2020.11.12

東光工業「HP Indigo 6r デジタル印刷機」で挑む新規分野

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 (株)東光工業(東京都日野市旭が丘、☏042・584・5531)は、HP Indigoデジタル印刷機の先代シリーズである「オムニアス」を24年前に導入して以来、機種を更新し続け、デジタル印刷を活用したビジネス展開を行っている企業。今年1月に同社として5代目となる電子写真方式のデジタル印刷機「HP Indigo 6r」を導入し、ホログラム基材などを生かした新規分野への進出を図る。長年にわたってデジタル印刷機を活用する中で得た知見や使用感について、代表取締役の村上義輝社長と製造グループ統括の取締役、村上剛専務に話を聞いた。

村上 義輝社長(右)村上 剛専務

村上 義輝社長(右)村上 剛専務

― ― 貴社の概要から教えてください

専務 創業時から銘板印刷を手がけており、印刷方式はスクリーン印刷などに加えてデジタル印刷も併せてそろえています。コストや納期の要求に対し、両方式の得意な点を比較して最適な提案が可能です。

社長 工業系以外の仕事の割合としてはアミューズメント関連の印刷物が多く、ホログラム基材に印刷後、パウチ加工を施した挿し札を12年ほど前から製造しています。ホログラムの挿し札は当社が初めて開発したもので、それまでは基材の反射でセンサーが読み取れないほか、コシも弱く静電気の問題で詰まってしまうなどの課題がありました。ロール・ツー・ロールのデジタル印刷機でこうした課題を解消していき、当時1枚200円ほどで販売されていた挿し札に対して、ホログラム基材で付加価値をつけた当社製は600円で販売。販売代理店からは高すぎて売れないと言われましたが「スーパーマーケットで買い物する人もいれば高級デパートで買いたい人もいるのでは」と提案し、カタログの隅っこに掲載してもらったところ、翌日から注文が入るようになりました。デジタル印刷で100枚、1000枚といった小ロット対応を行っています。

アミューズメント施設に納めるホログラム基材の挿し札

アミューズメント施設に納めるホログラム基材の挿し札

― ― デジタル印刷で対応するメリットとは

専務 アミューズメント施設では新規開店時に筐体(きょうたい)などの設備をそろえた後、最後に装飾品を発注するので納期に余裕がない傾向にあります。また、既存の店舗でも営業時間後に打ち合わせが行われ深夜1、2時に入稿データが送られて来ることも以前はありました。オフセットなどで版を用意していたら間に合いませんから、データ入稿後、即日や2、3日以内に納品といった即納ニーズにデジタル印刷が合致しています。全国様々な店舗でご採用いただいており、本当に急ぎのケースでは九州から朝イチの新幹線に乗って取りに来られることもありました。

社長 一つの例として、月曜日に開店という店舗に、役員らが土曜日に視察へやってきて「ここに装飾があれば」と話すわけです。こうしたぎりぎりのタイミングでの思い付きをすぐに形にできるものとして、挿し札の仕事が生まれていきました。

専務 店舗側で挿し札を用意しようとする場合、複合機で出力した紙を厚紙へ貼り付けるといった作業が必要で、ハサミで型抜きしていたようです。1000枚ともなれば手間と時間もかかるため、ホログラムで見栄えがよく加工まで施した当社の提案が受け入れられたのでしょう。

― ― 顧客から品質面などの要望はありましたか

社長 Indigoの進化が進み改善されましたが、当時は基材にスジのような傷が入ってしまうことがありました。お客さまに対して、この品質ならば3日で出荷できますがとお話しして、品質・コストにご納得いただいた方にだけ提供し、折り合いがつかなければそれまで。あれもこれもと無理に対応しようとするのではなく、当社の条件に合わせていただいていましたね。

専務 競合他社が参入してくれば事情も違っていたのかもしれませんが、インクジェット方式のデジタル印刷機を活用した他社の挿し札では、インクの凹凸でパウチ後に気泡が生じるといった品質面で課題があったようです。

社長 つくづくIndigoデジタル印刷機抜きにはできなかった仕事だと思っています。おかげで最盛期は「HP Indigo WS2000」3台を3交代制でフル稼働。アミューズメント施設関連の年間売上高は、6億円に上っていました。

Indigo更新の背景

― ― 初代オムニアスから今回のHP Indigo 6rに至るまで更新を続けてきた理由は

社長 オムニアスからIndigoの後継機、続いてWS2000、そして「HP Indigo WS4500」を設置し、1月に6rへ入れ替えた次第です。確固たる目的があって導入したと言えれば格好よかったのですが、6rの価格が予算に合っていたという事情があります。

「HP Indigo 6r」で印刷を担う

「HP Indigo 6r」で印刷を担う

 従来通りの高品質で印刷ができ、「HP Indigo 6900」と比べて価格を大幅に抑えている点が決め手でした。

専務 もちろん他社のデジタル印刷機も複数検討しましたが、当社がメーンに扱っているホログラム基材への印刷ができるのはHP Indigoだけでした。他社製はどうしても静電気が原因で基材が詰まってしまい、検証センターで1カ月がかりで試してもらっても難しいとの返答でした。

社長 実はIndigo印刷機でも、挿し札の製造を始めた当時は、ホログラム基材は推奨されていませんでしたが、挑戦を重ねました。

― ― 印刷の適性検査などを自社で行ったということでしょうか

専務 ホログラムに印刷しても、トナーが剥がれてしまっていました。セロハンテープを貼って引っ張るとキレイにトナー部分だけが剥離してしまうありさまで、どうしたものかと。

社長 当社に化学に明るい社員がおりまして、彼がドイツからさまざまな薬剤を取り寄せて調合を重ねた末に、トナーが定着するコーティング剤を生み出したのです。ホログラムにデジタル印刷ができるようになれば大きな仕事を獲得できるとの思いで開発を進めてもらい、結果として全国規模で挿し札を展開できるようになりました。その後、HPと協議して当社で問題がなければ、と了解を得ました。現行モデルのIndigoは、素材への印刷適正を高めるプライマーユニットが標準搭載されているため、自社開発品以外の基材でも制限なく印刷できるようになっています。コーティング剤を自社で用意すると最低4000平方㍍からといった最小ロットの制約もなくなりました。

新規事業の創出へ

― ― 6rの稼働状況は

社長 装飾物に関して2015年に規制が敷かれ、挿し札の需要も減少してしまいました。地域によってはまだ挿し札を使用できるところもありますが、徐々に規制が広がっていき、直近ではコロナ禍でさらに需要が減少。6rの稼働率は、最盛期のIndigo稼働状況から比べると5割に満たないほどです。

専務 新たな仕事の獲得に向けて、4年ほど前からカード印刷に着手しています。キャラクターグッズやアーティストのブロマイドなどを手がけており、多品種小ロットで柔軟な対応が可能なデジタル印刷と相性がいいと感じています。

社長 これまでは光沢のある紙素材を使用していたようで、ホログラムのサンプルを持っていくと評判がいいですね。カードの売り上げは徐々に伸びています。

専務 コロナ禍のイベント規制で影響を受けていますが、ご採用いただいた製品が口コミで評価されてご相談が舞い込むことも増えてきました。今後、イベントの規制緩和に期待しています。

ホログラムへの印刷に長年取り組み活用ノウハウを蓄える

ホログラムへの印刷に長年取り組み活用ノウハウを蓄える

― ― デジタル印刷機のそのほかの活用事例は

専務 資料や販促品などを入れられるフィルム素材の手提げ袋の製造も始めました。印刷は6rで、加工は既存設備を流用しています。

社長 ウェブ上で競合他社のフィルム素材の手提げ袋の価格を調べてみると、フレキソやオフセット方式で版代は別途といった企業が多く、デジタル印刷を生かしたコストやロットで優位性があるのではないかと思います。

専務 カードの厚みを増してキーホルダーにしたり、ホログラムの缶バッジも新たに製造を始めたりするなど、手提げ袋と併せて提案しています。市場をリサーチしてみると、アーティストのグッズでカードと手提げ袋がセット価格1500円というものもあり、即日完売し転売されるほど人気とのこと。お客さまの要望に応じて当社の技術とデジタル印刷を組み合わせ、付加価値の高い商材を開発していきたいですね。

ホログラムを生かしたカードや缶バッジのほか、手提げ袋も新たに開発

ホログラムを生かしたカードや缶バッジのほか、手提げ袋も新たに開発

社長 背景には、ラベルだけを納めるのでは仕事が減少していくとの危機感があります。一つの例ですが、以前は月に100万枚ほど受けていた得意先からの発注がなくなり、他社に切り替えたのかと思っていました。ある時、たまたまそのお客さまの工場見学会に参加した際、当社で刷っていたラベルを卓上プリンタによって内製化している光景を目の当たりにしました。今後、こうした効率化を目的とした内製化が増えていくことを考えると、新たな事業に踏み出さねばなりません。

デジタル印刷の今後

― ― 長年にわたるユーザーとしてHP Indigoシリーズに対する所感などを

社長 20年前、オムニアスを導入した時もラベル新聞に記事が掲載されたのですが、同業他社から「あんな機械を買うなんで、半年ももたないぞ」と脅かされたものです。実際、印刷品質には難があり、お客さまから「これでは仕事は出せない」ときっぱり断られてしまいました。本当につぶれてしまうかもしれないなと思う中で、アップグレードを経て印刷品質が上がり、初めて売れる製品が刷れるまでに2年かかりました。

専務 10年ほど前に「ラベルエキスポアメリカ」へ視察に行った際、現地でIndigoの印刷量の世界ランキングが発表されていました。WS2000を活用して挿し札を製造していた当社が上位に入賞しており、来場者から「あの日本の会社は何者なのだろう」と不思議がられたようです。当時、デジタル印刷機は校正に使うもので、生産機として活用している企業はごく少数なのだと実感しましたね。

社長 正直な話、もう機械を出してしまおうかと何度も考えましたが、徐々に採用件数が増えていき、軌道に乗っていきました。先ほどもお話しした通り、HP Indigoがなければ受注できていなかった仕事もあります。 今でもデジタル印刷の特性をご存じないお客さまは多いと感じていますが、フルバリアブルで可変情報が刷れるなどの利便性を伝えて、デジタル印刷のメリットをご理解いただけるように努めています。

既存の加工機を活用して新たなアプリケーション開発に挑戦

既存の加工機を活用して新たなアプリケーション開発に挑戦

― ― 使い勝手などの要望はありますか

専務 オムニアスはメンテナンスが煩雑で、トナーが沈殿して固まってしまわないように空回しが必要でした。それが代を重ねるごとに簡素化され、オペレーターの負担が目に見えて減少しています。印刷速度もオムニアスから3倍ほど速くなっていますし、生産機として見合うマシンになっていると感じます。

社長 デジタル印刷機全般に言えることですが、コンベンショナル機と同等とまでは言わないものの、耐用年数がより延びればいいのですが。

― ― 最後に、今後の展望を聞かせてください

専務 ホログラムを活用した印刷物の採用実績を伸ばし、当社の知名度を上げていきたいです。以前、ある新年会でホログラム名刺を営業が持っていったところ注目いただき、飲食関係で採用されました。まだまだ横展開できる分野があると思いますので、幅広い提案を行っていきます。

社長 デジタル印刷機が市場に登場した当時から活用している企業としてノウハウを生かし、苦労はありましたが、これからもHP Indigoを活用してお客さまのニーズに沿った印刷物を製造していきます。

【本記事は ラベル新聞 が制作しました】

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