キーワードは「小さなAI」——オーケストレーションが拓く、マーケティングAIエージェント 太田一樹 × おざけん 対談

2026-04-02

キーワードは「小さなAI」——オーケストレーションが拓く、マーケティングAIエージェント 太田一樹 × おざけん 対談
キーワードは「小さなAI」——オーケストレーションが拓く、マーケティングAIエージェント 太田一樹 × おざけん 対談

ライター:小澤健祐

「プロンプトさえ工夫すれば、AIは何でもできる」——そんな幻想が2025年に見事に崩れ落ちました。ChatGPTやCopilot、Geminiを社内に展開しても、「なんか使いこなせない」「本質的な業務には使えない」という声が後を絶ちません。その根本的な原因は、多くの場合、プロンプトの書き方ではなく、データ基盤にあります。

AIは、与えられたデータ以上のことはできません。どれだけ優秀なLLMであっても、自社の顧客情報や購買履歴、行動データにアクセスできなければ、汎用的なチャットボットにとどまってしまう。2026年、AIエージェントが本格普及する時代に問われるのは、「どのモデルを使うか」ではなく、「どのデータをどう活かすか」です。

世界30億人以上の顧客データを扱い、ガートナーのマジック・クアドラントでリーダーに選ばれた顧客データプラットフォーム企業、Treasure Data, Inc.のCEO・太田一樹氏。そして、AIの社会実装を最前線で牽引し、AICX協会代表理事としてAIエージェントの普及に取り組む小澤健祐(おざけん)氏。データとAIの「本質」を知り尽くした二人が、2026年以降のAIエージェント時代を語り合いました。

小澤
AIエージェント活用が本格化する2026年、データレイヤーの話が最重要テーマだと思っています。まず大前提としてトレジャーデータのAIエージェント戦略を教えてもらえますか?
太田
はい。最初のエージェントを発表したのが2024年10月で、今は「オーディエンスエージェント」と呼んでいます。たとえば日本HPさんがある製品の告知メールを送りたい場合、以前はSQLを書いたり、ドラッグ&ドロップを何百回も繰り返してオーディエンスを絞り込んでいたんですね。それが自然言語で話しかけるだけでできるようになった。
小澤
それだけで体験がガラッと変わりますよね。
太田
最初は欲しいオーディエンスにたどり着くまで平均16回の試行錯誤に約10分かかっていたんですが、2025年後半にはそれが4回・1分になっています。そして驚いたのが、Claudeの最上級モデルOpusのようなハイエンドモデルではなくHaikuのような高速モデルでも十分実用的になってきたこと。思考の回数が4分の1になって速度が2倍——体感では8〜10倍速くなっています。
小澤
2026年は各社の生成AIのモデルのスコア差がもう微々たるものになってきていて、「最新最強モデルを使うか」よりも「自社の事業に合ったモデルを選ぶか」の時代に変わってきている気がするんですよね。そのあたり、いかがですか?
太田
まさにそうです。我々の哲学として、LLMに大きなタスクや大量のコンテキストを渡しすぎると、AIが迷ってしまう。だからこそ、「スモールエージェント」をたくさん作っているんです。たとえば「SNS用に記事を140文字に収める」という超ピンポイントなエージェントは、1000回タスクを与えても99.99%の確率で成功する。でも汎用的すぎるタスクを与えると成功確率が下がってしまう。
小澤
よく分かります。
太田

だから「マーケティングスーパーエージェント」では、マーケティング業務に必要な個別のタスクをこなす小さなエージェントをたくさん作って、その上に「オーケストレーター」エージェントを置いています。タスクを投げると、オーケストレーターがどのエージェントをどの順番で動かすかのプランを作って実行する。さらに途中で人間がそのプランをチェックできる「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の仕組みを入れることで、達成確率を上げています。

キーワードは「小さなAI」——オーケストレーションが拓く、マーケティングAIエージェント 太田一樹 × おざけん 対談
キーワードは「小さなAI」——オーケストレーションが拓く、マーケティングAIエージェント 太田一樹 × おざけん 対談
小澤
今1分でできることが来年には5秒になるかもしれない、という感じですか。
太田
そうですね。去年10分かかっていたものが今1分になっています。これが来年5秒になったら、世界観が変わりますよね。
小澤
私はよく講演で「一神教と多神教」という話をするんですよ。アメリカ発の発想だと「最強のLLMが一つあればいい」という一神教的な考えが根強い。でも実際の業務では、小さなモデルを組み合わせる多神教的なアプローチの方が圧倒的に強い気がしていて。日本には八百万の神の概念がありますから(笑)。
太田
そうなんです。Manusが素のChatGPTより一部のベンチマークで上回っているのも、結局それですよね。強力な一つのLLMじゃなく、いろいろ組み合わせた方がタスクをこなせる。特に個別の企業に入ると、その会社だけのナレッジやノウハウがあるので、特化したエージェントを積み上げていく設計の方が合っていると思います。
小澤
ちなみにオーケストレーターにはSonnet、データ分析の反復作業にはHaikuという使い分けなんですよね?
太田
そうです。WebリサーチにはOpenAIのDeep Researchを使ったりもしています。ユーザー側からはどのモデルを使っているか意識する必要は全くなくて、話しかけるだけで最適なツールとモデルを使ってくれるシステムになっています。
小澤
とても共感します。コンテキストの引き算もできますもんね。LLMって情報を足せば足すほどいいように思われがちですが、必要な情報だけを鮮度高く、濃度高く与えた方が圧倒的に精度がいい。Geminiなら100万トークン入るからといって全部突っ込んでも、精度は上がらない。
太田
そうなんですよ。そこがまさに我々のスモールエージェントの考え方とリンクしていて——大きなコンテキストを持ついろんなことができるエージェントじゃなく、超スペシフィックなタスクに、超スペシフィックなコンテキストで確実に答えるエージェントを一個一個積み重ねていく。それが他社と違うところかもしれないです。
小澤
私がAICX協会の活動の中でよく議論のテーマになるのが「データのサイロ化」なんです。マーケ部門と営業部門でデータがバラバラ、システムがバラバラ。2025年に一番顕在化した課題だなと感じていて。太田さん、このあたりはいかがですか?
太田

まさにそう思います。生成AIには、今大きく5つの領域があると思っていて、コーディングとセキュリティは大量のパブリックデータセットがある。残りの営業・カスタマーサポート・マーケティングの3つは、どうやったとしても顧客データへのアクセスが必要なんですね。

今は生成AI市場の8〜9割がコーディングですが、必ずほかの領域にも来る。そのタイミングで必ずAIに顧客データを食わせる場面が来る。OpenAIもGoogleも持っていないのがその顧客データなので、私たちが本丸にいると思っています。

小澤
CDPを持っているからこそ、その上に作れるAIの仕組みがあるということですよね。ちなみに権限管理の話も非常に気になっていて。エージェントが自由にデータに触れるだけでは、当然うまくいかないじゃないですか。
太田
マニアックな質問が来て嬉しいです(笑)。直感的にわかりやすく言うと——社長がAIエージェントに話しかけた時と、インターンがAIエージェントに話しかけた時では、返ってくる情報の範囲が違って当然ですよね。インターンが会社のすべてのデータに全権限でアクセスできるなんてことはありえない。
小澤
まさに。
太田

そこで我々のエージェントには2つの権限があります。エージェント自身の権限と、「誰と話しているか」という話者の権限。その2つの和集合の中でエージェントが動く設計です。社長なら人事データや個人情報にアクセスしてセグメンテーションできるけど、インターンにはそれができない——当たり前のようで、意外とどこでもできていないことを実現しています。

PoCの段階でそこを無視して進めて、後から権限管理で詰まるっていうケースは結構他社で起きていますね。

小澤
あと、マーケと営業の壁という文脈で言うと、エージェントは情報共有が得意じゃないですか。人間はどうしても情報共有が苦手で、マーケが作ったリードが営業でフォローされないなんて日常茶飯事だけど。
太田
まさにそこをAIで解消できると思っていて。CDPで集めたリードをAIが24時間365日ナーチャリングして、十分に温まったタイミングで、すべてのコンテキストをサマリーした上で営業にパスする——そういうことが技術的にはできるようになってきています。THE MODELの間を埋めるのにAIエージェントは最適だと思います。
小澤
2026年に向けたトレジャーデータのロードマップとして、何か聞けそうなことがあれば教えていただけますか。
太田
今年のテーマは「全部AIネイティブにする」ということです。これまでドラッグ&ドロップでポチポチやっていたトレジャーデータの操作を、スーパーエージェント経由ですべて自然言語で操作・設定できるようにしようとしています。UIをなくすイメージですね。
小澤
それはすごい。ちなみに、最近の戦略の中で特に面白いと思ったものはありますか?
太田
「ペルソナエージェント」ですね。これが結構面白くて、顧客データをシステムプロンプトとして流すことで、そのLLMがその顧客であるかのように振る舞うエージェントを作れるんです。たとえばおざけんさんがHPのウェブサイトに登録してアクションしたデータをこのエージェントに渡すと、「バーチャルおざけん」に「このメール文面、刺さると思いますか?」とか「このクリエイティブはどうですか?」が試せる。
小澤
それ、めちゃくちゃ好きです(笑)。実は博報堂が7,000人の生活者エージェントを作って全員と会話できる取り組みをやっていて、似た発想だなと思いながら聞いていました。
太田
我々の場合は30億人——80億人分作りましょうという発想です(笑)。
小澤
それ最高すぎますね(笑)。「ワン・トゥ・ワンマーケティング」って業界で言われ続けてきたけど、今まで本当の意味でできていなかった。100万人のデータがあっても、当てるコンテンツはせいぜい30〜40セグメントで、実態は「1対N」だった。
太田
まさにそこが変わります。クリエイティブ制作が追いつかなかった問題が、生成AIで解決できる。本当の1対1が技術的には実現できる段階になっています。
小澤
マーケターの働き方も、ここから大きく変わっていくと思いますか?
太田
エンジニアに起きていることが全業種に来ると思っていて。私の共同創業者は以前、画面を15分割してコードを書いていたんですが、今は15のエージェントを並列で動かして、自分はそのレビューをしています。マーケターも同じで、AIが延々とキャンペーン案やジャーニーをサジェストしてくれるので、それをブランドの方針に合わせてレビュー・修正しながら、今までの10倍のキャンペーンを回す——そういう働き方になっていくと思います。
小澤
となると、SNS運用だけ・広告運用だけという「単発スキル」のマーケターは厳しくなる。全体のジャーニーを俯瞰してオーケストレーションできるメタスキルが必要になりますね。
太田
確実にそうです。単発しかできない人間も、単発しかできないSaaSも、どちらも難しくなっていく。実際、マーケティングテクノロジーだけで今世界に1万5千社あるんですが、お客様が持っているSaaSの数はここ3年で減っているんですよ。お客様からは「トレジャーデータは顧客データ持ってるんだから、マーケティングオートメーションもやって」という話が自然に来ました。データレイヤーを押さえているからこそ、どこへでも広げられるんです。

今回の対談を通じて見えてきたのは、「AIをうまく使えない」という悩みの多くは、モデルの問題でも、プロンプトの問題でもなく、データ基盤の問題だということでした。そして、そのデータを正しく整備し、小さなエージェントをオーケストレーションしながら組み合わせる設計思想こそが、2026年以降のAIエージェント活用の核心にあります。

太田氏が示したトレジャーデータのアプローチ——「スモールエージェントを束ねるオーケストレーション」「ロールに基づく権限管理」「ペルソナエージェントによる真の1対1マーケティング」——は、すべてデータ基盤という強固な土台の上に成り立っています。マーケターに求められるのは、個別ツールの単発スキルではなく、AIたちを指揮・調整するオーケストレーション思考。

最後に、おざけん氏はこう語りました。「日本では上司や会社から与えられた枠の中で仕事をする方が多い。でも、AIエージェントのオーケストレーションという作業は、まさに自分で枠を作りに行くことに近い。枠から染み出せる人材でないと、これからの時代は生き残れない」。

10分かかっていた作業が1分になり、来年には5秒になる——そのスピードで変わっていく世界で、あなたはどんな「枠」を描けるのでしょうか。AIという最強の実行部隊を指揮するオーケストレーターとして、自分の業務を再設計することが、2026年以降を生き抜くビジネスパーソンの第一歩となるでしょう。

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