掲載日:2022/09/09

従来コストセンターだった物流機能を収益源に。ギャップが3PLサービス事業に参入、他 - :ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.25

ギャップが3PLサービス事業に参入


ギャップのカリフォルニア州フレスノのフルフィルメントセンター 出典:ギャップ社 ギャップのカリフォルニア州フレスノのフルフィルメントセンター 出典:ギャップ社

 

 6月号でカジュアルウェア専門店チェーンのアメリカンイーグルアウトフィッターズが自社のロジスティクスとフルフィルメント機能をサービスとして他社に提供する事例をご紹介したが、8月には衣料品専門店最大手のギャップが同様に3PL[1]事業に参入を発表した。

 「GPSプラットフォームサービス・バイ・ギャップ社」はB2C、B2B両方を対象に以下のサービスを提供する。

  • オムニチャネルEコマース向け、およびB2B向けフルフィルメント:アマゾン、ショッピファイ他のメジャーなEコマースプラットフォームとのAPIインテグレーションをクライアント企業が直接自ら実行できるセルフサービス・ポータルを提供。また全米13拠点の物流網の利用が可能。
  • 保管および倉庫業務:短期でフレキシブルなリース契約で、出荷・配送業務も支援。
  •  配送:翌日および2日配送、海外配送を提供。
  • 返品および購買後の顧客経験の支援:返品プロセスや購入後の顧客サービスをプラットフォーム上で一元管理。

ギャップでは全米13か所のディストリビューションセンター(DC)で9,000人以上の従業員が年間10億点の商品をプロセスしている。納品された商品は24時間以内に保管・出荷可能となり、午後3時までに処理されたオーダーは同日中に出荷される。オーダープロセスの精度は99.8%で、オーダーの99%は予定通りに出荷されている。

 

[1] 物流業務の委託サービス


3PL事業構築のための投資

倉庫内ロボット 出典:ギャップ社 倉庫内ロボット 出典:ギャップ社

 

  同社は昨年1億ドル以上を投資してテネシー州内に新規フルフィルメントセンター開設および既存DCの拡張し、テキサス州に顧客経験センターを開設した。今年もカリフォルニア州、ニューヨーク州のDC拡張を計画している。またAIやロボティクスへの投資も盛んで、昨年10月にはリテールAIと機械学習プラットフォームの開発企業、コンテクストベースト4キャスティング(CB4)社を買収し、精度の高い需要・売上予測が可能となっている。このCB4はギャップだけでなくリーバイス、アーバンアウトフィッターズ、食品ディスカウンターのリドル等にもライセンス契約を通じて提供している。

 米国小売業界では、自社店舗、ウェブサイト等を広告媒体として食品メーカー等にサービス提供するリテールメディア事業への参入が相次いでおり、ウォルマート、ウォルグリーンズ、クロ―ガ―、ターゲット等主要企業は物販に次ぐ収入源として構築を急いでいる。また、ウォルマートは自社のラストマイル配送を他社にも利用してもらえる「ウォルマート・ゴーローカル」サービス事業を開始し、ホームデポ等の大手も活用している。このように従来小売企業にとってコストセンターだった物流機能や店舗・ウェブサイトなどの販売機能を収益源に転換する動きは今後も加速しそうだ。

 






キャンプとH&Mのコラボイベントで子供たちにサステナブル教育

中で古着を使って玩具などにアップサイクルするザ・スタイル・キャビン。出典:キャンプ社、H&M社 中で古着を使って玩具などにアップサイクルするザ・スタイル・キャビン。出典:キャンプ社、H&M社

 

 家族向けのエンターテイメントと物販を融合させた新業態、キャンプは8~12週間ごとに家族で楽しめ、教育的な要素もあるイベントを店内で開催しているが、7月13日から9月5日までマンハッタン、コロンバスサークル店でH&Mとコラボしたサステナビリティをテーマとしたイベントを開催した。

 「ザ・スタイル・キャビン(The Style Cabin)」では、子供たちが自宅から持ち込んだ古着もしくはH&Mが提供する生地やアクセサリーが入ったトートバッグの素材を使って、自分たちでおもちゃやネックレス、ヘアアクセサリー等を作るアップサイクルなクラフトアートを、同店のカウンセラーのガイドのもとに制作する。これによって、モノを大切にし、廃棄を減らす方法を学ぶ。またH&Mではキャンプと同じフロアにあるH&M店内のリサイクルボックスに古着を持ち込み、リサイクルにまわすことも推奨している。

 「ザ・アップサイクラー(The Upcycler)」はモニター付きの発電式自転車(写真)で、足や手でペダルをこいで生み出す動力を、子供たちにサステナビリティを教育する非営利団体プロジェクト・ラーニング・ツリー(Project Learning Tree)に寄付することができる。店舗を視察した際には、夏休みだったため、平日の午前中でもサイクリングをする親子を見かけた。また店内には買い物客や常設の遊戯物で遊ぶ子供たちはいたが、就学前の子供たちが多かったためか、スタイルキャビンで制作する子供は見かけなかった。

ザ・アップサイクラー 出典:キャンプ社、H&M社 ザ・アップサイクラー 出典:キャンプ社、H&M社

 

 キャンプは、子供たちが喜びそうなデザインの滑り台や遊戯施設の下にミレニアル世代の若い親が好みそうな教育的でスタイリッシュな玩具を陳列する店で、エンターテイメントと物販をシームレスに一体化しており、子供を遊ばせているうちについ玩具を買ってしまう。おしゃれなバースデーパーティのプレゼントを買う店としても人気があり、2店舗を持つマンハッタン内では家族がキャンプの紙袋を持って歩く姿をよく見かけるようになった。同社は2018年12月にマンハッタンで操業して瞬く間にメディアの注目を集めたが、2020年夏には都市封鎖中のファミリー向けヴァーチャルイベントやウォルマートとのコラボで駐車場を利用した屋外イベントを行い、全米での知名度も広げていった。今年5月23日からはマンハッタン5番街旗艦店でディズニー社と提携して「ミッキー&フレンズxキャンプ」イベントを開催し、等身大の万華鏡の中に入ったり、巨大なターンテーブルの上で曲を作ったり、といった体験を提供している。

 キャンプはディズニーランドのような経験を、小型化して人口密度が高く観光客も多い大都市商圏への参入を果たした戦略性が評価されている。

 






完全ロボットのみのレストラン、メズリが出店拡大

 

 カリフォルニア州サンマテオを拠点とするスタートアップ企業メズリ(Mezli)社は8月28日に、完全無人のロボットレストランを開業した。同店が提供するのはヘルシーな地中海料理のボウル料理(ご飯・穀類等を器の下に敷き、その上に肉・魚、野菜、豆類等を載せてソースをかけて味をつける、日本の丼料理のような料理)と副菜、飲料を販売する。コンテナーのような施設内ではロボットが自動的に調理し、販売するが、このシステムを開発したのはスタンフォード大学大学院卒業生で、今人気のレストランチェーン、スィートグリーンやチポレ等で提供している料理はヘルシーで美味しいが価格が高い点を解決するため、完全無人のロボット調理システムを開発した。レシピはミシュラン星を持つシェフ、エリック・ミニック氏が制作している。

 同社は昨年ポップアップレストランを出店・営業し、改良を重ねてきた。従来のロボットを活用したレストランでは人間がどこかしらで関与している、または非常にシンプルな料理しか提供できなかったが、同社のキッチンは完全無人なのに手の込んだものを調理できる点が特徴だ。メニューは野菜と豆類のボウルが$6.99で、鶏肉やラム肉と野菜のボウルは$10.99、同市内のスィートグリーンでは同様のメニューが$12.45、$14.45だ。メニューには自分で好きな素材とソースを選ぶ完全カスタムメードも提供している。

 現在ロボットは1時間に約75食を調理でき、顧客がコンテナーのオーダー用スクリーンでオーダーしてから数分で完成するという。キッチンは完全無人であるものの、素材は別の場所にあるキッチン内で人間のシェフが予備調理し、これを冷凍してロボットキッチンに運び、所定の場所にセットする。ここから自動的に加熱・解凍や必要な調理をしながら、ベルトコンベヤーの上の器にオーダーされたものを自動的に順番に詰めていく。完成品を受けとったら、顧客は自分で受け取り口の下にあるカトラリーや蓋、紙袋を取り出してテークアウトする。

★ロボットの調理の様子はこちら:https://www.mezli.com/

 まだ筆者は実際に食べていないので味についてはコメントできないが、カジュアルなレストランチェーンの多くは事前調理したものを各店舗で再加熱などをして器に詰めるだけなので、ボウル料理なら比較的味に差は出にくいかもしれない。今後改良を重ねれば、より複雑な料理も自動化できそうだ。






ウォルマートがキャンプ場に店舗「ゼネラルストア」をオープン

ウォルマートの「ザ・ゼネラルストア」 出典:ゲッタウェイ社 ウォルマートの「ザ・ゼネラルストア」 出典:ゲッタウェイ社

 

 コロナによる精神的なストレスは誰もが感じていることだろうが、既に2年半が過ぎ「誰にも遠慮せずマスクを外し、大自然の中で深呼吸し、日常生活を完全に忘れることができる小旅行」がじわじわと広がっている。ゲッタウェイ(Getaway)社はこのニーズに対応し、ニューヨーク、ボストン、ロサンジェルス等大都市から自動車で2時間以内の拠点にアウトポストと呼ぶ、ミニキャビン(小さな山小屋)が数十件点在するキャンプ場のような宿泊設備を経営している。大都市から近い上に、13 ~19㎡のキャビンにはエアコン、キッチン、シャワールーム、高品質フォームマットレスのベッド等、都市生活者が必要とする快適な生活設備が整っていて、キャンプ場での不便さはすべて削除されている。ただしwifiは無く、携帯電話の着信も弱い場合が多いそうだが、非常用電話は備わっている。ベッドのすぐ横には大きな窓があり、自然に囲まれながら寝る雰囲気を味わえるが、虫や獣の侵入を心配する必要はない。また屋外にはキャンプファイヤーの設備が備わっている。週末に1泊か2泊、気軽に宿泊にきて、日常生活を完全に遮断して自然の中で散策したり、読書やヨガ、瞑想、あるいは何もしないでぼーっとすることで心身のウェルネスを促進するのが同社が目指すところだ。

 同社は2015年にニューヨーク、ブルックリンに創業したがコロナ禍によって需要が増え、現在全米に19アウトポスト、784キャビンを運営し、企業価値は1億ドル以上、累積8,150万ドルの資金調達を果たしている。この新たな「手軽な日常生活からの逃避旅行」という市場に目を付け、ウォルマートは7月、アウトポストに超小型小売店舗「ザ・ゼネラルストア(The General Store)」を開業した。店内ではハイキング用品、レジャー用品、キャンプファイヤー用品、パーソナルケア用品、フジフィルムのポラロイドカメラなど、うっかり忘れそうな品、あれば嬉しい品をそろえており、せっかくの逃避旅行なのに下界のウォルマートに買い物に出なければならないという興ざめを防いでいる。同店舗では地元のローカルブランド製品も販売し、コミュニティの経済に貢献している。また同じ商品をwalmart.com/shop/getaway でも販売しており、事前購入もできる。

 筆者も早速試してみようと考え、ゲッタウェイのサイトを見たが、ニューヨーク市内から2時間程度の高級カントリーハウスが集まるキャッツキルのアウトポストは一泊$199から。週末は$399だ。この地域だと家のレンタルは週か月単位しかないので、一泊から可能なのはありがたいが、ただボーっとするだけのために払うにしては結構な値段ではある。しかし、このような高所得者を対象とするような市場にウォルマートがいち早く参入した点は興味深い。ウォルマートはオンラインで高所得者にもリーチし始めており、これもプラスのコロナ・エフェクトなのだろうか。

 

同店内の様子 出典:ゲッタウェイ社 同店内の様子 出典:ゲッタウェイ社






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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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