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2022.11.04

カーボンニュートラルにおけるスコープとサプライチェーン排出量の計算方法とは

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気候変動問題をはじめとする環境問題が深刻化し、国家や企業レベルにおいて、カーボンニュートラルの必要性が叫ばれています。カーボンニュートラルを実践するには「サプライチェーン排出量」を可視化するなど、これまでになかった企業を超えた取り組みが必要です。そこで重要になるのが「スコープ」という概念です。スコープの具体例やサプライチェーン排出量の計算方法について解説します。

1.カーボンニュートラルの潮流

今やカーボンニュートラルへの対応は企業にとっても必須となりました。企業や国家にカーボンニュートラルについての対策が求められる背景にはどのようなものがあるのでしょうか。

① カーボンニュートラルとは何か

カーボンニュートラルとは、地球における植物や森林をはじめとする自然環境が吸収する温室効果ガスの量と、排出する量の差し引きを実質ゼロにするという概念です。日本をはじめとする世界各国は、2050年のカーボンニュートラル達成と、2030年の中間目標達成に向けて取り組んでいます。

② 企業にカーボンニュートラルへの対応が求められる背景

企業にカーボンニュートラルへの対応が求められるのには、様々な背景があります。COP21(気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定、またその後にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した「1.5°C特別報告書」を受けて、気温上昇について1.5度未満を目指すことが定着しました。

また、企業の財務指標のみならずサステナビリティの取り組みを評価するESG投資の拡大、ステークホルダーの意識の変化などにより、ますますカーボンニュートラルへの関心が高まっています。

日本は2030年に排出する温室効果ガスについて2013年度比で46%削減、2050年にカーボンニュートラルの実現を宣言しています。直近の2025年は地球温暖化対策の分水嶺ともいわれ、各産業に対しカーボンニュートラルへの取り組みが求められています。

カーボンニュートラルへ取り組む際に重要となるのがサプライチェーン排出量、なかでもスコープ3の排出量の把握と削減です。

関連リンク:カーボンニュートラルの実践方法とは? 欧米や日本の現状まで一気に解説

2. サプライチェーン排出量とは

サプライチェーン排出量は、製品やサービスの製造供給過程において発生する温室効果ガス排出の総量のことを指しています。

自社のみでなく、取引先や顧客をも含めたサプライチェーン(供給側のみならず、顧客の製品、サービス使用時、使用後までを含めた場合、バリューチェーンなど別の呼称で呼ぶことも多い)、全体の温室効果ガス排出量を把握することで、企業活動全体を見直し削減のための具体的な手立てを検討しやすくなります。またその情報はリスク評価の一環として、機関投資家なども参考にしています。

参考・出典:サプライチェーン排出量算定の考え方│環境省

① GHGプロトコルイニシアチブが策定

GHGは、Green House Gas(温室効果ガス)の略です。GHGプロトコルイニシアチブは、世界資源研究所と持続可能な開発のための世界経済人会議が協力して発足、運営している組織です。サプライチェーン排出量はGHGプロトコルによりその概念や計算方法等が「Scope3基準」として定義され、温室効果ガス排出量算定のため企業や団体などに活用されています。

② スコープで分類される

サプライチェーン排出量は、スコープと呼ばれる分類で以下のように整理されています。

(1)スコープ1(Scope1)

スコープ1は、事業者自らによる燃料の使用や、製品の生産などにおける温室効果ガスの直接的な排出を指します。

(2)スコープ2(Scope2)

スコープ2は、自社による消費であるものの、他社から供給されたエネルギー使用に伴う間接排出です。

(3)スコープ3(Scope3)

スコープ3は、自社の事業活動に関わる取引先など他社(他者)による温室効果ガス排出です。具体的には原材料調達におけるCO2排出量や、商品の使用、消費、廃棄などに関連する排出量などです。スコープ3は、製造までと供給後から回収、破棄までに大きくわかれ、さらに上流と下流にわけられます。

サプライチェーン排出量の算出では、この自社以外のステークホルダーにおける排出量の算出が重要な意味を持ちます。スコープ3まで広げることで、事業活動を俯瞰的に見ることができ、また取引先の連携によってより多くのCO2削減効果が期待できるからです。

「サプライチェーン」は製造・販売・供給までを指す概念であり、その後も含めたものは前述のとおりバリューチェーンと言われることも多く、スコープ3はその全体を指しています。

3.スコープ3の「15カテゴリ」とは

スコープ3は15のカテゴリに分けられ、それは大きく上流と下流にわけて考えられます。この場合の上流・下流とは、モノの流れではなく、お金の流れにフォーカスして捉えられます。つまり、自社が購入するか販売するかの違いです。

上流
(カテゴリ1~8)
原料調達から製品の製造、サービス提供まで。購買や、サービスを受けた場合に上流に区分される。
下流
(カテゴリ9~15)
製品提供から使用、廃棄まで。製品やサービスを販売した場合に下流に区分される。

① 他社からのインプット(上流)

上流に分類されるカテゴリは以下です。

カテゴリ1
購入した製品・サービス
製品・サービスの生産に必要な原材料や消耗品の調達や、パッケージングの業務委託など。
カテゴリ2
資本財
製品・サービスの生産に必要な生産設備の増設や、製品の在庫など。
カテゴリ3
エネルギー関連活動
事業活動のために調達している燃料、または電力の上流工程が該当。
カテゴリ4
輸送、配送
自社が荷主である貨物の調達物流や出荷輸送。
カテゴリ5
事業活動から出る廃棄物
事業活動から出る廃棄物など。外注業者への廃棄物処理委託量から排出量が算定できる。
カテゴリ6
従業員の出張
業務に関連する従業員の出張。移動距離や手段から排出量が求められる。
カテゴリ7
従業員の通勤
従業員の通勤が該当。出張と同様、距離や手段によって排出量を算定する。
カテゴリ8
自社が賃借しているリース資産の稼働
既にスコープ1、2 に計上済みであることがほとんどのため、該当の項目がないことが多い。

② 事業活動によるアウトプット(下流)

下流に分類されるカテゴリは以下です。

カテゴリ9
出荷輸送(自社が荷主となる輸送以降)
貨物の倉庫における保管、小売店での販売のための輸送を含む。出荷先の住所からシナリオを設定し算定する。
カテゴリ10
事業者による中間製品の加工
事業者による中間製品の加工が該当する。製品における加工シナリオを設定し、それをもとに排出量を算定する。
カテゴリ11
使用者による製品の使用
使用者による製品の使用が該当する。実測値もしくは使用シナリオを設定して算定する。
カテゴリ12
使用者による製品の廃棄処理
実測値もしくはシナリオを設定して算定するか、容器リサイクル法の報告値を利用する。
カテゴリ13
他者に賃貸しているリース資産の稼働
自社が所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働が該当する。リース資産についての実測値もしくは使用シナリオを設定して排出量を算定する。具体的には、IT機器や大型設備などが考えられる。
カテゴリ14
フランチャイズにおける加盟者のスコープ1、2 の排出量
自社が主宰するフランチャイズの加盟者のスコープ1、2 に該当する活動を算定する。
カテゴリ15
投資
株式・債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用が該当する。投資先のスコープ1,2排出量における投資持ち分比率を算出する。
その他
従業員や消費者の日常生活
従業員や消費者の日常生活に関わる項目。サンプル世帯の環境家計簿からの排出量から推計して算出する。

4. スコープ3の算定方法

スコープ3における具体的な算定方法を解説していきます。

① サプライチェーン排出量の計算方法

サプライチェーン排出量の計算方法はスコープ1、スコープ2、スコープ3の合算です。これらは基本的に「活動量×排出原単位」といった考え方に基づいて算出されます。

活動量とは、事業活動で生じた消費電力量や、輸送した物の量、処理した廃棄物の量など事業者が行った活動の規模(活動量)を数字化したものです。これらは、社内のデータや業界平均、製品の仕様書などから割り出せます。

② スコープ3の基本式

上述した通り、排出量算定の基本式は、活動量×排出原単位です。スコープ3は15のカテゴリに分かれていることから、スコープ3の算定をする際はこれらのカテゴリごとに計算してから合算していきます。

「排出原単位」は、活動量あたりにおける温室効果ガス排出量を指します。具体的には電気1kWh当たりの排出量や輸送量1トンあたりの排出量などが該当します。

排出原単位は定義が決められています。基本的には既存の定義から選択しますが、取引先から排出量情報の提供を受ける場合もあります。基本式に入れるべき活動量と排出原単位は、経済産業省と環境省が公開しているグリーン・バリューチェーンプラットフォームで確認できます。

参考・出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム│環境省

5. 企業のサプライチェーン排出量の開示例

企業のサプライチェーン排出量における目標、取り組みなどを各社のサステナビリティレポートなどを基にご紹介します。

① HP

HPでは、2040年までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量ネットゼロの達成を目標としています。2030年末までに温室効果ガス排出量の50%削減を計画しており、すでに使い捨てプラスチック梱包材を2018年比で44%削減しました。

HPの2021年におけるカーボンフットプリントは28,459,500トンで、2019年より9%減少しています。また2021年までに、HPとパートナーサプライヤーによって、2010年以来146万トンの温室効果ガス排出が回避され、累積9億9,200万kWh の電力が節約されました。

サプライチェーンの脱炭素化を目指し、サプライヤーの炭素排出量削減、再生可能電力の利用、製品の運搬における地上輸送や、代替燃料および電気自動車の導入などの推進・支援を行っています。

② ホンダ

ホンダは、環境問題に対して「Triple Action to ZERO」というコンセプトを掲げています。中核は、「カーボンニュートラル」「クリーンエネルギー」「リソースサーキュレーション」の3つ。2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロの達成を目指しており、その過程で2011年より継続して、バリューチェーン全体での GHG 排出量の算定と開示を行っています。

ホンダは、もっとも早期にスコープ 3を含むバリューチェーンでの算出を始めた企業の1つといえます。モビリティ業界では世界初であったとされています。

直近の具体的な排出量データについては、Honda Sustainability Report 2022において公表しており、2018年から2021年にかけて、Hondaにおける総排出量は減少傾向です。

参考・出典:Honda Sustainability Report 2022│Honda

③ ソフトバンク

ソフトバンクでは、「2030年度以降の温室効果ガス排出をゼロにする」カーボンニュートラル目標を設定しており、具体的には基地局にて使用する電力の削減について取り組みを進めています。

すでに2021年にはクリーンエネルギー比率50%の目標を達成しており、2022年には70%を目指しています

サステナビリティレポートでは、スコープ3も含むTCFD提言にもとづく情報開示が詳細にされています。テクノロジーや事業を通じた気候変動への貢献は、環境省をはじめとする外部機関からも評価されています。

参考・出典:サステナビリティレポート2022│ソフトバンク

6. まとめ

消費者や投資家における環境評価への関心が高まっていることから、企業におけるカーボンニュートラルの取り組みがますます重要になります。日本だけでなくグローバルに展開している企業ほどサプライチェーン排出量も多く、サプライチェーン全体を巻き込んだカーボンニュートラルの取り組みが求められています。

カーボンニュートラルを実践するにあたってはそれを可視化し具体的な改善を積み重ねていく必要があり、そのためにスコープを理解することは欠かせません。とりわけスコープ3では、自社以外の活動から生まれる排出量がその対象になることから、カーボンニュートラルは企業を超えた幅広い協業でしか達成されないものなのです。

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