国内の生成AI組織改革事例特集

2025-10-09

国内の生成AI組織改革事例特集
国内の生成AI組織改革事例特集

生成AIの業務利用は、今や半数近くの企業に広がっています。しかしその一方で、「導入したものの、期待したほどの効果を実感できない」という声も多く聞かれます。

生成AIは、単にツールを導入するだけでは、その真価を発揮しません。成功の鍵は、組織全体の変革にあります。

本特集では、生成AIを活用し、実際に成果を出した国内企業12社の具体策を、「導入目的 → 取り組み → 定量成果」の順に詳しく解説します。さらに、成功企業に共通する要因、陥りがちな落とし穴、そして実践的なロードマップまで考えていきます。

ライター:國末拓実
編集:小澤健祐

まずは、国内における生成AI導入の現状と、多くの企業が直面している課題について見ていきましょう。

導入率45.7%、中小企業は16%にとどまる規模格差

導入率45.7%、中小企業は16%にとどまる規模格差
導入率45.7%、中小企業は16%にとどまる規模格差

生成AIの導入率は、企業規模によって大きな差が見られます。大企業では導入が進む一方、楽天の調査では中小企業では16%にとどまっており、規模による格差が顕著になっています。

出典:日本企業のDX推進状況調査結果【2025年度詳細版】を公表

主流は要約・翻訳 / 戦略的活用が不足

現在の生成AIの主な活用方法は、文章の要約や翻訳など、日常的な業務の効率化が中心です。しかし、本来生成AIが持つ、新たな価値を創造するような戦略的な活用は、まだ十分に進んでいません。

「PoC疲れ」を招く三つの要因

多くの企業が、PoC(概念実証)を繰り返すものの、本格導入に至らない「PoC疲れ」に陥っています。その背景には、以下の3つの要因が考えられます。

  1. 目的がコスト削減に偏重: 生成AIの導入目的が、コスト削減のみに偏っているため、短期的な成果が見えにくい。
  2. スキル・人材不足: AIを使いこなせる人材が不足しており、導入後の活用が進まない。
  3. リスク回避文化: 失敗を恐れるあまり、新しい技術の導入に慎重になり、試行錯誤が進まない。

これらの課題を克服し、生成AIを真のビジネス変革に繋げるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。次章では、成功企業の事例から、そのヒントを探ります。

生成AIの導入に成功している企業は、それぞれ異なるアプローチで、自社の課題を解決しています。ここでは、成功事例を4つのアーキタイプに分類し、各社の取り組みを詳しく見ていきましょう。

知識のスケール化

  • パナソニックコネクト
    パナソニックコネクト
    パナソニックコネクト

    導入目的: 属人的ノウハウを全社共有
    取り組み: 全社員9万人向けに、社内版ChatGPT「PX-GPT」を開発。社内文書や過去の事例などの独自データ基盤と連携させ、社員がいつでも必要な情報にアクセスできるようにしました。
    成果: 年間18.6万時間の労働時間削減を実現。
    参考: パナソニックコネクト PX-GPT(労働時間 18.6 万時間削減) (Panasonic Newsroom Global)

  • KDDI
    KDDI
    KDDI

    導入目的: 業務スピード向上とナレッジ民主化
    取り組み: 1万人の社員が利用できる社内版ChatGPT「KDDI AI-Chat」を導入。さらに、全社員を対象としたプロンプト研修を必修化し、AIリテラシーの向上を図りました。
    成果: 従来1日がかりだったプログラミング作業が数時間で完了するなど、業務効率が大幅に向上。月間利用率は70%を超え、AI活用が社内に浸透しています。
    参考: KDDI 社内版 ChatGPT「KDDI AI-Chat」+プロンプト研修 (KDDI ビジネス)

  • ベネッセホールディングス
    ベネッセホールディングス
    ベネッセホールディングス

    導入目的: 教育サービスと内部業務の効率化
    取り組み: 社員1.5万人向けに、社内AIチャット「Benesse GPT」を提供。さらに、顧客向けには、自由研究のテーマ探しをサポートする「自由研究おたすけAI」を開発しました。
    成果: 社内からの問い合わせに対する回答時間が60%削減。新サービス「自由研究おたすけAI」は、売上にも貢献しています。
    参考: 社内AIチャット「Benesse GPT」をグループ社員1.5万人に向けに提供開始 (株式会社ベネッセホールディングス)

ガバナンス主導

  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
    三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
    三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)

    導入目的: 信頼性を守りつつ行員生産性を向上
    取り組み: 全行員を対象としたe-learningを義務化し、AI利用に関するリテラシー向上を図りました。また、専用のセキュアな環境で、3万人の行員が生成AIを利用できるようにしました。
    成果: 月間22万時間の労働時間削減を見込んでいます。
    参考: 金融機関における生成AIの活用とその課題 (NTT DATA)

  • 三井住友FG(SMBC)
    三井住友FG(SMBC)
    三井住友FG(SMBC)

    導入目的: 顧客情報を守ったまま全社活用
    取り組み: 隔離された専用環境で動作するAIアシスタント「SMBC-GAI」を開発。Microsoftと戦略的パートナーシップを締結し、セキュリティを担保しています。
    成果: 情報漏洩ゼロを維持しつつ、「2秒に1回」使われるように。
    参考: SMBCグループが独自に生み出したAIアシスタント「SMBC-GAI」開発秘話

  • 大和証券
    大和証券
    大和証券

    導入目的: 資料作成外注コスト削減・顧客対応時間の拡大
    取り組み: 全社員9,000名に生成AIの利用を公式に許可。「Azure OpenAI Service」を利用し、情報が外部に漏れないセキュアな環境により、全ての業務に利用可能に。
    成果: 英語等での情報収集のサポートや、資料作成の外部委託にかかる時間の短縮や費用の軽減。
    参考: 大和証券における全社員の ChatGPT 利用開始について(大和証券)

CoE(Center of Excellence)価値展開

  • 日立製作所
    日立製作所
    日立製作所

    導入目的: 社内効率化と外販ビジネス拡大
    取り組み: 生成AIの活用を全社的に推進する専門組織「Generative AIセンター」を設立。社内で生まれた1,000件以上のユースケースを横展開し、知見を蓄積。
    成果: プロンプトなどの活用術を、「教えて! あなたの生成AI活用術」として一部社外にも公開し、社内外で生成AIの活用促進に貢献。
    参考: 「Generative AIセンター」の立ち上げから1年、日立幹部が語る現在(ZDNET)

  • 西松建設
    西松建設
    西松建設

    導入目的: 建設業界の物価変動を先読み
    取り組み: 経済特化生成AI『xenoBrain』を導入し、見積もり時のリスクを加味した価格設定を行い、価格動向を考慮して早期発注を行うなど、AIを活用したコスト管理を実践。
    成果: 見積もり算出の精度が向上し、追加費用リスクを最小限に抑えることに貢献。
    参考: 建設業界の物価変動を経済予測AIで先読み(XENO BRAIN)

コア人材最大化

  • LINEヤフー
    コア人材最大化
    コア人材最大化

    導入目的: 開発速度を競争優位に直結
    取り組み: 7,000名のエンジニアに、AIペアプログラマー「GitHub Copilot」を展開。コーディング作業をAIがサポートする環境を整備。
    成果: コーディングの生産性が10~30%向上。エンジニア一人あたり1日1~2時間の時間短縮を実現。
    参考: LINEヤフーの全エンジニア約7,000名を対象にAIペアプログラマー「GitHub Copilot for Business」の導入を開始(LINEヤフー)

  • サイバーエージェント
    サイバーエージェント
    サイバーエージェント

    導入目的: 広告運用・クリエイティブ制作の効率と効果向上
    取り組み: 「ChatGPTオペレーション変革室」を設立し、独自のAIアシスタント「シーエーアシスタント」を開発。広告運用における様々な作業を自動化。
    目標: 月間で広告オペレーションにかかっている総時間約23万時間のうち30%にあたる約7万時間の削減。
    参考: ChatGPTで広告運用の実行スピードを大幅短縮する「ChatGPTオペレーション変革室」を設立 ~ 「ChatGPT」を適切かつセキュアに活用することでオペレーション総時間の30%を削減へ ~(Cyber Agent)

前線業務再発明

  • ファミリーマート
    ファミリーマート
    ファミリーマート

    導入目的: 発注精度向上と店舗業務効率化
    取り組み: 需要予測を行う「AIレコメンド発注」システムを導入。AIが最適な発注数を推奨し、店舗の発注業務をサポート。また、店舗業務を支援するAIアシスタントの開発も進行。
    成果: 発注業務にかかる時間を1週間あたり6時間削減する見込み。
    参考: AIを活用した新たな発注システムを導入~店舗の業務効率化と販売機会の最大化を実現~(FamilyMart)

  • 旭鉄工
    旭鉄工
    旭鉄工

    導入目的: 現場改善ノウハウ共有と新規事業化
    取り組み: ChatGPTをベースにした、現場改善ノウハウ共有システム「カイゼンGAI」を構築。自社のDX成果をサービス化し、外販も展開。
    成果: コスト低減から付加価値向上の改善提案まで活性化し、企業競争力が向上。
    参考: 製造業での活用 ~カイゼンノウハウは生成AIに聞け!~(経済産業省)

成功企業の事例から、生成AI導入を成功に導くための4つの共通点が浮かび上がってきます。

  1. トップの強いビジョン: MUFGでは、取締役会が先行してリスクポリシーを策定するなど、経営層がAI導入に強いコミットメントを示しています。
  2. CoE設置と横串連携: 日立製作所の「Generative AIセンター」のように、全社的なAI活用を推進する専門組織を設置し、各部門と連携することが重要です。
  3. 独自データ基盤 × RAG: パナソニックコネクトの「PX-GPT」のように、社内文書などの独自データを活用し、AIの回答精度を高めることが成功の鍵となります。
  4. 人間中心の変革マネジメント: KDDIのプロンプト研修やアンバサダー制度のように、社員がAIを使いこなせるように、教育やサポート体制を整えることが不可欠です。

生成AI導入には、陥りがちな落とし穴も存在します。ここでは、よくある4つの落とし穴と、その回避策を紹介します。

落とし穴 症状 回避策
PoC疲れ 概念実証(PoC)を繰り返し、本格導入に至らない KPIに顧客価値や新たな収益目標を追加し、6ヶ月以内に本番実装を目指すなど、具体的な目標と期限を設定する。
スキル不足 ツールを導入したものの、利用率が伸びない 伴走型研修やアンバサダー制度のように、社員がAIを使いこなせるように、教育やサポート体制を整える。
文化的慣性 失敗を恐れるあまり、試行錯誤が進まない 生成AIユースケース共有会のような、"安全な失敗"を許容し、社員が自由に試行錯誤できる文化を醸成する。
リスク軽視 機密データを外部のAIに入力してしまう事故が発生 MicrosoftやGoogleの提供する専用環境を活用するなど、セキュリティ対策を徹底し、社員のリスク意識を高める。

生成AIの導入は、一度に全てを行うのではなく、段階的に進めることが成功の鍵です。

※下記はあくまで目安であり、業種や従業員規模によってロードマップは異なります。

  • フェーズ1 基盤整備(0~3ヶ月)
    取り組み: 社内版チャットAI(ChatGPTなど)をパイロット展開し、利用ガイドラインなどのガバナンスを策定する。
    KPI例: 利用率30%超、ガイドライン遵守率100%
  • フェーズ2 標的導入(4~9ヶ月)
    取り組み: ROI(投資対効果)が高い業務でPoCを実施し、小規模な本番導入を開始する。社員向けのリスキリングも開始する。
    KPI例: 業務時間削減率20%以上、本番移行率50%
  • フェーズ3 スケール化(10ヶ月~1年半)
    取り組み: AIの活用を前提とした業務プロセスの再設計を行う。CoEが成功事例を横展開し、全社的な活用を推進する。
    KPI例: 全社AI活用率70%、収益貢献額の可視化
  • フェーズ4 自律型企業(2年目以降)
    取り組み: AIエージェントが業務を自律的に実行し、人間は監督や創造的な業務に集中する。
    KPI例: 自律タスク比率50%、人員再配置率20%

本特集では、国内企業12社の生成AI活用事例を通じて、組織改革を成功に導くための具体的なアプローチと、その先にある未来像を提示しました。

生成AIで“効果の壁”を越える鍵は、単なるツール導入に留まらず、「ビジョン・組織・データ・人材」を同時に動かす、全社的な変革にあります。パナソニックコネクトのように独自データをAIの力に変えること、KDDIのように全社員のAIリテラシーを底上げすること、そしてMUFGのように経営層がリスクと向き合い、強いビジョンを示すこと。これらの取り組みは、業界は違えど、すべての企業にとって重要な示唆を与えてくれます。

もちろん、PoC疲れやスキル不足、リスクへの懸念といった「落とし穴」も存在します。しかし、成功企業はこれらの課題から目をそらすのではなく、ガバナンス体制の構築や、伴走型の研修、そして“安全な失敗”を許容する文化の醸成によって、着実に乗り越えています。

生成AIは、もはや「導入するか否か」を議論する段階ではありません。「いかに深く、賢く活用し、自社の競争力に変えていくか」が問われる時代と言えるでしょう。

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