐに実践できる
「学校の先生は、日常の仕事に忙殺されがちで、こういったデジタルツールを使えば効率化できることを知りつつも後回しにしてしまう方もよくお見受けします。面倒でも取り掛かりさえすれば自分を楽にすることが出来ます。これは早ければ早いほど良いです。子どもたちには、『宿題は早くやって、終わらせてから遊びなさい』と教えているはずです。それを大人のみなさんは実践しない。今改善できるものはすぐに取り掛かった方が良いので、ぜひGWSを使って業務効率化に繋げていただければと思います」と山形氏は語る。
先生方がICTを日常的に使いこなすことで、このような項目でも効率化できるようになる
「普段使いが始まることでおこる発想の転換がポイントだと思います」という山形氏。ここで例に出したGoogleでも参考になりそうな教育者向けのコンテンツは山のように出てくると力説する。
―山形氏が教えてくれた参考サイト
Googleの検索窓に「google for education giga school」と入力し、「活用ライブラリ」と進むことで、GWSの活用事例を始めとした様々なノウハウを入手できる
同じくGoogleで「授業準備TV _byフォレスタネット」と検索すると、参考になるコンテンツを見ることができる。先生向けの動画配信はたくさんあるので、調べて盛るのも面白いと思う
姫路市のGoogle認定教育者が運営しているGoogle Workspace for Educationの活用ポータルサイト「GEG Himeji」。こうしたサイトにもたくさんのヒントが掲載されている。こういった活動に参加して知見を高めるのもひとつの方法だ
「学校によっては外部サービスを一切禁止しているところもあると思います。そんな場合でもブラウザツールは使えることが多いので活用してみるのも方法だと思います。最後の提案として、デジタルを使ってリテラシーを“普通”に高め、先生たちもスマートフォンを使いながら仕事を楽にしていって欲しいと思っています。この“普通”がもっとも大切だと考えています。教育が大きく様代わりしたように、みなさんも教育方法をアップデートしてください。まずはできることから始めてみましょう」と最後に山形氏は語ってくれた。来場者に多くのヒントを与えた山形氏には盛大な拍手が送られた。
URLリスト
Google Workspace
Google for Education GIGA School
Google for Education GIGA School ― 活用ライブラリ
授業準備TV _byフォレスタネット
GEG Himeji
まとめ)
山形氏のワークショップでは、彼の公務員時代に体験した学校、教育委員会、生徒、保護者といったそれぞれの視点からの考察がとても面白かった。来場者のほとんどが教育者であり、当事者でもあるため、一歩引いた視線で数々の取り組みを見てきた経験からの発言は有意義だったのではないだろうか。とかく対立構造になりがちなこれらの関係性に対しても山形氏は「対立よりも協働がとても大切」と繰り返し述べていた。自らの成功体験からも、共にひとつのことを成そうとする姿勢の重良さを山形氏自身が一番よく知っているのだろう。今後の山形氏の活動にも注目していきたい。
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