2023.02.28
国際大学GLOCOM 准教授/主幹研究員 豊福 晋平氏
沖縄県はHP Chromebookを最も多く導入している地域のひとつだ。そんな同県において、教員、教育委員会関係者などが多く集まったイベント「 第27回沖縄県マルチメディア教育実践研究大会レポート」が開催された。教育におけるICT活用が積極的な地域で、さらなる活用法を見出そうと、次々来場者が訪れる中、日本HPもこのイベントをバックアップ。展示会やワークショップを後押しした。それではさっそく当日の様子をお届けしよう。
「デジタル・シティズンシップでは、勉学にとどまらず、子どもたちがテクノロジーを介して社会参加することを目標としています」と語る豊福氏。同氏はデジタル・シティズンシップを研究、普及、定着を活動目的とするJDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会の共同代表理事も務めている。沖縄県においても、何度かこのテーマについてワークショップを開催していることもあり、当日は理論よりも実践に主眼を置いての講演となった。
「GIGAスクール以降、デジタルは学校でも日常的に使われ、今や文具、連絡、共有の手段となっています。それにより家庭での使われ方も変わり、生活と学びに不可欠となり、学校の影響を受けるようになっています」と現状を分析する豊福氏。デジタル・シティズンシップの定義を最もシンプルな形で「デジタル技術の利用を通じて社会に積極的に関与し、参加する能力のこと」と表現する豊福氏。同氏は続けて「日本人にとってこれはハードルが高いです。プライベートのやり取りには毎日使っていますが、これを使って社会を動かすということにピンとこないケースが多いです」と課題感を明示した。
一方で、ネットメディアを通じて様々な情報発信が進んでいる現状から、この目標に向かって社会全体が少しずつ進んでいるとも語り、このデジタル・シティズンシップをさらに定着させていくには「安全・責任・相互尊重」の3つのキーワードが大切だと述べた。「それには、デジタルデバイスを教員が使わせていた教具から、生徒自らがコントロールする文具にしなければなりませんし、他律から自律へ考え方を変えなければいけません。私達の生活にメディアとの関わりは不可欠ですが、睡眠や食事、家族と話す時間など、健康な生活を送るために必要な時間とのバランスを取ることも大切です。最後にメディアリテラシーです。偽情報・誤情報といういわゆるフェイクニュースを見極める力や、最近ではヘイトスピーチの問題も学校できちんと教えないといけません」と豊福氏はそれぞれのキーワードの重要性を解説した。
ここからデジタル・シティズンシップ教育の具体的な手法についての説明に入る豊福氏は「デジタル・シティズンシップ今日には6つの領域があります」とスライドを示した。まずはそれぞれの領域を理解してから望むのが理想だという。
「よく情報モラルとどこが違うのかという質問を受けます。情報モラルは禁止・抑圧で、デジタルシティズンシップは自由・放任みたいな極端な言い方もされますが、それは違います。私達が教えるべきは、デジタル世界との関わりで生じるジレンマ課題を自分で解決出来るように促すこと。授業でも家でもずっと使うものという認識をもとに、子どもたちの成長に沿って、彼らの捉え方や考えに共感し、解決の糸口を一緒に探していきます」と豊福氏。それには4つの指導ポイントがあるという。
「デジタルシティズンシップの授業に呼ばれることもありますが、中学生以上になれば、どうせまた説教されるんだろ、といった様子で子どもたちはお葬式のときのような表情になっています。別に説教しに来たんじゃないよ、君たちになくてはならないものだからこそ、困りごとも一緒に考えようというスタンスが一番大切です」と子どもたちにとってのデジタル世界への関わりに素直に共感することが一番大事だと豊福氏。そのほか、明確な言葉や定義を与えること、思考ルーチンで手立てを与える、話し合いのなかで正解のない答えを探っていくといったことが重要となるのだという。
話は戻り、デジタル・シティズンシップカリキュラムの構成パターンについて語ると豊福氏は以下のスライドで説明。STEAMライブラリの教材について語り始めた。
豊福氏が示したスライドには経済産業省のSTEAMライブラリが表示された。「ここに記載してあるコンテンツは国のガイドラインに沿って公開されているので、誰でも無償で使うことができます」と豊福氏。イントロ動画、指導案、スライド、ワークシートが揃っており、すぐに授業に使うことができる。また学改編にも許諾は必要ない。実際の配布サイトの様子は下記になる。
経済産業省「STEAMライブラリー‐未来の教室(https://www.steam-library.go.jp/)」にアクセスし、「テーマ一覧」から「GIGAスクール時代のテクノロジーとメディア~デジタル・シティズンシップから考える創造活動と学びの社会化(https://www.steam-library.go.jp/content/132)」へ進む
全8コマの展開イメージ。オレンジが小学校低学年、グリーンが小学校中~高学年、ブルーが中学高校向けと大まかに分けることができる。「それぞれのコンテンツは短時間のイントロ動画を見ると大まかな内容が分かるようになっています」と豊福氏。
ここからは実際にGoogle Classroomを使った教材の体験に入る。参加者にはタブレットPCが配布され、この教材を使った授業について自分の考えや課題について話し合う形式だ。
今回のワークショップで、参加者たちが体験するのは、以下のストーリーになる。
① 自分がやりたいコマを決めてイントロの動画を見て内容を把握する。
② 次に同じページ内に用意されている「教員用指導案」をみて授業の流れをつかみ、児童生徒たちがこの授業を受けた後の変化をイメージする。別に用意されている「学習者用資料」の最後に「学びを活かそう」の問いがあるので、児童生徒たちがそこに何を記入するかを予想する。
③ そしてその予想に対して、教員としてさらなるテクノロジーや端末の前向きな活用を即すため、どのようなフィードバックができるかを考える
これを当日配布されたタブレットとJamboardを利用し、同じコマを選んだ教員らと話し合ったり、他のコマの教員らが導き出した答えと情報を共有するという試みだ。
例えば、「【小学校中~高学年向け】メディアの使い方、自分でバランスをとるには?」を選択した場合は、導入の動画を見て内容を把握する。
そのコマ用に用意された教員用指導案を参考に、子どもたちがこの授業をどのように受け取るかをイメージする
児童生徒たちがこの授業用に用意された問いに対してどのような意見を持つかを予想。それに対して教師として、どのようなフィードバックを出せるのかを考え、それをJamboard上で公開、豊福氏や他の教員らとディスカッションするのがこのワークショップでの体験になる。
会場に集まった教員らは、それぞれが選んだコマ単位に集まり、子ども達がどのように考えるか、どんな学びを与えられるかについて真剣にディスカッションを始めていく
生徒に向き合うのと同様に真剣にディスカッションする先生たち
ディスカッションしている先生たちの輪に入り、直接アドバイスする豊福氏
JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会理事の名古屋市立大坪小学校 教諭 林 一真氏も助っ人として参加。豊福氏と共に集まった教員らにアドバイスを送る
時間の経過と共にJamboard上には先生たちの意見がまとまっていく
先生たちの意見や問いに対して答える豊福氏。今回の体験を通じてデジタル・シティズンシップ教材活用のヒントを多くの先生が得ていた
「これらの教材群は先生が一方的に与えるものというより、児童生徒との対話による問題解決のストーリーになっています。ですから、先生側も意見は持っても答えはもたない、解決の行動選択肢には必ず良い影響・良くない影響がある事を考えつつ、妥当な解を探っていくスタイルに慣れていただく必要がある。その点を理解して、私たちのSTEAMライブラリ教材でご自身の授業を組み立てる仲間を増やしたいと思います」と最後に豊福氏は語ってくれた。
これから、子どもたちはますます密接にデジタル社会と関わっていく必要がある。そのときに必要な学びは学校に限らず生涯続くがゆえに、自分の学びに駆動し続ける意思と動機づけ養わねばならない。デジタルシティズンシップはその自律の基礎を作るものともいえる。この日の豊福氏のワークショップに参加した教育者はICT教育について多くのヒントを得ることができたはずだ。この体験がより良い社会づくりに繋がることに期待せずにはいられない。今後も豊福氏および沖縄県のICT教育に注目していきたい。
URLリスト
STEAMライブラリー「GIGAスクール時代のテクノロジーとメディア~デジタル・シティズンシップから考える創造活動と学びの社会化」
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