2024.11.26
EDIX関西・日本HPブース講演レポート
GIGA第2期に見直すべきポイントは?
GIGA第2期に入った今、学校現場では個別最適な学びや協働的な学び、自由進度学習や探究学習など、従来の一斉授業を変えていく「新しい学び」への取り組みが一層重要視されている。
こうした学びの変革を進めるために、教員や自治体関係者が押さえるべきポイントは何か。「EDIX関西」における株式会社 日本HPのブースでは、「GIGAスクール構想第2期において求められる学びと端末の条件」と題し、鹿児島市教育委員会 教育DX担当部長 木田 博氏が登壇した。教育のデジタル化から教育DXへ、GIGA第2期に求められる新しい学びのポイントを整理する。
※本記事は2024年11月20日公開 インプレス こどもとIT 掲載記事を転載したものです。
https://edu.watch.impress.co.jp/docs/topic/special/1633474.html
木田氏は、鹿児島市教育委員会の教育DX担当部長として、全ての課に渡るDXを総合的な視点で推進している。また、文部科学省の学校DX戦略アドバイザーなど複数の役を担い、GIGAスクール構想の第1期から第2期へ向けての流れにも詳しい。
鹿児島市教育委員会 教育DX担当部長 木田 博氏
木田氏は、GIGA第2期では各自治体が国の補助金を得るために、「端末整備・更新」「ネットワーク整備」「校務DX」「1人1台端末の利活用」という4つの事業計画を立てて公表する必要があることを説明した。
その4つの中で特徴的なのが、「1人1台端末の利活用に係る計画」だ。コロナ禍の混乱期にスタートしたGIGA第1期では、学びを止めないために端末整備が優先された。一方でGIGA第2期では、ただ単に端末を入れ替えるのではなく、充実させたICT環境によって「どのような学びを実現するのか」という計画を作成することが求められているのだ。
クリックして拡大表示
GIGA第2期で作成すべき4つの整備事業計画(木田氏のスライドより)
木田氏は、現在のICT活用の状況を、「現在、どこの学校に行っても普通にタブレットは使えるようになってきましたが、使い方を見ると、デジタル一斉授業になっているところが多い」と指摘する。教員がタブレットを使うシーンや用途を指示する一斉授業が多く、このスタイルを変えていかないと個別最適な学びは実現できない。
現状、多くの学校のICT活用は、紙やアナログの手段をデジタル化する「デジタイゼーション(Digitization)」や、意見共有や共同編集など学習モデルをデジタル化する「デジタライゼーション(Digitalization)」の段階で留まっている状況だと木田氏は指摘する。
しかし、GIGA第2期における重要なポイントは、さらにその上の段階にある「DX(デジタルトランスフォーメーション)」をめざすこと。次の段階では、新しい価値に基づいて学習プロセス自体を変革することが求められている。
クリックして拡大表示
教育DXに至る3つの段階。既存の手段やプロセスをデジタルに置き換えるだけでなく、学習モデル自体の変革が必要(木田氏のスライドより)
では、DXの段階でめざす具体的な学習プロセスとはどのようなものか。木田氏は、「デジタル一斉授業から抜け出し、子供たちが自らの課題や状況、特性に応じて、ツールや学習方略、進度の選択をし、自己評価できる“学習者中心の学び”にしていくことが大事です」と説明した。
クリックして拡大表示
デジタル一斉授業から、学習者中心の学びに転換する必要がある(木田氏のスライドより)
さらに、「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」でも、日本の子供たちはツールを使うスキルはあっても、自分で学習を進める自信が極めて低いという結果も出ており、子供たちが自律的に学べる授業に取り組んでいく必要性が共有された。
クリックして拡大表示
「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」の結果より「自律学習と自己効力感」の日本の数値(木田氏のスライドより)
教育DXの段階で求められる新しい学びの価値を実現するために、鹿児島市で取り組んでいるのが自由進度学習だ。算数・数学や社会など一部の教科で「単元内自由進度学習」に挑戦している。
例えば、小学校の算数や中学校の数学では、各自が毎時間、自分でどこの項目まで学習するのか見通しを立てたうえで、授業時間に学習を進め、自ら振り返ることを繰り返していく。学習手段は動画やワークシート、確認テストなど複数用意しておいて子供たちが自分で選ぶ。学習する場所や、友達と協働するか一人で取り組むかなども各自の選択次第だ。
クリックして拡大表示
小学校算数のめあてと振り返りのワークシート例(木田氏のスライドより)
なお、自由進度学習を取り入れている教科においても、全ての時間を自由進度で行うわけではなく、適宜、一斉授業を組み合わせて行っているという。自由進度学習の際は、子供たちのめあてや振り返り、学習の進捗などをデジタルツールで共有、教員は随時把握し、サポートが必要な児童生徒には声をかけてフォローしていく。単なる「自習」になってしまわないように、十分な準備をして行っているということだ。
子供たちの学ぶ意識も変化していて、自由進度学習の時間に自ら解説動画を制作した生徒もいる。動画を作った理由は、他の人にわかりやすく説明することを、自身の学習目標にしたからだという。「これまでのように先生が一様に同じ目標を定めて学習していたら出てこなかった姿です」と、木田氏は説明する。
また、子供たち自身も自由進度学習について前向きに受け止めている。「授業を自分から進んで、楽しみながら受けられるようになり、授業が退屈ではなく、楽しみな時間に変わりました」という感想や、「分からないところをそのままにしないで、理解してから次に進めるのが良い。分からないところは気軽に友達に質問できるからうれしい」という感想が実際にあがっているということだ。
鹿児島市でもまだ一部の学校での取り組みではあるが、このような新しい学びのスタイルに取り組んでいる例は、教育DXの可能性を感じさせてくれる。他の自治体が参考にできる点も多いだろう。
EDIX関西、日本HPのブースで開催された木田氏の講演
続いて木田氏は、GIGA第1期の経験をふまえ、第2期における端末の選択ポイントをまとめた。
まずは、落下などの故障対応が多いので堅牢性が重要だ。それに加えて十分なバッテリー駆動時間があることと、バッテリーが経年劣化しづらいことが大事なポイントだと強調した。さらに、第2期で必須となったタッチペンの性能にも注目しているという。「今後、CBTがどんどん進んでいくことを考えると、テスト中もストレスなく書けるペンが必要です」と木田氏。
また、ネットワーク整備も第2期の整備の重要事項だ。文部科学省の調査によると、2023年時点で全国の学校の約80%が必要なネットワーク速度をまだ確保できていないことが明らかになっている。木田氏によると、多くの自治体が1Gbpsのベストエフォート型で回線の契約をしていて、児童生徒数が多いほど必要な速度が確保できない状況に陥っているという。
こうした現状を解決するネットワーク契約の見直しパターンとして、木田氏は「帯域確保型への変更」「複数の1Gbps回線の敷設」「10Gbps回線への変更」「LTE端末もしくはeSIM端末の整備」という4つの対応策を示した。
クリックして拡大表示
ネットワーク改善のための4つの対応案(木田氏のスライドより)
地域の特性や学校規模によっては、Wi-Fiを整備する代わりに、LTE接続を選択するという方法もある。木田氏は、LTEの場合、学校内のどこでも、校外学習でも、家庭に持ち帰っても変わらずネット接続できるメリットが大きいことを説明した。
なお、HPではGIGA第2期の応用パッケージとして、ChromebookとWindowsともに、5年間容量無制限で使用できるeSIM内蔵のLTE対応モデルをそろえている。学校の統廃合を控えている自治体や自然災害の対策という側面から問い合わせが増えているようだ。またHPのGIGA対応モデルは、堅牢性とバッテリー駆動時間、消しゴム機能付きのタッチペンなど、高性能なスペックになっており関係者の関心も集めている。
めざす学びを考えるのが最優先だと木田氏
講演後に改めて、ICTと学びの関係性について聞いてみると、木田氏は次の通り語った。
「自由進度的な学習の考え方や実践は過去にもありましたが、なぜ根付かなかったかといえば、その方略がアナログしかなかったからなんですね。その点、タブレットの中には動画も解説文も入っていて、わからなくても何かしら自分で調べて問題解決に至ることができます。方略が広がり、自由進度学習を実現しやすくなったと言えるでしょう。ICTは、個別最適な学びのための最強のツールです」。
だからこそ、子供たちの学びを支えるツール選びは重要だ。木田氏はGIGA第2期の端末の選択について、「どのような学びを実現するのかを最優先に考えたうえで、そのためにはどのような機能が必要なのかと逆算して考えると、端末に必要な条件が見えるのではないかと思います。コストや管理方法だけで考えると見誤る可能性があります」と、大切な視点を投げかけた。
GIGA第2期においては、教師主導ではなく、子供たちが自律的に端末を活用する段階へと移行し、学びはさらに個別化・多様化していくだろう。自ら考え、試行錯誤しながら問題解決に取り組む子供がどのように成長していくのか、その成果が今後どのように表れるのか、期待が高まる。
※このコンテンツには日本HPの公式見解を示さないものが一部含まれます。また、日本HPのサポート範囲に含まれない内容や、日本HPが推奨する使い方ではないケースが含まれている可能性があります。また、コンテンツ中の固有名詞は、一般に各社の商標または登録商標ですが、必ずしも「™」や「®」といった商標表示が付記されていません