2021.06.11

デジタル印刷ビジネスをスケールさせるHP PrintOSX、その実力に迫る

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 「DX」というワードがコロナ禍で大きく取り上げられ、バズワードとなっている。様々な業界で生き残りをかけた変革が求められており、テクノロジーの利活用を前提とした改革に取り組む企業が増えている。

 印刷業界でも、業界をあげてDXによる企業変革を促している。国や地方自治体が提供する公的補助金もあり、印刷業務や企業そのものをトランスフォームするチャンスは、まさに今だ。

 デジタル印刷に関していえば、関連する業務を自動化・省力化することは、デジタル印刷ビジネスのスケールに直結する。そして、それを実現するテクノロジーが、HPが提供する産業印刷用のオペレーティングシステム「HP PrintOSX」である。

 今回はこのHP PrintOSX について、前回の記事から引き続き、日本HPデジタルプレス事業本部 ビジネス開発部 部長の田口兼多氏とマネージャーの仲田周平氏に話を聞いた。

HP デジタル印刷機
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デジタル印刷ビジネスを成功に導くテクノロジー
「HP PrintOSX

―― はじめに、HP PrintOSX について教えてください。

田口 HP PrintOSX は、一言で表すなら、HPが提供するデジタル印刷機のオペレーションを一気通貫で管理できるクラウドベースの「オペレーティングシステム」です。

 「OS」という名が示すとおり、iPhoneのiOSやAndroidのプラットフォーム上でアプリケーションが動くのと同様に、HP PrintOSX 上でさまざまなアプリケーションが動作します。プラットフォームはクラウドベースで提供されており、その利用にはまず、ブラウザを介してクラウド環境にアクセスすることが必要になります。

 HPデジタル印刷機導入企業は無料でアクセスでき、多くのアプリケーションは無料で利用できます。有料のアプリケーションであっても、サブスクリプション型として初期投資費用なく、極めて少ないリスクで様々なチャレンジができるのが魅力です。最近では、弊社のデジタル印刷機を導入する理由として、このHP PrintOSX が決め手となるケースも増えています。

―― 様々なアプリケーションがあるということですが、特徴的なものを教えてください。

田口 HP PrintOSX の特徴的なアプリケーションについては、こちらの記事で解説しています。

 今日ここでは、各機能の説明ではなく、お客様による実際の活用事例から、HP PrintOSX がデジタル印刷ビジネスのスケールにどう役立つのか、という観点でお話ししたいと思います。

―― デジタル印刷でビジネスをスケールさせる、とはどういうことでしょうか?

田口 それを考える上で、まずデジタル印刷機の特徴と、印刷業界を取り巻く市場環境を十分に理解する必要があります。

 デジタル印刷機の特徴として一般的に言われることは、「多品種・少量生産」に向いているという点です。従来の「少品種・大量生産」に向いているアナログ印刷機とは真逆の特徴であり、それぞれの違いを深く十分に理解することが重要です。

 前回の記事でもありましたが、デジタル印刷機をアナログ印刷機と同じ尺度で捉えてしまうと、失敗に陥りがちです。営業がお客様にコンタクトして見積作成し、受注した後、そこから印刷データをおこして校正、お客様への確認と修正を繰り返して工場での生産工程に入る。従来のオフセット印刷では、このようなフローを受注から納品まで進めていたと思いますが、それが小ロットで仮に一案件の売り上げが10万円では、ビジネスとして損益上成立しません。なぜなら、工程毎にスタッフが従事していると固定費がかかり、小さな売上では到底吸収できないからです。

デジタルプレス事業本部 ビジネス開発部 部長 田口兼多氏

 一方で印刷版を必要とせず、リードタイムがアナログ印刷機より圧倒的に短いデジタル印刷機なら、極端な話、1日当たり数十万件でも受注・生産できます。仮に1件あたりの単価が数千円だったとしても、数十万件のオーダーに対応できれば、全体の売り上げは1日で億を超えます。

 これが、デジタル印刷機を活用してビジネスをスケールさせる典型的なパターンです。

 そして、もう1つ考えるべきことは「印刷業界を取り巻く市場環境」です。印刷業界だけを見れば、日本市場は縮小が続いています。しかし、印刷物に対するニーズが無くなったわけではありません。特に、パーソナライズやカスタマイズ商品に対する需要は、若い世代を中心に高まり続けています。

 ある調査では、消費者の70%はパーソナライズされた商品にもっとお金を出せると回答していますし、また、若い世代においてはパーソナライズ商品に対するニーズは2016年と比較して約55%増加しているというリサーチ結果もあります。

 パーソナライズされた商品に対する消費者ニーズの高まりは、印刷会社にとって大きなチャンスになるはずです。

 しかし、パーソナライズ商品というのは、多くの場合、1件あたりの受注単価は低い上、印刷・加工するための製造工数もかかってしまう。ニーズはあり、デジタル印刷を活用すれば製造はできるが、印刷会社が儲からない、ということでは成立しません。そこで、この課題を解決するためにHP PrintOSX を活用します。

あるユーザーでは、1日あたり40万の印刷ジョブに対応

―― 多くのジョブ数に対応するためにHP PrintOSX をどう活用するのでしょうか。

田口 HP PrintOSX のアプリケーションの一つである「Site Flow(サイトフロー)」と「Composer(コンポーザー)」を利用します。

 「Site Flow」は印刷ジョブの受注から発送までの印刷生産工程を自動化する管理ツールで、「Composer」はクラウド上で可変デザインを生成するツールです。この2つを組み合わせることで、人手(タッチポイント)と管理工数を最小限に保ちながら、多量の印刷ジョブに対応することができます。

 海外のあるお客様では「Site Flow」を利用して1日に40万ジョブに対応したという実績があります。これはテストの数字ではなく、Indigoユーザーが実際に成し遂げた実績です。このお客様の処理量は年間約900万ジョブにまで到達しており、日本の現状から見ると驚くべき数字です。HP Indigoデジタル印刷機の生産性と、HP PrintOSX を上手く活用することで、このレベルまで実現できるという事実があるので、同じ設備を持つ他のユーザーは希望が持てるのではないかと思います。

仲田 他にも海外のお客様の事例では、一つひとつの絵柄が異なるペットボトルのシュリンクラベルを2週間で320万本製造した事例があります。一つずつ絵柄が異なるので、デザインの数も当然、320万通り生成しています。

 ここでもHP PrintOSX の「Composer」を使用して、可変デザインの生成を行っています。この事例では、元となるデザイン(デザイナーが制作するデザイン)は11種類で、その11種類を可変デザイン生成ソフトにかけて、自動で320万種類のデザインを生成しています。

 アクアドールのキャンペーンでは、実際に320万枚のユニークラベルが使用されました。

―― DTPオペレーターが人海戦術で対応していては対応できない量ですね。

田口 先程ご紹介した一日に40万ジョブに対応したというケースもそうですが、人海戦術での対応では、到底成し得ない数字です。人海戦術に頼っている限りデジタル印刷ビジネスでのスケールは難しいでしょう。テクノロジーを制さなければ、このような世界のユーザーに肩を並べることはできません。

 人手に頼りがちな工程で、「Site Flow」が役立つケースを1つご紹介したいと思います。

 「Site Flow」には「バッチ(一束、一塊という意味)」という機能があります。これは数千・数万ものオーダーに対して、事前に決めた条件やルールを元に、それらをあたかも一つの大きな塊として捉え、ひとつのジョブとして生産できるようにする機能です。

 例えばフォトブックは「表紙」と「本身」から成り、それぞれ用紙、加工方法が異なります。「Site Flow」ではまずフォトブックを「表紙」と「本身」の部品から成る製品と定義し、更に部品ごとに用紙情報や加工プロセスといった属性情報も予め定義します。

 そして入ってきた数多のオーダーを表紙は表紙だけで集めて1つの塊にし、中身は中身で集めて塊にして、それぞれの生産工程を進めていきます。アセンブリ工程で各部品に付加されたバーコードをもとにマッチングさせて最終製品にし、更に注文情報と照合して出荷できる状態にします。この一連の流れの自動化とステータス管理を行うのが「Site Flow」です。

 また、複数の印刷機を持っている場合、印刷機の稼働状況などを踏まえてジョブを他の印刷機へ自動で振り直すことも可能です。例えばHP Indigo 7900とHP Indigo 12000を所有していて、7900の稼働に余裕がなければ、12000にジョブを流す。もちろん面付けも自動的に切替えます。これも、通常ならマニュアルで行っていた作業ですが、「Site Flow」で自動化できます。

全世界がビジネスのフィールドに

―― 他に、HP PrintOSX を活用した事例を教えてください。

田口 アメリカのブルーミングカラー社のビジネス開発がとても興味深いのでご紹介します。

 この会社は、2009年にIndigoを導入し、コンシューマー向けにフォトタイル商品を提供するため、自社でスマホ用のアプリとウェブサイトを開発しました。それを「Site Flow」と連携して受注から発送まで一連の印刷工程を自動化し、ビジネスをスケールさせることに成功しています。

 今では世界中でビジネスを展開し、各地域でHP Indigoデジタル印刷機と「Site Flow」を導入済の印刷会社を製造パートナーにしています。

―― HP PrintOSX があれば、他社が持つIndigoとつなぐことができるのでしょうか?

田口 はい、そうです。HP PrintOSX は協業を促すプラットフォームでもあります。前述のブルーミングカラー社はコンシューマー向けサービス事業者という位置づけになりますが、このようなサービス事業者は「Site Flow」を導入している印刷会社と比較的容易に接続できるようになっています。もちろん事前に条件面等の話し合いは必要ですが、テクノロジーの観点では何の支障もありません。国や地域も問いませんのでサービス事業者は非常に短期間にHPデジタル印刷機ユーザーと協業することで、世界中に製造拠点を確立することが可能になります。これもHP PrintOSX の大きなメリットの一つです。

 今の時代、iOSやAndroid向けのアプリを開発して成功すれば、サービスに国境がないケースでは一気に世界展開されることもあります。自社で開発したアプリがある国や地域で人気が出て、出力サービスをその国や地域のIndigoユーザーで対応して発送する。このような連携も世界の至る所で実際に起こっています。

―― これもビジネスをスケールさせる大きな要因になりそうです。日本の印刷会社でも海外企業と提携した事例はあるのでしょうか?

田口 最近、日本でパートナーを探して欲しいとアメリカやヨーロッパのサービス事業者、またはHPユーザーから問い合わせが入るようになり、国内のHPデジタル印刷機導入企業と提携しビジネスが生まれています。日本も「失われた30年」と言われていますが、世界で見れば、まだGDP3位の経済大国であり、海外企業は日本でのビジネス展開を狙っているようです。

―― 配送のコスト削減にもつながりそうです。

田口 そうですね、加えて環境負荷の低減も期待できます。商品や印刷物を長距離輸送して航空機や自動車などを使うと、CO2排出の原因になります。しかし「Site Flow」で連携し、現地のユーザーに印刷データを送って印刷すれば、CO2排出量が最小限になり、サステナビリティに貢献できます。

 日本でも、政府が肝煎りでカーボンニュートラルな社会づくりを進めていますが、ヨーロッパなどはさらに進んでいます。今後、このような観点からもHP PrintOSX の活用が更に進むと考えています。

―― 一方で、最近問題になっている企業へのサイバー攻撃など、データをクラウドで共有する際のセキュリティ面は問題ないのでしょうか?

田口 HP PrintOSX のセキュリティは盤石です。グローバルで展開しているサービスなので、セキュリティが最も厳しい地域の規制に準拠して環境を整えており、ヨーロッパの個人データやプライバシーの保護規則にも対応しています。

 これは、ITの分野で長年知見を蓄積してきたHPだからこそできることだと思います。HP PrintOSX に接続する全てのお客様に、安心してお使いいただけます。

日本から世界にイノベーションを起こしたい。全ては、カスタマーサクセスのために

―― 2回にわたりHPのビジネス開発についてお聞きしてきました。最後にお二人から、日本のお客様とともに目指すことを改めてお聞かせください。

仲田 国内外の「ネットワーキング」、デジタル印刷を活用した各社の「強みの再定義」、とあらゆる面での「スピードアップ」の3つです。HPはこれらを実現するための環境を用意していますし、前回お話ししたとおり、私たちビジネス開発部が伴走することで、ユーザーのみなさまと共に一つひとつの取組みを形にし、成果を出す支援をしていきます。

田口 「情報発信」の重要性をお伝えしていきたいと思います。先ほど海外のサービス事業者、印刷会社が日本で印刷パートナーを探しているというお話をしましたが、自ら情報発信しないことには発見してもらえません。自社の強み・特徴をどんどん発信して頂き、日本のお客様がグローバルにビジネスを展開するサポートもしていきたいと思います。

HP デジタル印刷機
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